第45話 帝国と皇帝8

 工業と技術の最先端の帝国の首都という事だけ有って工芸品の店が多く、ティアの興味の引かれるようなアクセサリーの店もあった。

「凄く綺麗」

 宝石のように輝く金属の鳥の入ったショーウィンドを眺めてティアが目を輝かせながら呟く。

「そうだな。金属をこれだけ加工できるのは凄いな。入ってみるか?」

「えっ? いいのですか?」

「ああ。俺も他の作品見たい」

 ティアと共に店の中に入る。

 店の中は中年女性がカウンターで優しそうな表情で客を待つ落ち着いた雰囲気だった。明るい照明に照らされた黒い木の商品棚の上には作られたオブジェが並んでいた。

「いらっしゃい」

 二人の姿を見ると女性は優しげに微笑む。

「こんにちは。帝国の技術は凄いですね」

「おや。外国から来たのかい?」

「はい。皇帝陛下からのお仕事で」

「イングリットちゃんの? ああっ!! 魔獣の巣を壊した共和国の英雄ね」

「えっ、あ。はい。こちらのレンくんがそうです」

 イングリットのことを帝国国民である女性が名前で呼んでいたのでティアは少々驚く。

「若いのに大したもんだねぇ。ちょっと待てってね。うちの人を呼んでくるから」

 そう言うと女性は店の奥へ行ってしまう。

 仕方がないので二人はそのまま待っていると職人の筋肉質な中年男性が慌てて出てくる。

「共和国の英雄が来たって!!」

 思ったよりも大きな声だったので二人は少しだけ後ろに仰け反る。

「ごめんなさいね。うちの人声大きいから」

「いえ。そのそんなに急いでどうしたのですか?」

「この人、イングリットちゃんのこと、娘のように可愛がっていたから。脅迫文を書いた犯人を捕まえにやってきた共和国人と話したいってずっと言っていたから」

「そうなんですか。あっ。私はティアです。こちらがレンくんです」

「あたしはベルタ。こっちが夫のカールよ。ここの商品は全部カールが作っているのよ」

「凄いです。ショーウィンドの金属の鳥が特に綺麗で」

「あれはおひい様のお気に入りだ」

「グリットちゃんもこの店に来るんですか?」

「半年前まではよく来たんだけどね」

「「……」」

 半年前までよく来たという言葉にティアとレンは顔を見合わせる。

「半年前に何かあったのですか?」

「過労で病気になって倒れたんだよ。生死をさまよったとかでお忍びの外出を禁止になったんだよ。イングリットちゃん、街に出ていろんな店を見て回るの好きだったんだけど」

「なるほど。変装とかで見回っていないのか?」

「そうだったら良かったんだけどね」

 ベルタはそう言いながらかなり寂しそうな表情をする。そんな妻の肩を抱いてレンに頼み込むカール。

「なあ。レン。いやレン様よ。ただでさえ皇帝の仕事で大変なのに脅迫だなんて可哀想だ。犯人を絶対に捕まえてくれないか」

「任された仕事だしっかりこなす」

「ありがとう。そ、そうだ。少し待っていてくれ」

 カールは店の奥に戻ると鞘に入ったナイフを持ってくる。

「これは?」

「ナイフとして物を斬ることはできないけど刃で触れた物の魔力を吸い取る」

 カールがナイフを鞘から抜くと宝石でできた刃が姿を見せる。

「これを渡す。だからおひい様を助けてくれ」

 差し出されたナイフをレンは受け取る。

「ああ。任せろ。ただ、これはきっと切り札になる。俺が持っているより相手の意表を突けるからティアが持っていてくれ」

「わかりました」

 ティアはレンから受け取ると大事そうに服のナイフポケットにしまう。

「だが今は買い物に来ている。商品を見させてくれないか?」

「ああ。そうだね」

 ティアとレンは店の中を歩いて商品を眺める。

 するとティアがアクセサリーの前で止まる。

「気に入った物を見つけたか?」

「このペンダント、ペアなんです」

 ティアが見せてきたのは二つで一つの月になる大小のシルバーのペンダント。

 これを二人でつけたいということだろう。

「首か」

「はい。魔獣討伐の時に指輪とか腕輪よりも邪魔にならないかなって思いまして」

「そうか」

「どうですか? 一緒のペアペンダントをつけているなんて恋人らしくてやりたいのですが」

「いいよ。ペンダント買おう。色はもう二種あるけどこのシルバーでいいのか?」

「はい。他の色よりも私たちらしいじゃないですか。だからこれがいいんです」

「わかった。買おう」

 レンはティアと共にペアペンダントをベルタに渡し料金を払う。

「梱包はどうする?」

「そのままつけていきます」

「そうかい」

 ベルタから小さい方のペンダントを受け取るとレンはティアに近づく。

 ティアは髪を上げてレンに首を見せる、

 ペンダントの留め金を外してティアに着ける。

「どうですか?」

「似合っている」

「えへへ。じゃあ、レンくん少ししゃがんでください」

「わかった」

 ティアはあまり慣れていない手つきでレンの首にペンダントをつける。

「できました」

 レンは立ち上がりつけられたペンダントを見る。

「いいですね」

「そうだな」

 レンとお揃いのペアペンダントが凄く嬉しいというように笑顔を見せていたのでレンはよかったなと微笑む。


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