第44話 帝国と皇帝7

 柔らかい感触が頭の下にある。そしてティアの顔が下から見える。

 これは膝枕なのだろうと理解する。

 ティアの膝枕なのだがレンは気持ちが悪く吐きそうだった。

「レンくん!! 起きたのですね」

 レンが目を覚ましたことに気がつきティアは安心したというように微笑む。

「気分はどうですか?」

「少し頭が痛い。それに少し気持ちが悪い」

「このままでいいので安静にしてください」

「悪い」

 レンは起き上がることができず脱力するとティアはレンの頭を撫でる。

 するとアヒムが声をかけてくる。

「レン殿、目が覚めたようだな。気分は?」

「何回か殺されたような気分です」

「ははは。それもそうです。某がレン殿にしたのは魂に帝国式剣術の技を刻むという物。七回死んだような物です」

「でも剣の動き見えなかったはずなのに技が頭の中に思い浮かびます」

「それが技を伝授された証。あとは自分で技を磨くとなっております」

「わかりました。伝授ありがとうございます」

「某はこの道場を掃除しているので気分が良くなるまでいて構いませんから」

 アヒムは二人を残してその場から去っていった。

 二人っきりになったところでティアはレンの頭を触る。

「ティア?」

 何かあるのではないかと聞いてみる。

 するとティアは少し寂しそうな表情をする。

「帝国に来てから、綺麗な女の人と仲良くしているから少し寂しいです」

「そうか」

 イングリットにシャルロッテ、二人とは気が合う。帝国調べもあるだろうがレンの対応がわかっている。

 レンはティアの頬に手を伸ばすと優しく触れる。

「俺の恋人なのはティアだけだ。ティアだから俺は好きになれた」

「レンくん」

「ティア、大好きだ」

「はいっ」

 ティアは凄く嬉しいというように頬を紅潮させレンの頬に触れる。

 その手を触れたままレンは起き上がるとティアの唇にキスをする。

「んっ」

 暫くの間の時間だった。

 離れるとティアはレンの肩にもたれる。

「あの聞いていいですか?」

「なに?」

「先ほどのアヒムさんが言っていた試練ですがレンくんは何を怖いと思ったのですか?」

「自分だ。記憶を失う前の俺。……きっと、俺は記憶を取り戻したら消える。何もかも失うのが怖いんだ」

「そうですか」

 ティアはレンの腕に強くしがみつく。そして真っ直ぐ信じているというようにはっきりと言う。

「私はレンくんが記憶を戻しても消えないと思います。もしレンくんがいなくなったとしても、私が絶対見つけますから」

「それなら安心だな」

 レンはティアが見つけてくれるなら問題ないとレンの表情が和らぐ。

 ティアがいてくれるならきっと大丈夫。

「よし。気分は良くなった。ティア、帝国の街に出よう」

 レンは立ち上がるとティアに手を差しだす。

 ティアはレンの手を掴み立ち上がる。

「はいっ。どこまでも一緒に」

 二人は道場を出て帝都へ踏み出した。

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