第42話 帝国と皇帝5
帝国滞在二日目。
レンとティアはシャルロッテから教えて貰った帝国式剣術の道場へ来ていた。
「ここですか?」
「シャルロッテから話だとここだ。道順も合っているし」
「ですが」
ティアが本当に合っているのか確かめたくなるのもわかるような道場の外観だった。
百年近く経っているのではないかと思うような傷が多い壁、看板は黒ずんで文字が所々読めなくなっている。
「看板。ほとんど読めないけど剣と道場の前半が書かれている。間違っていないと思うからとりあえず入ろう」
「はい」
ティアは少々怖いようでレンの手を掴み後ろに隠れる。
「よし。入るぞ」
レンは重い扉をゆっくり開ける。
中は清掃が届いているようで埃や汚れは一切ない。
「意外と綺麗ですね。お化け屋敷じゃなくて良かった」
「お化け怖いのか?」
「あはは。そういうの小さい頃に聞いた話で苦手になりまして」
「そうか。お化けか。流石に見たことないな」
「でも、怖いんです」
「わかった。だけど、ここはお化け屋敷じゃないし、師範を探すか」
「はい。すみません。どなたかいませんか?」
道場内に響くようにティアが声を出す。
暫く待っていると奥から比較的大柄な茶髪の男性が出てくる。
二人のことを見て穏やかな笑顔を見せる。だがレンの表情は固くなっていた。
「どうしたんですか?」
「あの人。凄く強い」
「えっ?」
「未熟者ですが剣聖と認めてもらっています」
二人で話していると男性がそう言う。
「剣聖……」
「剣聖って確か剣を極めた達人でしたよね」
「そうだが、ただの剣の達人ってわけではなく超人的な力と感覚を持つ者だ」
「はははっ。他の剣聖はそうかもしれませんが、某はそれほどの力はありませんので。それよりもそなたがレン殿ですな。師より話は聞いております。某はアヒム。師の代わりそなたに技を教えるように言われております」
「師範は?」
「師はこの時期一番弟子の命日で彼の墓に行っていると」
「そうですか。他の門下生は?」
「一番弟子が死んでから師が来なくなり、皆違う場所で某の兄弟弟子から学んでおります」
「今はここで学ぶ者はいないと。でも俺はいいのですか?」
「師よりそなたを最後の弟子とすると言われております。そなたとは縁があるとかで」
「縁?」
「どのような縁なのかは聞いてはおりませんが」
「そうですか」
レンはアヒムが言った縁という物を考える。
師匠は予知ができるという話だった。今ではないが未来の縁でも視たのだろう。
「それではこちらに」
アヒムの案内で二人は道場の奥に進む。
すると、土の床の広がる大広間に出る。
「ここは?」
「訓練場です。師が弟子にすると言っていましたが、一応技を教える前に入門できるのか試練を受けて貰うとここの道場のしきたりで決まっています」
ティアの問いにアヒムは答える。
試練という言葉にレンは覚悟を決めたというように真っ直ぐ見る。
「わかりました。受けさせていただきます」
「木剣を持って、そちらに立ってください」
アヒムの指示通りにレンは立つと向かい合うように木剣の間合いに立つ。
「では、行きます」
アヒムは剣を抜くと目を閉じて中段で構える。
「我は鏡。汝の恐れを見せよ」
アヒムから濃厚な剣圧が放たれて周囲の風景が塗り替わる。
何もない黒い空間。
アヒムのいた場所にレンと同じ顔、同じ姿の男が立っていた。
「お前は……」
「返せ。お前はオレではない」
「ッ!! お前っ」」
「そこにいるべきなのはお前ではなく、オレのはずだ」
レンは目の前にいるレンの正体がわかり悲痛な表情をする。
「お前が持つ剣も、お前が勝ち取った功績も、ティアからの愛情も全部、お前の物じゃない!!」
一番大切な相手の想いまで自分の物だと言うので我慢できないと他の思いを捨て真っ直ぐ敵意を向ける。
「……お前には悪いとは思っている。だけどお前にティアは渡さない。俺はお前を否定する!!」
レンが目の前にいる偽物に対して敵意を見せると偽物の姿が消え黒い空間は元の道場になる。
レンは周囲を見回しどういうものだったのかとアヒムに聞く。
「あれは、自分が最も恐れている物を出すという物。挑むことができれば技を習得する資格を得るというもの。見事挑むことができたようで、これで技を教えることができます」
「よろしくお願いします」
「では参る」
アヒムは剣を両手で握ると大きく息を吸う。
「ハアアアアッ!!」
気迫の籠った声と共にアヒムの周囲に赤い闘気が放出される。
「ッ!!」
思わず後ろに退いてしまうがそれでは意味がないとレンは脚に力を入れて踏みとどまり木剣を持つ手に力を入れる。
その瞬間、アヒムの姿が消える。
七回斬られたことがわかっただけでレンの視界がグラリと傾き、地面に倒れ意識を失った。
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