第41話 帝国と皇帝4
シャルロッテの案内に従ってレンとティアは城の上層部にある部屋へ連れていかれる。
「こちらがレン様、そちらがティア様に使用していただく部屋となっております」
レンは部屋のドアを開ける。
中は落ち着いた雰囲気の客室だった。だがホテルとは違って流石帝国の城内中の客室だと思えるような豪華さがあった。
「変な壺とかないけど布団とかフワフワで」
「見た目よりも機能にこだわるのが帝国流なので」
「なるほど。この部屋、防音はどうなっている?」
「騒いでも外に漏れることはないと思います」
「そうか。この部屋に誰も入れないようにしてくれ。あんたは問題ないが他の奴はこの部屋に入らないように言っといてくれ」
「はい。かしこまりました。ですが何をなさるのですか? 城内で危険な行為をなされるとなると監視を他につけなければなりません」
「依頼の調査。作戦会議をこの部屋でやろうと思っている。調査の資料を置いておくから勝手に入られると困る。今は誰が犯人かわからない状態だからな」
「なるほど。理解しました」
シャルロッテの納得を得たところでレンは椅子に座る。
「レンくん」
「ティア。好きに入ってくれ。作戦会議をするぞ」
「はいっ!!」
ティアは元気よく部屋の中に入って来てレンと向かい合うように座る。
「あの。傷は?」
「問題ない。薄く斬れただけだっただしもう塞がった」
「そうですか。良かったです」
ティアは安心したように笑顔を見せる。
「それで、犯人探しですがどうするのですか?」
「完全に専門外だ。ティアは?」
「探偵のようなことはしたことないです」
「そうか。じゃあ、手探りで考えていくか」
レンはシャルロッテから脅迫文のコピーを受け取るとテーブルの上に置く。
「手がかりはこれだけだ」
「『天幕の儀を止めなければ、皇帝の命はない』ですね」
「インクも紙もイングリットの部屋の物を使っている。指紋もなく、犯人の見つけられる要素はない。この文しかない」
「文のまま読むと犯人は天幕の儀を止めたいと思いますが天幕の儀を止めたい理由がわかりません」
「そうだな」
ティアが疑問に思うように人類が天幕の儀を妨害するメリットがない。
魔獣を防ぐ結界を消せば魔獣が攻め込んでくることとなる。大勢の死者が出るだろう。
帝国が滅んでほしいと願っている国があったとしても、一国が滅んだら残りの二国の負担が増えて人類は滅びるだろう。
「建前で他の目的があるとかですか?」
「帝国側もそう考えているだろう。イングリットの守りを増やすことで手薄となった宝物庫なりそんなところから盗む奴がいるって」
「じゃあ、その人を探すのですか?」
「いや。そっちは帝国が何とかするだろう。ほら、兵が足りないとか言っていただろ? あれはもう配備しているとかで、だから俺たちは文面通り天幕の儀を邪魔するつもりの奴を探す」
「なるほど。でも目星もなくてどう探すつもりですか?」
「……いや、目星はある」
「えっ?」
「犯人は城内の皇帝の私室に入ることができ、部屋の中の紙とインクを使って脅迫文を書いた。それができるのは限られた奴だけ。だろ?」
レンがシャルロッテに確認するとシャルロッテは頷き肯定する。
「でも、筆跡を鑑定したって。帝国もそのことはわかっているから全員調べて合う人がいなかったと」
「そうだな。そうなると筆跡を調べられても問題ないようなプロか、もしくはその部屋に入ることができるような人物になることができて筆跡を調べられていない奴となる」
「プロと変装の上手な人……」
ティアは不安そうな表情を見せる。
帝国の城の中にまで入り込んでいる犯罪者なんて二人でどうこうできる相手ではない。
不安なのも仕方がない。
「ギャングだのマフィアだのだったら手に余る相手だ」
「レンくんの言い方だと帝国は調べているんですか? シャルロッテさん?」
ティアがシャルロッテに聞くとシャルロッテは頷く。
「はい。そういった組織にはすでに調べを入れて関係がないと判明しております。兵も過去を洗い、疑わしい者はいないと結論つけられています」
脅迫文が来て、レンたち二人が来るまでの一か月の間が大きく、帝国が事前に帝国の権力で調べることができることは全て調べている。だがそれでも尻尾を掴んでいない。
そんな相手に二人で何ができるのか。
そのようにティアは考えているのだろう。
「えっと、そうなると私たちにできることはないですよね」
「今はそうだな。とりあえずはメモしておいて休むか」
「はい。わかりました」
ティアは置いてあった紙にペンで話したことをまとめて書く。
「『まだ不明なところは多いです。でも犯人は帝国の調査を潜り抜けるような相手です』いいんじゃないか」
「えへへ。そうですか?」
レンに褒められて嬉しそうにするティア。
「あっ。そういえばこれからの予定はどうします?」
「調べながら街を歩く。その過程で銃を買うとか武術を習うとか……デートする」
「あっ……はい!!」
ティアはレンの言葉に今までで一番の花のような笑顔を見せる。
「天幕の儀まで二週間くらいか。それまで旅行しにきた気分で楽しく過ごそう」
「わかりました」
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