第39話 帝国と皇帝2
灰色の城の中の駐車場で車を降り、城内をバルドゥルの先行で進む。
「っと、ここが応接室だ。まだ姫さんは仕事中で会うことができないからここで待っていてくれ」
ドアを開けて部屋の中に入る。
城の中では小さいのだろうがレンの住んでいる部屋に比べ二回りほど大きい部屋だった。
黒い革でできたソファーで囲んである木のテーブル、白い絨毯は柔らかく踏み心地がいい。
「あんたたちを対応してくれる奴がもうちょいでくる。何か欲しい物が有ったらそいつに言ってくれ。これで俺の仕事は終わりだ。一緒に戦うときは頼りにしてるぜ。英雄―」
帰って酒飲むぞと独り言を言ってバルドゥルは二人を応接室に残して離れていった。
部屋に残されたレンとティアはとりあえずソファーに座って待つことにした。
「まだ目が回っています」
「ティア、意外と乗り物に弱いのか?」
「そんなことないと思っていましたが。それよりもレンくんが強すぎると思います」
「平坦な道を走る方が少ないからな。これくらいじゃあ酔わないな」
「うー。ずるいです」
ティアは唇を尖らせてレンのことを突く。レンは少しだけ笑ってそれを受け止める。
「にしても、帝国の役人って変わった奴が多いのか?」
「どうなのでしょう? バルドゥルさんは明るそうな人でしたし、女性の方は凄く綺麗な大人って感じな人です」
「かなり良く言ったな。だが、間違っていないな」
レンが同意するとティアは弱っていながらもレンに顔を寄せる。
「ですよね。私、あの女性のようにかっこいい大人になりたいです」
「……ティアが? ティアはああいうタイプよりも今のままの方がいいと思う」
「どうしてですか?」
「……俺がそっちの方が好きになったティアだから」
レンがかなり照れたように小さく言うのだがティアに聞こえていたようで嬉しそうに顔を手で隠していた。
するとドアがノックされ開けられる。
「失礼します」
先程車両を運転していた桃色の髪の女性が侍女の格好をして部屋の中に入ってくる。
「えっと、先ほどの女の人ですよね? メイドさんだったのですか?」
「はい。皇帝陛下の侍女のシャルロッテでございます。お二方が帝国内にいる限り、お世話を仕るように命じられております。何でもおっしゃってください」
「なるほど。よろしくお願いします。ティア・スノードロップです」
「よろしく。レンだ。好きに呼んでくれ」
「……はいっ。お二方、何かお飲みになりますか? 紅茶、コーヒー、オレンジジュースなど各種用意しております」
「それなら紅茶をください」
「かしこまりました。レン様はいかがなさいます?」
「俺か? 何でもいいがオススメは?」
「ハーブティーはいかがでしょう? 良いハーブがあります」
「それで頼む」
「かしこまりました」
シャルロッテは慣れた手つきで二人分の飲み物を淹れ差し出す。
「どうぞ」
「「いただきます」」
ティアとレンはカップに注がれた飲み物を飲む。そして同時に驚いたように目を開く。
「へぇ。これはいいな」
「はい。こっちの紅茶も香りが良くて味も美味しくてミルクや砂糖がいらないです。茶葉はいいのだと思いますが淹れ方がいいのだと思います。コツとかあるのですか?」
「はい。水の温度と蒸らす時間にこだわっております具体的には気候などに合わせて変えております」
「なるほど。勉強になります」
ティアは学ぶことが多いとシャルロッテの話を聞いていた。
「レン様。マドレーヌがございます。どうぞお召し上がりください」
「俺は味覚が、いや帝国の情報網ならそれくらいわかっているか。わかった。いただこう」
レンは一つマドレーヌを皿から取ると口に運ぶ。
外はカリッと中は柔らかい。ふわっとオレンジの香りが口の中に広がり、くどくなくあと味の爽やかさが残る。
「これ。好きだ」
レンはぽつりと呟く。
多分、今まで食べてきた物の中で一番なのではないかと思うほど。
レンは一つ食べ終えると、もう一つ手に取り食べる。
「お口に合うことができ、光栄でございます」
シャルロッテの表情が少し柔らかくなった気がした。だが相変わらず無表情に近いのだが。
美味しそうに食べているレンを見て、ティアは嫉妬するように頬を膨らましていた。
「なんだか、私が作ったのより美味しそうに食べています」
「ティア。食べてみてくれ。これ、俺が好きな感じだ」
ティアはそんなにも言うならとマドレーヌを食べる。
「あっ。これ凄く美味しいです」
一口食べたところで目を見開き驚いたように言う。
「だろ? ティアも相当料理が美味いと思うが流石皇帝に仕えているだけはある」
「ですね。あの。これオレンジピューレ入っていますよね?」
「はい。帝国領内で作っているオレンジを使っております。元のオレンジが甘いため砂糖を控えめにしております」
「なんというかレンくんの好みに作ってある気がするのですが?」
「初対面だよな?」
「はい。レン様とは初対面でございます」
「だったら偶然だな」
無表情のシャルロッテを見てレンはそう言ってハーブティーを飲む。
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