第38話 帝国と皇帝1

 次の日、言われた通りに指令書が届き帝国行きが決まる。

 ルヴォンに帰ることなく帝都行きの列車に乗ることとなる。

 レンが行くならもちろんついていくとティアも一緒に帝都に向かう。

 見送りに多くの人が来て、ノエルはレンたちが帝都にいる間に両親に許可をもらうと話し、セザールからは殺意の籠った笑顔を向けられた。ティアの両親からは今度はゆっくりと我が家で過ごして欲しいと言われた。

 そんな見送りから二日、列車は帝都の目前まで来ていた。

「かなり長い列車旅もあと少しですね」

「ああ。そうだな」

「レンくんは帝国に行くのが初めてなんですよね?」

「ああ。旅行に行くなんてしなかったからな。仕事で帝国領の近くまで行ったくらいだ。ティアはどうなんだ?」

「子どもの頃に何度か行きました。だけど、それほど憶えていないんです。楽しかったことや違う街並みだとか思ったくらいしか」

「そうか。初めてと同じだな」

「なんだかレンくん、楽しそうですね」

「ああ。そうだな」

 実は今回の帝都行き、レンは物凄く楽しみにしている。

 初めての旅行だからということではない。

「実は帝国制の銃を買おうと思っていて。どんな銃があるのかと楽しみで」

「そういえば、壊れてから新しい銃買っていませんでしたね」

「ああ。どっちもあの作戦で壊れて、それから買う暇がなかった」

 拳銃は撃っていたら故障していた箇所がさらに破損して壊れた。ライフルは魔獣に踏まれたようで銃身が曲がってしまい使い物にならなくなってしまった。作戦後は入院、式典と暇な時がなかった。

「帝国は銃のメーカーが沢山あるから色々癖があるだろうし」

「なるほど。一緒に見て回りたいですけど」

「いいんじゃないか? 面白いかどうかは置いとくとして」

「やった!!」

 ティアは嬉しそうにレンにくっついて喜んでいた。

 そんなことをしている間に列車の速度が落ちていき、駅が近いことを知らせてくる。

「荷物纏めるか」

「はい!!」

 二人は荷物を鞄に入れ降車の準備をする。

 列車が止まり二人は駅に降りる。

 茶色の落ち着いた雰囲気の駅構内を歩き北口にいる帝国の担当者と約束した場所に向かう。

「共和国と全然雰囲気が違いますね。落ち着いているというか大人な雰囲気といいますか」

「ああ。そうだな。ティア、あまり建物ばかり見ていると人にぶつかるからこっちに」

 レンはティアの手を引いて自分に近寄らせる。

「あ、ありがとうございます」

 ティアははにかんだ笑顔をレンに見せて身体を寄せる。

 すると横からぶつかられる。

 ティアを庇うことができていたためレンに当たった。

 当たった人物はフードを深く被った人物。

(どこから出てきた? 周囲にさっきまでいなかった。スリか?)

 貴重品入れは無事。それにぶつかった人物はぶつかった衝撃で尻もちをついていた。

「大丈夫か?」

 レンは空いている手を差しだす。ぶつかった人物はレンの手を掴み立ち上がる。

「ええ。はい。大丈夫」

 フードを外して笑顔を見せて大丈夫だと示してくる。

 青い髪に紅い瞳のティアと同い年くらいの少女。

「この人……」

 ティアは何か気がついたようで少女のことを見ていた。

 だがレンは見覚えがないため警戒をし続ける。

「駅を見ながら歩いていたらぶつかってしまって。ごめんなさい」

「そうか。気をつけろよ」

 少女はまたフードを被って人混みを縫うようにしてその場を去っていった。

 レンたちも担当者を待たせているため、再び駅の中を進む。

駅から出ると目の前に巨大な黒い車と黒いスーツを着たサングラスの男性がいた。

「あの人なのでしょうか?」

「どうだろうな? 人を待っているように見えるが、皇帝に仕えている者としては怪しくて近づきたくないな」

 サングラスの所為で顔が見えず人相がわからない。

 そうだろうとそうでなかろうと向こうはこちらに気がついていないので話しかけるしかない。

 レンはティアを後ろに連れてその男性に声をかける。

「すまない。人を待たせているのだがあんただろうか?」

 そう声をかけると男性はわざわざサングラスをずらして、レンとティアのことを見る。

「おおっ。共和国からのお客さんか。俺で合っているぜ。今トランクを開けるから荷物乗せて後ろに乗り込んでくれ」

 男性は豪快な笑顔を見せると運転席の窓を叩く。

 窓が空き、運転席に座る人物が顔を出す。

 桃色の長い髪を後ろで結んだ蒼い瞳のスーツ姿の綺麗な女性。

「もう開けています。それよりもバルドゥル、その似合わないサングラスつけるの止めたらどうです? そんなのだから自分の子どもに仕事がマフィアかギャングだの言われるのです」

「シーさん、相変わらず厳しいな」

「いいから乗りなさい。お二方はもうすでに乗っています。それとも歩いて戻りたいのですか?」

「乗るから、待てって」

 バルドゥルは車の助手席に乗りこみサングラスをつける。

「そうそう。忘れてたがシーさんの運転相当荒いからな。捕まっておけよ」

「えっ? きゃああああああっ!?」

 車両が急発進しティアの悲鳴が車内に広がった。

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