第37話 式典へ5
会場に戻った三人は完全に注目されることになる。
ノエルは恥ずかしいようで顔を紅くして俯くが傍を離れない。ティアは完全に浮かれているため周りのことが見えていないように皿にフルールを盛ってレンに食べさせようとフォークを動かしていた。
距離を取った状態でそれを観察する夜会参加者たち。
色々な感情を持って見られているためかなり居心地が悪い。
「ノエルはいいとして。ティア、少しペースを緩めてくれないか? 周りの目もあるし、俺もあまり食えない」
「あっ。そうですよね。じゃあ、オレンジにしますね。程よく酸味があっていいですよ。はい。あーん」
「いや種類を変えればいいというわけではなく。味もわからないからそれほど食べられないという話で」
開いている口にオレンジを運ばれ黙らせられる。
仕方がなくオレンジを食べているとレンの前に赤い髪の中年男性が立つ。
「ずいぶんお楽しみのようだが少々よろしいかな?」
「帝国人が俺に何の用だ?」
「ほう。一目で帝国人と気がついたのか。これは凄い。帝国訛りは気をつけているつもりだがどこで気がついたのか。今後のために教えてくれないだろうか?」
「臭い。あんたの服から帝国の上位役人しか持っていない香水の臭いがする」
「なるほど。確かにそうだ。柑橘系を食べているから気づかれないかと思ったが良く鼻が利くようだ」
「それで何の用だ?」
「私はヴァイスハイト帝国大使館で働く、コンスタンティンだ。本国からそなたを帝国に来訪していただき仕事を受けて貰いたいとの連絡を受けた」
「ヴァイスハイト帝国が俺に仕事ね」
レンは帝国が何の仕事をさせるつもりなのかと考える。
ヴァイスハイト帝国はエスポワール共和国の東にある隣国。科学力、工業力、軍事力が高く対魔獣武器を開発した国。
「流石に巣を破壊しろって言われても無理だ」
「仕事の内容は本国にて皇帝陛下より伝えられる。どうやら魔獣関係ではないようだ」
「……魔獣関係じゃない? 何にしろルヴォンの<バベル>に仕事として伝えてくれ。個人で依頼は受けられない」
「それなら問題ない。すでに申請してある。明日には君の元に指令所が来るだろう」
「ならいい。だがそれなら俺に話しかける必要はないだろ? 帝国の情報網なら俺が気難しい奴だって知らされていただろうに」
「仕事を頼むのだから信頼関係を築くのは普通のこと。共和国では違うのか?」
コンスタンティンが当たり前というように言うのでレンは笑う。
「なるほど。確かにそうだ。わかった。仕事は全力で取り組ませてもらう」
「それは嬉しいことだ。本国にもいい報告ができる」
満足そうにコンスタンティンがその場を去っていき、レンは考える。
(帝国で仕事か)
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