第34話 式典へ2

 また暫く帰れないことを大家に伝え、出発の日となり列車に乗った。

 四人用の席にノアとロサリアと共にティアとレンは座る。

「そういえば、ティアって実家はフルールよね。今回のことを伝えてあるの?」

「いえ。この間、帰ったばかりですから寄るつもりはないですし伝えていません」

「そうなの」

「あの。皆さんは式典に出たことはあります?」

「俺たちはアッシュの代わりに何度も出たな」

「そうなんですか。レンくんはどうしてそんなに式典に出たくないんですか? そういう場が嫌いなのもわかりますが、それだけじゃないですよね」

「ああ。式典に出ると勲章やら地位なんかを渡される。十二貴族まではいわないが辺境の領主以上の地位がなければ貰うだけで義務ばかり増えて得なんてない。どうせ俺が貰えるのなんて最底辺の騎士だ。税金ばかり増えていいことなんてない。行かなければ貰うことはない。だから今まで行かないようにしていた」

「なるほど」

 そういうことなのかと理解するティア。だがすぐに疑問が出てくる。

「ノアさんたちはいいのですか?」

「こいつらは元からある程度の家に生まれているから今更勲章を貰っても何にも変わらない」

「そうなんですか」

 ティアの言葉に二人は頷く。

「皆さんのこと全然知りませんでした」

「まあ、一か月程度で知られるようなもんじゃない。俺だって二人とそれなりに付き合いが長いが知らないことも多い。これからも長い付き合いになるんだ。ゆっくり知っていけばいい」

「そうですね」

 ティアが嬉しそうに笑うとレンも一緒に笑う。

 それを見てノアとロサリアは顔を見合わせてからかうように言う。

「にしても、凄く仲良くなったな」

「ええ。なんだか一皮むけたように仲が良くなって」

「そうですか?」 

 ティアはぴとっと見せつけるようにレンの腕に身体を押し付ける。

「まあ、かなり仲良くなったな」

「えへへ」

 レンの言葉にティアは物凄く嬉しいというようにさらに身体をくっつける。

 それからも四人で会話しながら行き、首都フルールに着く。

「えっと、これからホテルに行くんですよね」

「ああ。荷物があっては買い物もし辛いからな」

「そうですね。えっとどちらの方向ですか?」

「確かあ――」

 駅から出てホテルの方に指さそうとしたところ車が前に止まりドアが開く。

「お母様? どうして!?」

 ティアの母親であるクラウディアが車から顔を出してくるがティアのことを無視してレン、ノアとロサリアに笑顔を向ける。

「レンさん。それとバベルの方。挨拶もなく不躾で申し訳ありません。娘を借りていきます」

「えっ、ええ!?」

 ティアが混乱している間に侍女たちが車から出て来てティアを囲んで車の中に連れ込む。

「よければ。屋敷の方にも来てくださいね」

 短くそう言って車は発進しすぐに姿が見えなくなる。

「で、どうする? アッシュ、お前も行くか?」

「いや、この場合は行かないでいい。ホテルだが部屋割り、俺一人でいいか?」

「あー。そうなるか」

「まあ、二人でゆっくりぶらついてこい」

 レンは一人ホテルに向かって歩き出す。

 それからティアからの連絡は式典前日の夜まで無く、連絡も式典には出ることができそうという短い言葉だけだった。

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