第27話 魔獣の王2

 何やら騒がしい声が聞こえてティアは目が覚めて身体を起こす。

「ロサリアさん。もう朝ですか?」

 返事が返ってこないので寝ぼけた様子で周囲を見回す。

 真っ暗な部屋の中、外から月の光が差し込んでベッドにロサリアがいないことが見えた。

「あれ? いないのですか?」

 ちらりと窓の外を見ると隊員たちが慌てて一方に走っていた。

 どういうことなのかと宿舎の外に出る。

「皆さん。どうしたのでしょうか?」

 まるで何か恐ろしい物から逃げているようだ。

 ティアは何があるのかと振り向く。

「えっ……?」

 まだ寝ぼけているのではないかと思う物がそこにいた。

 山のような大きさの物が動いていた。

 天を貫くような巨大な二本角、破壊を告げる星のように輝く紅い瞳、空を覆う銀色の翼、そして今まで見てきた何よりも大きい毛におおわれた身体。

「あ、あんなの……」

 圧倒的な存在から恐怖で腰を抜かし立ち上がれなくなる。

「人は魔獣に勝てるはずがない。あんなの戦っても――」

 無駄と言いかけたその時、ティアの瞳に巨大な魔獣に対し進路を防ぐように煌めく蒼い炎が見えた。

「レンくん」

 きっとレンは一人になろうともあの魔獣と戦うだろう。

 ティアは奥歯を噛みしめ動かない足に力を込める。

「私がッ!! やらないでどうするの!!」

 立ち上がるとティアはレンの元でも、逃げる隊員の元でもなく別の方向に走り出した。

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