第24話 大規模作戦4

『ふぁーあ』

 リンカーから可愛らしい欠伸が聞こえてくるのでレンは少し口元が緩む。

「眠いのか?」

『す、すみません。早く寝たのですが予想以上に早く起きることになって』

「巣の裏側まで行かなければならない上に、魔獣に見つからないように乗り物なしで回り込まなければならないからな」

 陽が昇らない内から前線基地を出発し、山を一つ越えて他の隊員が戦う場所と巣を挟んで反対側の高台にいた。

「隣にロサリアもいるんだろ?」

『はい。そうですが』

「だったら始まるまで寝ていて始まったら起こしてもらったらどうだ?」

『むぅ。子ども扱いしないでください』

「だったらしっかり起きていること」

『わかりました』

 ティアとの会話を終えてレンはすぐに目の色を変えてライフルのスコープを覗く。

「巣の周りは数えきれないほど魔獣がいる。これを陽動するから倒すな、か。本当に大丈夫か?」

 死人が出るだろうと思うレンだったが下手に手を出して作戦が破綻したなどと言われても困る。

 レンはこのまま様子を見て魔獣たちがいなくなるのを待つ。

 暫く待つと巣の周りを徘徊していた魔獣がどんどん前線基地の方向に走り出していくのが見えた。

「ティア」

『はい。皆さん三方向に向かってもうすぐポイントに辿り着くようです』

「そうか。俺が出るタイミングはそっちに任せるが頼めるか?」

『はい。大丈夫です』

「じゃあ任せる」

 レンはライフルを背負い、荷物を纏めてすぐに移動できるようにする。

『レンくん。聞こえますか?』

「大丈夫だ」

『三か所で戦闘が行われ始めています。その音で、魔獣が次々と集まっています』

「いけるか?」

『はい。行けます』

「了解だ」

 レンは崖を滑り下りて巣に向かって走り出す。

 遠くに見えていた巣は近づくにつれてその大きさを実感させられる。

『巣までもうすぐです』

「ああ。周辺は?」

『魔獣の反応は十。どれも中型です』

「わかった」

 レンは戦闘に備えてブルーローズを握り魔導拳銃に弾を込める。

『もうすぐ接敵です』

「ああ!!」

 魔獣の姿が見えると同時に銃弾で頭を撃ち抜き巣の周辺の魔獣を殺す。

「周りは?」

『いません。ただ巣の中にリンカーでは測定できないほどいるようです』

「内部に入るか検討するためにおおよその数を知りたい。範囲を収縮させて感知数を増やしてくれ」

『わかりました。はい。出ました。総計百万です。地下にもいます』

「この中に。それほど」

 小さな村がすっぽり入るような円周、高さは三十階建ての建物を超える。しかも地下も広がっている。

 本来の作戦なら巣の内部に侵入し爆弾を使い破壊するはずだが、流石に魔獣の数が多く侵入するのも難しそうだ。

 レンは静かに巣に近づき巣の欠片を採取できるか右手で触ってみる。

 その瞬間、レンの右腕が肩から吹き飛び、血が噴き出す。

「えっ?」

 意味が分からないというような反応を見せるレン。だが追い打ちをかけるように巣から棘が出て四肢を貫かれトドメに首をはねられる。

『レンくん!!』

「はっ」

 ティアの言葉に視界が戻り先ほどの光景は幻覚だと気づかされる。

『バイタルに異常がでましたが何かありましたか!?』

「巣に触れたら死ぬ幻覚が見えた。そっちで何か感知できたか?」

『巣に呪いのような物が発生しているとこちらでも計測しました』

「そうか。回収はどうする」

『待ってください。聞いてみます。あっ、はい。わかりました。レンくん。危険物なので回収は取り止め、破壊だけをしてくださいということです』

「わかった」

 レンは深呼吸をしてブルーローズの柄を握る。

「やるか」

 ブルーローズを鞘から引き抜く。

 蒼い刀身が露わになり蒼い炎が舞い、レンの髪に蒼い光が煌めく。

『レンくん。周囲の温度が上昇しています。何か異常があったのですか?』

「問題ない。ブルーローズを抜いただけだ」

『えっ。ブルーローズを? あっ。ロサリアさん。はい。なるほど本来の使い方をしていると』

 ロサリアから話を聞いたようでリンカーからは納得したような声が聞こえてくる。

「灰となれ」

 レンはブルーローズを地面と水平に振る。

 蒼い軌跡が一瞬で巣を通り過ぎる。

 次の瞬間、巣の材質が元から灰だったかのように巣は灰となり風によって崩れていく。

「目標に攻撃。内部の魔獣は?」

『計器に異常が出ていますから。少々待ってください。出ました。魔獣の数ゼロ、巣の反応も消滅。巣の破壊を確認。作戦は完了です』

「わかった。だけど他は戦闘中だろ? 援護に行くかどうか本部に聞いてくれ」

『はい。少し待っていてください』

 離席したようで暫く静かだったがリンカーからティアの声が聞こえてくる。

『ウッドマンさんが状況は良い上に朝早くから移動して疲れているだろうから戻ってきていいとおっしゃっていました』

「そうか。じゃあ基地に戻る。ティアも休んでいていい」

『大丈夫です。レンくんが戻ってくるまでしっかりやります』

「わかった。早く戻る」

 レンはブルーローズを鞘に納めると前線基地に戻った。

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