第20話 フルールにて8
三十分の間のドライブを終え湖のほとりにある駐車場にバイクを止める。
「よし。降りても大丈夫だ」
「はいっ」
ティアはバイクから降りてヘルメットを外す。
「どうだった? 初めてのバイクは」
「怖さが少しありましたが風が気持ちよくて」
「それはよかった」
「でも、難しそうで後ろに乗っているほうが楽しい気がします」
「まあ二輪はバランスとか難しいからな。乗り物で言ったら一番簡単なのはバベルの装甲車の小さいやつだろうな。車輪は四輪だし、マニュアルじゃないし、多少ぶつけてもぶつけた物を壊して進めるから初心者にはいいんじゃないか?」
「なるほど。憶えておきますね。それでは行きましょう」
ティアはレンの手を引いて湖の方に歩いていく。
端が見えないってほどの大きさの湖ではなく池を少し大きくしたくらいのサイズの湖で水鳥や魚、小動物が泳ぎ、それを眺める家族連れがいる自然公園があった。
「レンくん見てください。湖に泳いでいるの、あれ今の時期にしかここに来ない渡り鳥なんですよ」
「なるほど」
ティアは楽しそうに湖の上を優雅そうに泳ぐ白い鳥を指さす。
「詳しいんだな」
「はい。小さい頃図鑑を見て覚えたんです」
「そうか。凄いな」
「えへへ」
レンに褒められて嬉しいというティアはぴったりとレンにくっつく。
「少し歩くか?」
「はい」
そのままの距離感のままで二人は自然公園内を歩く。
「平和だな」
「はい。みんな、笑って過ごしていますから」
「ルヴォンもみんなが殺気立っているわけじゃないが、ここって魔獣の危険が及ばないくらい離れているから街の外でも子どもとかも多くいるなって」
「確かにどの巣からも遠いですからね。ほら、あの木の下も五人くらいの子がいます。あれ、少々おかしいですね。行ってみますね」
ティアと共に子ども達のところに向かうと子ども達は全員木の上を眺めて木の棒などで上にある何かを取ろうとしていた。
「どうしました?」
「あっ。ボールで遊んでいたら木の上の方に」
男の子の言う通り高い木の上には黄色のボールがあって子どもじゃあ取るのは難しそうだ。
木を登って怪我されても目覚めが悪い。
「少し離れてくれ」
子ども達とティアに木から距離を取らせるとレンは脚に力を入れる。
一気に跳躍して木の上へ飛び上がる。上がりきる前にボールを回収し、空中で一度回転し地面に着地する。
「ほら。ボール」
子どもの一人にボールを渡す。
だが嬉しそうにする歓声も何もなく口を開けて固まっている。しかもティアまで目を丸くして驚いていた。
そして一拍置いてから子ども達が一斉にレンに詰め寄る。
「す、すげぇ」
「兄ちゃんどうやったんだ。俺にも教えて!!」
「かっこいい」
わあわあぎゃあぎゃあとレンの周りを囲んでは騒ぐのでレンは少し困ったようにしながらも対応する。
「魔法で身体を強化して飛んだだけだ。基礎的な身体のスペックと魔法の知識がいる。いわゆる、よく食べ、よく運動して、よく勉強するってのが重要だ」
レンがそう言うと子ども達はわかったように歓声を上げる。
「ねえねえ。兄ちゃん。そっちの姉ちゃんはお嫁さんなの?」
「えっ!?」
突然子ども達がティアのことをレンのお嫁さんだと言ってきたのでティアは顔を紅くしてレンのことを見る。
「仲は良いが、俺たちは夫婦じゃない。ほら、俺たちを囲んでないで向こうで遊んでくる」
子ども達を散らしてティアと二人になると疲れたというように大きく息を吐く。
「子どもは苦手だ。どう接していいのかわからない」
「でも、かなり慣れた様子でしたよ。子どもは嫌いですか?」
「好きか嫌いかと言われると正直わからない。まあだがはっきり言えるのは苦手だ。自分の子どもでもいれば変わるのかもしれないが」
「レンくんの子ども――っ!!」
何かを考えてティアは恥ずかしくなり顔を真っ赤にさせてレンの身体に顔を押し付ける。
「どうした?」
「少し顔を見せられないので少しこうさせてください」
「そうか。いいよ。ティアと来ているんだから」
「ありがとうございます」
ティアが問題なくなるまでそのままでいたが少し赤い程度になったので手を繋ぎ歩く。
「どうして手を繋いでいるんだ?」
「駄目ですか?」
「いや。問題ない」
別に戦闘するわけではないため片手が塞がっていても問題ないため、手を繋いでいても邪魔にならない。
「レンくんって見た目よりかなり筋肉質ですよね。トレーニングとかしているのですか?」
「まあ、多少は。魔獣との戦いは最終的に肉体一つだけになるからな」
「どんなことをしているのですか?」
「腕立てとかランニングとか普通のようなこととか、<バベル>内にある施設を使ってとかだな」
「なるほど。私も万が一に備えて鍛えた方がいいですか?」
「……どうだろうな。ティアと同種の職業は魔獣と戦うってことはないが、それなりに体力を書類仕事でも使うから少しはあった方がいい」
「なるほど。どんなことをするといいんでしょうか?」
「筋トレというよりもランニングなどをしたりした方がいい。健康にもいいから仕事に支障が出ない程度にな」
「わかりました。やってみますね」
会話をしながらゆっくりと湖の周りを歩く。
他愛無い会話だったかもしれないがレンはこの思い出を忘れないと決めた。
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