第19話 フルールにて7
「いやー。すまないね。朝から手伝いをしてもらうなんて」
「いえ。泊まらせてもらっているのですからこれくらい構いません」
レンは朝からアレンの仕事部屋で外から運ばれてきた本などの資料を運ぶことを手伝っていた。
「それに俺も少し気になることがありましたので」
「ティアのことかい? ティアは小さい頃から天才で何でもできたんだ。しかも複数のことを同時に人よりもこなせるんだ」
「それは凄いと思いますが、俺が聞きたいことはティアのことではなく、伝承についてです」
「そっちか。いいよ。どんなことが聞きたいんだい?」
「全体的に聞きたいことばかりですから」
「そうか。じゃあ、まずは僕が調べていた民族伝承はここから東に大陸の中心付近。名前はもうない。灰に包まれた村なんだ」
「灰、それは」
「君が見つかった場所だね」
「そうですか。俺は一度も戻ったことがないのでどんなところだったのかわからないのですが」
「あそこは綺麗な村だったよ。のどかで水と空気が綺麗、村人も良い人ばかりで、ずっと住んでいたいと思えたほどに」
「そうですか。俺に会ったことは?」
「僕が学生時代だった頃だからレンくんはまだ生まれていないから会っていないよ。続きを話すよ。あそこはいい人ばかりであそこにあった遺跡をいい状態で保存していてくれたんだ。そんな話を聞いて僕は先生、ウッドマン先生と一緒にその村に行ったんだ。そしたら遺跡が綺麗にあって入り口までの道に伝承が書かれていたんだ」
「どんな内容でした?」
「白い竜の話と獣と災いの話がありました。白い竜は暗い世の中を照らす話だったけど現地では教訓のように扱われていたよ。獣の方は人の罪の話で、現地の人は人に対して戒める話だとか」
「なるほど。獣の方を教えてくれますか?」
「竜の方はいいのかい?」
「竜は……この世界のどこかにいるかもしれませんが見たこともないことよりも獣の方が気になって」
「そうか。仕事がらそっちの方が気になるよね。よし。わかった。その話をしよう。壁に書かれていた話はざっくりとこうだよ」
大昔、人は自分たちが万能だと疑わなかった。それにより世界が汚染され大地が人に罰を与えるため獣を生み出した。獣は多くの災いを取り込み、人を蹂躙して人の世は先の見えない夜闇のようになった。
「この辺りで一度終わって次の話に移っていて」
人が抗い六の獣の王を引きずり出したが人の力では傷一つつけられなかった。だが小さな灯が恒星のような輝きを放ち獣の王を消す。
「と、こんな感じだけどどうだい?」
「その話に出てきた獣が魔獣のように思えて」
「やっぱりかい。学者たちの間でも話が出ていたよ。伝承の獣は魔獣かもしれないって。レンくん、魔獣とはなにかわかるかい?」
「人の魔力があいつらの巣に入って獣の姿となって地上に出てくる物。生物としての必要行動をしない。成長しない。人への殺意で行動する生物というところですか」
「そうだね。僕は専門外だからそれよりも簡単にしか知らないけどポイントとしては、人の魔力が巣に入ることで生まれることと人への殺意だね。人を万能としたのは魔法。それに必要なのは魔力。魔力によって敵が生まれるのなら人は魔法を使えなくなる。人への殺意と合わせると人に罪を与える存在としては十分じゃないか。それに巣は地面にあるから大地からの罰と言えないかい?」
「じゃあ、獣の王というのがいるというのは」
「多分巣の中に母体がいるんじゃないだろうか」
「……考えたくないことですね」
「そうだね。人の手に余ることだよ。だけど希望はあるはずだよ」
「灯ですか。そんなものどこにあるんでしょう。希望はあるという抽象的な表現とかではないのでしょうか」
「いや。僕は君のブルーローズが灯なんじゃないかって思っているよ」
「それは神創兵器だからですか?」
「いやそうじゃないよ。君が持っているからだね。僕は君ならこの状況、ううん世界を変えてくれると思っているから。と僕も勘だけどね」
アレンは自分の言ったことに笑っていたがレンなら変えられると話していた時の目は真剣で本気のようだ。
「さーて、荷物運びに戻ろうかレンくん」
アレンの手伝いを終えて自室に戻ろうとして廊下でティアと顔を合せる。
「あっ……」
露骨に顔を背けてレンの顔を見ないようにするティア。
何か怒らせるようなことを言ってしまったとレンは思っているためどう接したらいいのかと様子を窺う。
「おはようございます」
「ああ。おはよう」
「その昨夜のリンカーを突然切ってすみませんでした」
「いや。俺が何かまずいことを言ってしまったからだろ? 気にしなくていい」
「いえ。レンくんは悪いことを言っていません。レンくんに顔が視たいと言われて急に顔が熱くなって胸がドキドキしてしまい気がついたら切ってしまいました」
「なにか病気なのかもしれない医者に行った方がいいと思うが」
「私もそう思ってお母様に話をしたら凄く笑われました」
「笑われた? 病気ではないということなのか」
「他にはレンくんに手を握ってもらいなさいとも言われました」
「ふむ」
レンはティアの手を取り握ってみる。
「どうだろうか?」
「あ……あぅ」
爆発したように顔が真っ赤になるティア。
「確かに顔は耳まで真っ赤だ。だが触った手は紅くなっていないからアレルギーではなさそうだな。もう少し様子を見た方がいいだろうが、本当に病気ではないのか」
「あら。レンさん。あっ。お邪魔だったかしら」
手を握っていたところクラウディアが通りかかり嬉しそうにして二人の様子を見る。
「いえ。邪魔というわけではないです」
「お母様っ!! 本当に病気ではないのですか?」
「ティア。レンさんに手を握られてどう思いましたか?」
「嬉しいです。それに胸がドキドキしてでも、凄く温かくて」
「それで?」
「えっと?」
ティアがわからないというように首を傾げるとクラウディアはそこまでしてもわからないのかと呆れていた。
「いいですかティア。私もそういうことを教えてこなかったことを反省しますが少女漫画や小説など読んでいるのですからそれくらい気がついてもいいのではありませんか?」
「えっ? そ、それは」
ティアはどういうことなのかわかったように目を丸くするティア。だがレンはわかっていないというように首を傾げる。
「ちょっとお母様。そちらに。レンくんは少し待ってください」
ティアはクラウディアを連れてレンから一度離れて話し合いを始める。
話の内容を聞こうと思えば聞けるがそこは聞かないようにしようとする。
十分ほどが経ちティアが戻ってくる。
「お待たせしました」
「どうだった?」
「何も問題ありません。はい何も問題ありません」
「なんで二回言ったのかわからないが大丈夫ならよかった」
「レンくんは心配しました?」
「ああ。かなり心配した。ティアは俺の大切なパートナーだからな」
「――。こほん。そうですか。その心配かけてすみません」
ティアは一度固まってしまったことを咳で誤魔化す。
「健康だとわかりましたから昨日の続きに行きませんか?」
「そうだな。どの辺りに行く?」
「少し遠いですがフルールの外にある湖とかどうでしょうか?」
「いいが、どうやって行く?」
「バスでも行けますがやはりここはバイクです」
「バイクか。いいが、格好をそれ専用にしなければならないぞ。あと両親の許可をちゃんと得てくれよ」
「格好は長袖にズボンですね。お母様がまだその辺りにいると思いますから聞いてきますね」
ティアが話を聞きに向かったのでレンは自分の用意をすることにした。
「お待たせしました」
バイクを用意して待っているとライダースーツにパンツスタイルのティアが現れる。
「ヘルメットまであったのか」
「はい。お父様のです。お父様。若い頃乗っていたようでスーツの方はお母様のです」
「なるほど。許可は?」
「ばっちりです」
「それはよかった。まず約束として俺がいいって言うまでバイクから乗り降りないように。あと重心が重要だから俺と同じように傾いてくれ」
「わかりました!!」
ティアが元気良く返事をしたのを確認してからレンはバイクにまたがる。
「よし。乗っていいぞ」
「はい」
ティアは不慣れな様子でバイクにまたがりレンの後ろに座る。
「えっとどこを持ったらいいですか?」
「片手を後ろに有るバイクのハンドルで、もう片手を俺の腰を持つ」
「あっ。ここですね」
「安全運転で行くがしっかり捕まっていてくれ」
「はいっ!!」
「それじゃあ行くぞ」
エンジンを吹かしバイクを発進させた。
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