第17話 フルールにて5

 街に出たレンとティア。目的もなく街の中を歩く。

 赤いレンガでできた統一感のある街並みに雲一つない青空、きっとこれは絵になる光景なのだろうと思うレン。

 街並みを見ながら歩いているとティアが袖を引っ張ってくる。

「どうしましたか? 何か珍しい物でもありました?」

「穏やかで綺麗だなって見ていた。こんなにも綺麗なのかって」

「そうですか? ルヴォンの方が色とりどりでみんなが楽しそうにしていて綺麗だと思いますよ?」

「多分だけど気持ちの問題だろう。今までは余裕がなかったから」

「なるほど」

 過去の因縁を終わらせたから色が鮮やかに見えるようになったということだろう。

 そんなレンにティアは嬉しそうにして腕を掴む。

「もっといろんなところに行きましょう」

「ああ。わかった」

 それから二人でフルールの名所というところを巡り、最後にフルールの端にある湖でボートに乗ることとなった。

「ボート大変じゃないですか?」

「いや。むしろ凄く楽しい」

 オールを漕いでボートを進めるというのは初めてで苦戦したがその分楽しいのだ。

「それに周りは男が漕いでいるんだから」

「それは……あの方たちがカップルで」

「なるほど」

 ボートに乗っているのが男女二人組ばかりだと思っていたのだがカップルであるとわかると納得できる。密着できる二人だけの空間。

 理解できたという表情のレンに対し、恥ずかしくなってきた紅くなるティア。

「あのぉ。私たちってどんな風に見られているのでしょうか?」

「仕事仲間とは見られていないだろうな。カップルだらけの中、仕事仲間でボートには乗らないだろうし、兄妹には見えないだろう。だとしたら、恋人に見えるのだろうな」

「そ、そうですよね。わ、私は平気ですけど。レンくんは嫌ですか?」

「いや。全然。嫌だったら一緒にいない」

「しょ、しょうですか……」

 恥ずかしさが爆発したようにティアの顔は真っ赤になる。

 それから少しの間沈黙したまま、揺れるボートの上で風景を眺めた。

 陸に戻る頃にはいつものティアに戻り楽しそうにレンの隣を歩く。

「まだレンくんを案内したい場所がいっぱいあるのですが」

「明日また来たらいいだろ?」

「そうですね」

 ティアが上機嫌に先を歩いていく。

 レンも追いかけようとしたところで影が後ろから迫ってくる。

「っ!!」

 嫌な予感がして振り向くよりも先に腕で防ぐ。じわりと鈍い痛みが右腕に走る。

 距離を取り襲撃者を視界に入れる。

 巨大な機械のようなスーツを着た人だと思う物が鈍器を構えていた。

 首都ではこんな蛮族がいるのかと思うが、それが何なのか考える前にまた予感がして後ろに下がる。

 マスクをした紫紺の髪の少女が白銀の剣をレンめがけに振り下ろし、あらかじめ回避していなければ右腕を切り落とされていただろうという軌道であった。

 怪しげな巨人と紫紺の髪の少女の組み合わせの知り合いなどいない。

 レンを狙うように命令された刺客なのだろうと判断した。だが少し変だと感じた。

(剣。妙に綺麗すぎる)

 紫紺の髪の少女が持つ白銀の剣、刺客が持っているような物ではなく貴族が持っているような宝石がちりばめられた物。

「なるほど。そういうことか」

 素性はわかったがどんな理由があろうとも先に手を出してきたのは向こうでレンは手を抜くつもりはない。

「やるよ」

『シュコー』

 目の前にいる二人が合図で同時に動く。

 よく訓練しているのだろう。どう躱しても当たる様に動いている。

 だが複数相手など慣れているというレベルではない。

 躱すことなく両方の武器を手で受け止める。

「「っ!?」」

 襲撃者は予想外だったようで動揺している。

 血が少し流れ落ちるがそれぞれの獲物を腕で弾き飛ばし、紫紺の髪の少女を地面に叩き伏せ、巨人の腕を掴んで足払いをして投げる。

 銃を取り出し起き上がろうとする紫紺の髪の少女に突きつける。

「動くな。動けば撃つ」

 顔は見えないが相当悔しそうな雰囲気が出ていた。

「待ってください。レンくん!!」

 先に歩いていたティアが戻って来てレンを止めるように紫紺の髪の少女の前に立つ。

「やっぱり知り合いか」

「はい。何があったのかわかりませんが銃を下ろしてください」

 レンはティアに言われるまま銃を下ろす。すると紫紺の髪の少女は

「それでこいつらは?」

「二人とも私の友達です。でもどうしてレンくんを襲ったかわかりません」

「それは本人から聞くからいい。どこかゆっくり話せるところはあるか?」

「マリーちゃんの家が近いです」

「案内頼めるか」

 ティアの案内で紫紺の髪の少女の家に向かい話を聞くこととなった。

 だがレンが聞く前にティアと友人たちが何か話している。

 レンは聞かないようにしているのだがティアが友人たちに言われた言葉で顔を紅くしたり身を乗り出したりしていた。

 話し終えて落ち着いた後ティアが振り返りレンのことを見る。

「二人にレンくんのことを話しました。レンくんもこっちに来て座ってください」

「ああ」

 レンがソファーに座り目の前の二人を見る。

「こちらの子がマリーちゃんです。十二貴族のスカイフロント家の一人娘です。もう一人の子がノエルちゃんです。十二貴族で今の首相のレイン家の娘さんです」

 紫紺の髪に紅い瞳の少女がマリー、巨大なスーツの中にいたのが金色の髪に青い瞳の少女のノエル。

 二人とも十二貴族なのかと少々驚くがティアの友達となれば同じような身分なのは当たり前かと納得するレン。

「それでなぜ二人が俺を襲ったんだ?」

「えーと……」

 レンの質問にティアは物凄く困ったような表情をする。

「レンくん。どんな理由でも不快になりません?」

「ものによる」

「……レンくんが私を騙している悪い男の人だと二人が思って」

「……なるほど。そういうことか」

 レンは納得したというように思う。

 二人はティアの父親と同じようにレンがティアを騙している悪い虫だと思ったようだ。

「それほど俺は悪い男に見えるのか?」

「悪い男性には見えないわよ。普通に真面目そうなのに一か月も経たないでティアの恋人としてティアの家に行っているから性格が悪い、貴族の名目当ての男だと思ったのよ」

 マリーがばつが悪そうにレンの質問に答える。

「そうか。だが、仮に俺が悪い男だとしても流石に過保護じゃないのか?」

「だって、ティアが小さい頃から男の人のことを好きになるとかなかったから。絶対騙されると思うし」

「なるほど。確かにそれならそうだな。俺がそちら側だったら過保護になる」

「レンくん!?」

 レンもそうなのと驚いたような反応をするティア。

「あなた、悪い人じゃないのね」

「それはどうも」

 マリーとそれとなく和解したレン。それを見て少しだけ安心したように胸を撫で下ろすティア。

「怪我は? わたくしたちの攻撃まともに受けたでしょ?」

「問題ない。もう治った」

「へぇ。流石、神創兵器の起動者ね。事前に知っていたら襲わなかったのに」

「俺のこと知っていたのか?」

「ブルーローズを持つ青年。魔獣にしか興味がないとか有名よ」

「なるほどな」

 そう言う風に一般人には伝わっているのかと思うレン。ちらりとマリーの隣のノエルを見る。するとノエルは顔を背ける。

「ところで、そっちの子。ノエルだったか? なぜ俺のことを見るが目を合わせると顔を背ける? 俺、何かしたか?」

「それは、ノエルちゃんは男性が苦手で……あれ? 見られないくらい苦手なのですが」

 ティアもわからないようで首を傾げていた。

「ノエルちゃん。どうしてですか?」

「アッシュさん……少し怖いけど私と婚約するはずだったから」

「「……」」

 予想外って顔をするティアとマリーだったがレンはどこかで接点があったのかと考える。

「首相の娘……なるほど。断るが何度もパーティーに招待される理由はこれか」

「どういうことですか?」

「俺の他に神創兵器を持つ者が世界にいないから何としても共和国内に留めたいってところだろう。本人の意思はわからないが」

 全員でちらりとノエルのことを見る。

 ノエルは恥ずかしく口元を隠す様に両手の指を前で組む。

「……あれぇ?」

「……」

 ノエルの友人二人はノエルの反応が意外のようで困惑したように顔を見合わせていた。

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