第15話 フルールにて3
次の日。
スノードロップ家の威光を借りてレンはフルールの行政課が入っている建物に客人と入ることができた。
あとは面会する相手が空くのを待つだけ。
レンは目を閉じてその時を待っていた。それに対してティアは少し落ち着きがないように周囲を見回していた。
レンにあれだけ言われたのにも関わらずティアは緊張していた。
もしレンと元パートナーが喧嘩をして完全に決別して来なければよかったと思われないか不安だった。
そうならないようにサポートをしなければと思うと面会の相手が空いたという報告が来る。
「行くか」
「はい」
案内係に連れられて行政課の都市計画を担当している区画に移動し部屋の前に待機させられる。
『どうぞ』
「失礼します」
ティアが先行して入る。
優しげな茶髪の青年が部屋の中にいた。
どこか雰囲気がレンに近いがレンよりも柔らかく温かい感じだった。
「ようこそいらっしゃいました。スノードロップ家のご令嬢様。本日は一体――」
後から入ってきたレンを見て固まり顔色が悪くなり窓に向かって走り出す。
だがレンは拳銃を抜き青年のすぐそばの壁を撃ち抜いて穴を開ける。
「動くな」
レンは拳銃で脅すことで青年を動かし椅子に座らせる。
「どうしてレンがここに。俺を殺しに来たのか!?」
怯えながら怒声を上げる姿は小動物が敵に対して威嚇しているようだった。
「話をしにきただけだ」
「話?」
レンはゆっくりと部屋の中を歩き机の上にあった写真立てを手に取り眺め、元あった通りに置く。
二人とも話すきっかけのような物がなく沈黙していた。そこでティアはガブリエルに聞いてみることにした。
「あの。どうしてレンくんを裏切ったんですか? そこまでしてもここに入りたかったんですか?」
ティアの質問にどうしてそれを知っているというようにレンのことを見る。
「地獄まで持っていくつもりだったが彼女がパートナーとなって調べられて話した」
「そうか。……僕が。当時の僕はどうかしていたんだ。レンが死ぬほど頑張って出した成績を自分の能力が高いって勘違いして天狗になっていた。その驕りで自分は有能なんだって証明したくなったんだ。今思うと本当に馬鹿だったよ」
ガブリエルは自嘲するようそう言った。
ティアはレンがどんな反応しているのか気になりちらりと見る。
だがレンは何も顔に出ていないで無反応だった。
「結婚したんだな」
「あ、ああ。息子もいる」
レンの突拍子もない話題にガブリエルは動揺しながらも頷き答える。
「そうか。おめでとう。だったら俺から言う事は少しだけだ。あんたを追い詰めるような状況を作ってすまなかった。弟として扱ってくれたのにあんたの悩みに気づけなかった。すまなかった」
ティアはレンの言葉の意味が分からなかった。
なんで被害者のレンが謝っているのか。レンの悪いところなどないのに。
「どうして、レンが謝って、僕が……」
ガブリエルもレンが謝るので困惑して手が震えていた。
「あんたのしたことは許されることじゃない。だけど、俺はあんたを恨んでいない。あんたから貰った物も多く感謝する方が多い。だからこれでお互い水に流す……なんてできないが、顔を合せただけで怯えるなんてことが無くなればいい」
兄弟のように過ごした者が仲直りできて元のようになれたらいいというのはティアもそう思う。レンの言葉にガブリエルもレンの意図が分かり顔を上げる
「だけど、いいのかい? 僕はレンを殺そうとしたんだよ」
「流石にもう一度殺そうとか利用しようとするとかならあんたを殺す」
レンはもう一度銃をガブリエルに向ける。だがガブリエルは怯えることもなく両手を上げる。
「そうならないようにするよ」
ガブリエルが優しげに微笑む。
「――っ」
レンは何かがこみ上げてきたようで奥歯を噛みしめる。
「これで俺の要件は終わった。忙しいのに時間を取ってくれて感謝する」
「レン。また食事行こう」
「時間が有ったら」
レンは一度笑ってから部屋を出ていった。ティアはガブリエルに頭を下げてから部屋を出てレンの後を追った。
建物を出たところでレンは立ち止まる。
「ティア。ありがとう」
「えっ?」
ティアは立ち止まったレンの顔を見て目を丸くする。
どこかすっきりとした優しげな少年のような顔をしていたのだ。
「ティアがいたから俺はガブリエルとああやって話せた。おかげでもう心残りはない」
「えっ?」
「言葉通りだ。いつ死んでも後悔はないってこと」
「そんな。私はレンくんに死んでほしいからここに連れてきたわけじゃないです!!」
「わかっている。ただそれだけ気がかりが無くなったってことだ」
今にも泣きそうなティアにレンはティアの肩に触れる。
「それに今すぐ死んでやる気はない。ブルーローズがある。それにティアに泣かれたらおちおち寝ていられないからな」
レンは明るくそう言うのでティアは少し拗ねたように頬を膨らませてレンに寄る。
「レンくんは私がどんな手を使ってでも死なせません」
「それは頼もしいな」
レンはティアに笑いかけて一度ティアの実家に戻る。
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