第13話 フルールにて1

人の賑わう駅の入り口でレンはバイクを持ちながらティアと今後の行動について話し合っていた。

「今日はあいつのところに行くには時間が遅い。一晩どこかで泊まらないと。でもティアは実家があるんだったな。となると俺はホテルを探すこととなる。ここで一度別れるがいいな?」

 最悪レン一人なら野宿でもいいかと思い、宿の予約はしていない。

 レンの提案にティアは首を傾げる。

「あの。てっきり私の家に泊まっていくのかと思っていたのですが」

「両親が許可していないだろ?」

「いえ。お母様に帰ることを伝えた時にレンくんの話をしたのですが泊めてもいいと言っていましたから大丈夫です」

「そうか。なら泊まらせてもらおうか」

「はい!! もうここは私の庭のような物なので案内は任せてください」

「ああ。頼んだ」

 ティアは嬉々とした様子で先導して歩いていく。

 途中数多くのランドマークを紹介しながらも豪邸の門の前に着く。

「普通に豪邸だ。それなりの身分だとは思っていたんだが貴族。しかも十二貴族の一つだとは」

 首都の中心部からは少し外れているが高い壁に囲まれている上に庭が広く青い屋根の屋敷もかなり大きい。屋敷を見てレンはぽつりと言った。

 十二貴族。それは共和国内で最も力を持つ十二の家のこと。資金、権力、魔力の全てを持つ。

「言っていませんでしたか?」

「言っていないな。スノードロップだとしか。向こうじゃ苗字だけを言われてもわからない」

「そうなのですか。びっくりしましたか?」

「ああ。かなりな。これだけ驚いたのは久しぶりだ」

「そうですか。早く入りましょう」

 ティアはレンを驚かすことができ上機嫌に門を開けて敷地内に入る。

 すると花に水をやっている初老の執事が二人に気がつき深々とお辞儀をする。

「おかえりなさいませお嬢様。その方が件のお客様ですか」

「うん。レンくんです」

「そうですか。では旦那様と奥様にお知らせします」

「お願いします」

 初老の執事は館に足早で入っていった。レンは足早な様子を見て一瞬で歓迎されていないなという事を感じる。

 歓迎されていないどころか何かされるのではないかという予感がする。

 ティアには悪いがここは一度出直した方がいいと考えたレンはティアに話そうとする。

「あっ。お父様とお母様が出てきましたよ」

 (遅かったか)

 館から碧眼の中年の男性とティアと同じ白色の髪の女性が従者を連れて出てくる。

 ティアの両親は二人の前で立ち止まる。

「おかえりなさい。ティア」

「はい。ただいま。お母様、お父様」

 穏やかに笑うティアの母親。それに対しティアの父親はレンのことを睨みながら凝視してきていた。

「あっ。こちらが私のパートナーのレンくんです」

「初めまして。<バベル>で彼女のパートナーをしている者で。彼女からはレンと呼ばれています」

 なるべく失礼にならないようにとレンが言うのだがティアの父親の表情は変わらない。

 今すぐに殺しにきそうだ。

 その予感は正しくティアの父親は従者に持たせていた直剣を手に取り鞘から抜く。

「お父様!?」

「ティア。これは僕が君の父親としてやらなければならないことなんだ。だから許してほしい」

 そう言ってレンめがけ剣を振り下ろしてくる。

 ティアの父親は剣術を習ったことはないようで遅く躱しやすい。

 娘の仕事のパートナーがどれほどなのかと力を知りたいということなのだろう。

 だがこのまま試され続けるのは面白くない。

 だが手元にちょうどのいい武器はない。

 素手で取り押さえるかと考えレンは手を伸ばす。

「せりゃああ」

 大振りに振り下ろされる剣を持つ腕を掴みひねりを入れて剣を落とすと足で剣を遠くに蹴りティアの父親を投げるところで止める。

(危なかった。剣の腕があれだったし、受け身取れずに怪我するよな)

 父親が怪我をしたとなればティアが悲しむ。それは好ましくない。

 レンはティアの父親を放し距離を取る。

 するとティアが二人の間に入りレンを庇うように両手を広げる。

「お父様。止めてください。何なのかわかりませんがレンくんが怒るとブルーローズを抜きます。そうなればこの辺りは灰になります」

「えっ? ブルーローズ? 君があの<ブルーローズ>?」

 ティアの言葉にティアの父親は目を丸くしてレンのことを見る。

 まるで観察するようにレンのことを上から下へ舐めるように見る。

「その背負っている剣を抜いてくれないか?」

 少しだけブルーローズを抜き蒼い刀身を見せる。

「本物だ。アッシュくん。なんでレンくんと呼ばれている?」

「あだ名と本名だ。彼女が本名で呼んでいるだけだ」

「そうなんだ。僕、君のファンなんだ」

 急に距離を詰めて来て手を握ってくる。

「は、はあ」

 一体何なんだと思い動揺するレンにティアの父親はどんどん詰め寄ってくる。

「あなた。レンさんが困っているでしょ?」

 ティアの母親が父親の首を掴み後ろに下がらせる。

「クラウディア。君は知っていたんだね?」

「ティアから聞いていましたから。アレンくんが勝手にティアの話の途中で聞かなくなっただけでしょ?」

「いや。だって、ティアが男の人を連れてくるって言ったら父親としてやらないといけないから」

 ティアの両親はアレンの早とちりだということを話していた。

「すまないね。レンくん。てっきり君が娘を騙している悪い虫だと思っていたんだ。まさか君が<ブルーローズ>でティアがそのパートナーなんて」

 アレンはよくやったというようにティアの頭を撫でる。だがティアはレンの前だから恥ずかしいというように振り払う

「も、もう。お父様。お母様止めてください。レンくんも私も列車旅で疲れているのですから」

「そうだね。手荒なことをしてしまったからちゃんと盛大に歓迎しないと」

 その言葉通りでレンはティアの両親から一生に一度受けられるかどうかの接待を受けた。


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