第10話 魔獣を狩る者5

 その後ティアはレンと話せず技術課の区画から戻ってもそこで別れ資料室に来ていた。

「レンくんの資料は……あった」

勝手に資料を見て前のパートナーを知るなんてしたら怒られるだろうがそれでもレンがあれほど話されたくない理由を知りたかった。

「経歴のところは……パートナーの名前が黒く塗りつぶされています」

 誰かが塗りつぶしたのかと思いティアは光を当て透かしてみるが印刷された物なのでわからない。

「それに経歴のところも黒塗りになっていて」

 知りたい場所が完全に隠されていて何にもわからなかった。

「これはコピーされた物だから原本がどこかに」

 ティアは資料室の中をもっと調べようと立ち上がる。

「あれ? あの。どなたですか?」

 いつの間にか知らない男性たちに囲まれていてティアは警戒する。

「いやー。なんだか君が困っているから」

「資料を探しているなら手伝えると思うよ」

 優しそうにそう提案してくる男性たちだったが制服は黄土色でレンから警戒するように言われた鳩の部隊だ。

 とても優しそうだだがレンの言葉があるため素直に了承できない。

「いえ。結構です」

「まあまあ。そう言わずに」

 そう言って男性は手をティアの肩に近づける。

「俺のパートナーに何か用か?」

 男性の腕を掴み鋭い目つきで睨むレンがいた。

「どうしてお前が!? 違う場所に行ったんじゃあ? あいつらは一体!?」

「仲間は倉庫で寝ている。起動者じゃないお前らが自分の相棒の敵を討ちたいというのなら相手をしてやるが」

「くっ」

 男性はレンの腕を振り払うと仲間を連れてその場を離れようとする。

「やるなら俺を狙え。次にティアを狙えば容赦はしない」

 男性たちは振り返ることなく資料室を出ていき静寂が戻る。

「レンくん」

「俺の言葉を信じて奴らについていかなくてよかった。ついていったら何が起こるかわからないから」

「あのどうしてここに?」

「あいつらが追ってきていると気がついて一度別れて油断しているところを倒してティアも襲われるだろうと思ってこっちにきた。間に合ってよかった。それはそうとして」

 レンはちらりとティアの持つ資料を見る。

「これはなんでもありません」

 ティアは慌てて後ろに隠す。だがレンは内容が分かっているというように大きくため息をつく。

「こそこそと資料を探されるよりかは教えた方がいいかもしれない。ティアのことだウッドマンに聞くなりして知っただろうし」

「ごめんなさい」

「まあいい」

 レンはティアと向かい合うように椅子に座るとどこから話そうかと考えているように顎を触っていた。

「まずはティアに話さなかった理由だな。あまりいい話ではないからティアがまたいろんな物を背負うだろうと思って話さなかった」

 確かにとレンの言葉に納得するところがティアにはあった。あまりにも可哀想だと思うような話を聞かされたら胸が裂かれたように泣いて悲しんだと思う。

「勝手に知って気を使われるよりはマシだ。じゃあ、話すか」

「お願いします」

「俺とあいつは俺が<バベル>に入ってすぐに会った。波長が合うとかで向こうも新人で相棒の起動者がまだいなかったってことで組むこととなった。あいつは俺よりも七つ上だったし士官学校も出ていたから俺たちの関係は物を知った兄貴と弟って感じだった」

「兄貴。えっと初代パートナーは男性だったのですか」

「ああ。そうだが?」

 どこか安心したような表情をするティアにレンは首を傾げて話を続ける。

「俺たちは新人同士だったがあいつの知識とブルーローズの力で成績はトップだった。それであいつは首都の行政課から声をかけられた。あいつは行政課に行きたいってずっと言っていたから凄く嬉しそうにしていた。で、俺にもなんか買ってやるって言われて最後の任務前に約束した」

 レンの話に疑問があったがティアは静かに聞き続けた。

「あいつとの最後の任務。それは危険地帯に少し入るがそこまで魔獣が多くないという話で簡単な任務だった。だが実際は魔獣の数は聞いていたよりもかなり多く、気がついた頃には魔獣に囲まれていた。あいつにリンカーで聞くけど返ってきたのは死んでくれという言葉だった。意味が分からないって返すと丁寧に説明してくれた。行政課に行くには起動者のパートナーを辞めなければならない。だけど起動者のパートナーはどちらかが死ぬまで代わることができないって<バベル>から言われたそうで任務で死んだことにして行政課に行くって言った。それで最後にあいつは俺にお前さえいなければ。死んでくれ。頼むから死んでくれ。お前が死んでも誰も困らないって言って通信を切った。それが最大討伐数を取った任務だ。一か月後街に戻ってもあいつと会うことは二度となかった。拳銃はライフルと一緒に最後の任務の日に貰った物だ。まあこんなところだ」

 レンが話し終えるとティアは俯きどんな顔をしたらいいのかわからなかった。

「どうして銃を使い続けるのですか? 扱いが慣れているって程度ならレンくんは他の銃に慣れる性格だと思うのですが。ですからどこか期待しているのでは」

 そんな憎い相手から貰った物なんて捨てはしても愛用するなんて何か特別な理由がある気がする。レンなら壊れて修理することすら難しい銃よりも使い捨てることができる量産品を使うとティアは思っている。特別な理由、それはまだどこかでそのパートナーと絆を信じているからなのではないか。

 ティアがそこまでレンに聞くと予想外というように目を見開く。

「……あまり考えていなかったがそうかもしれないな。いや多分あまり考えなかったというのは違うな。考えないようにしていた。俺はあいつとどこかで繋がりがあるって思いたかった。だからこいつを捨てられなかった」

「そうですよね。レンくん、お兄さんだって慕っていたんですから。そうです。一緒にその人に会いに行きませんか? きっとそうした方がレンくんもすっきりすると思いますし」

「……俺だけだったら多分逃げてしまうだろうしな。わかった。首都フルールに行こう」

「はい!! 休暇申請を……ウッドマンさんでいいんですか?」

「ああ。だが、その前にティアに渡すよう預かってきたものがある」

 レンは封がされた封筒をティアに渡す。

 ティアはペーパーカッターで封筒を開けて中身を取り出す。

「これはもしかして給料明細ですか?」

「ああ」

 レンはティアの反応が楽しみだというように口元を上げる。

「えっ!? これ桁が間違っていませんか? 私、残業もしていませんしちょっとしか働いていないのに」

「驚くよな。<バベル>の給料は基本値に成果値が足されていくって感じなんだ。ティアはパートナーとしての給料に加えて、俺の成績分足されているからその額になる」

「えっええ!? そんなの受け取れませんよ。私、入院してほとんどレンくんのサポートできていなかったですし」

「貰える物は貰っておいたほうがいい。生活費とか欲しい物とかに使うんだから。来月までのモチベーションにもなるし。働き足りないのなら大規模作戦で頑張ってくれればいい」

「はい!!」

 レンが優しく微笑むとティアは元気そうに頷く。

「初任給ですか……お父様とお母様にプレゼント買わないと」

「<バベル>に入るときに約束したのか?」

「はい。今までのお礼を込めて買いたいのですが、こういう時はどういった物を買うべきなのでしょうか?」

「両親いない。プレゼントも送ったこともない奴に聞くか?」

「すみません」

「まあ、別に気にしないし冗談のような物だ。経験がないから一般的な話となるが渡す物はその人が好きな物かもしくは愛用してもらえる物を送ればいいのではないか?」

「なるほど。お父様とお母様の好きな物か使ってもらえる者ですか。少し考えなければなりませんね。レンくん。まずはウッドマンさんに休暇届け出しましょう」

「ああ」

 ウッドマンのところに行き休暇届を出すとすんなりと受け取って貰え受諾してもらえた。

「まさか。アッシュがね」

「なんだ?」

「いや。何でもないよ。それよりも休暇を楽しむんだよ。その休暇が終わったら大規模作戦なのだから」

「ああ。わかった」

 ウッドマンにそう言われ二人は部屋を出る。

「あの。明日から出発するってしましたけど」

「午前に買い物をして、その後午後に鉄道で首都まで行く」

「じゃあ、早めに待ち合わせした方がいいですね」

「ああ。九時に、場所は駅の前にある時計の前でどうだ? あれならわかりやすいと思うが」

「はい。大丈夫です」

「そうか。じゃあ俺も準備がある。ここで別れるが怪しい奴には気をつけろよ」

「はい!!」

 ティアが元気よく走って行くのを見届けた後、レンは通信機を取り出す。

「俺だ」

『アッシュか。どうした?』

「頼みがある。協力してくれないか?」

 ノアに連絡を入れて事前の準備をする。

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