第9話 魔獣を狩る者4

 その次の日に退院をして午後には復帰して<バベル>に復帰した。

「ご心配おかけしました。ティア。これより復帰します」

「おかえりなさい」

「はい。ロサリアさん」

 ロサリアに満開の笑顔を向けるティア。それを見て起動者のパートナーたちは嬉しそうにティアを囲む。

 その光景を部屋の端でダーツをしながら眺めるレンとノア。

「アッシュ。昨日、見舞い行ったんだろ?」

「行ったけど何?」

「ロサちゃんから聞いていた話だとティアは元気なかったそうだが、今じゃああれだけ元気だ。間にあったのがアッシュの見舞い。一体何をしたんだ?」

 ウザ絡みをしてくるノアにレンは面倒だというような表情をする。

「何もしていない。それにあれは元気になっている途中で完全な状況じゃない」

「ふーん。そんなことまでわかるか。ウッドマンに何か言っていたし」

「あれは正式に俺のパートナーにするって話をしただけだ」

「ふーん。ティアのことかなり気に入ったんだな?」

「なんでそんな話になる」

「いやー。アッシュにも春が来たんだなー。お兄さんは嬉しいぞ」

「うっとおしい」

 レンは肩を組もうとするノアの手を払い除けて、ダーツの矢を一本手に取り投げる。

 真ん中に当たったことを確認することなくレンは部屋を出ていく。

「あっ。レンくん。どこにいくのですか?」

「「レンくん!?」」

 ティアの言葉に部屋にいたほぼ全員の視界を集めることとなった。

 だがレンは気にすることなく足を止めずティアは一度お辞儀をしてレンの後を追っていく。これはどういうことなのかという表情をして二人の後姿を眺めていた。

 レンの横を嬉しそうに歩くティアを連れてレンは射撃演習場にやってきていた。

「レンくん。銃を撃つのですか?」

「ああ。魔獣に魔導拳銃を弾かれて落とした。構造的には問題ないってことになっているが違和感があったからその時だけなのか壊れたのか確認したくて少し試し打ちをする」

「そうなんですか。……あれ? でも、対魔獣用の兵器は魔力を持たない人しか使えなくて、でも魔導拳銃は魔力の持った人しか使えないから矛盾していますよね?」

 ティアが首を傾げながら聞くとレンは的に三発弾を当て拳銃を下ろす。

「そうだな。おかしいと思うが理由は不明だ。調べてもわからなかった。俺は魔力を持っているがブルーローズの起動者って事実だけが確かだ。それとこれも伝えておいた方がいいな。ブルーローズは俺の前の起動者が使っていた時は十個の指輪だった」

「使用者によって形状が変わるということですか?」

「いや。俺以外の起動者は全員指輪の形だった。<バベル>のデータと俺のブルーローズを比べたら同じ性質だったからわかったが剣ではないらしい」

「わからないことだらけですね」

「だが、魔獣を殺せるならいいだろ?」

「そうですね」

 レンの言葉にティアは同意し笑顔を向ける。しかしレンは少し困ったような表情をして拳銃を様々な角度から眺めていた。

「どうですか?」

「やっぱり壊れている。魔力を送って弾を作る箇所が傷ついているようで弾の生成が上手くできていない」

「修理に出すのですか?」

「ああ。<バベル>内に技術課があってそこに行けばパーツがあるから組み直して直す」

「じゃあ、次はその技術課に行くのですね」

「ああ。そうだ。ティアは行ったことはないか?」

「そうですね。施設内は探索していないですから」

「そうか。だが施設内を一人で歩かない方がいい。歩きたいならロサリアとかと一緒に行くように」

「えっ? どうしてですか?」

「俺と同じ制服着ているからだ。俺を嫌う奴は結構いる。俺への嫌がらせってことで何かしてくると思う」

「またまた。そんな陰湿な人いませんよね?」

「いや割といる。ノアのところの隊員ならいいが他の隊の隊員はそこまでいい奴はいない」

「そうなんですか」

「だから気をつけろ」

「わかりました」

 ティアにも警告したのでレンは片づけをして技術課の施設に向かう。

 迷路のような通路をレンは迷うことなく進み技術課と書かれた区画までたどり着く。

「目が回りそうです」

「本当ならもう少しわかりやすい道を通ったが少々人が多くてな」

「黒い制服の方と黄土色の制服を着た方たちですね」

「ああ。烏と鳩だ。烏はマシだが鳩は気をつけろ。基本俺を敵視しているからな」

「敵視……わかりました。でも、<バベル>の隊って鳥の名前がついているのですね」

 ノアの部隊は鷲、黒い制服の部隊は烏、黄土色の制服の部隊は鳩。全部鳥の名前がついている。

「ああ。倒しているのが獣だから獣のエンブレムは付けられないってことで鳥にしている」

「なるほど。確かに獣を狩っているのに獣の名前は変ですね」

「さて、技術課に入るか」

「はい」

 二人は技術課の区画を進んでいく。

 各種様々機械が並びティアの興味を引いてくるがレンと離れれば確実に迷うのがわかっていたため離れずに歩き続けた。

「ここだ」

 レンが止まったのは白衣を着た薄緑色の髪の女性がいる研究室だった。

 女性は休憩中だったようで湯気の出るカップを片手に本を読んでいた。

「邪魔する」

 ノックをすると返事を待つことなくレンが入りティアは慌てて後を追う。

 女性はレンの声が聞こえなかったようで二人が部屋の中に入ったことに気がついていない。

「頼む」

 レンが魔導拳銃をテーブルの上に置くと女性は本から視線を外して二人を見る。

「おや。珍しい客だね。それに可愛らしい子まで」

「ティアだ。俺のパートナーだ」

「へぇ。私の後任の子なんだ」

 後任という言葉に眉が動くティア。どういうことなのかとレンに目線を向ける。

「言葉のままだ。これがティアの前に俺のパートナーだったってことだ」

「そうそう。名前は言っていなかったね。私はデボラよ」

「ティアです」

「ティア。うんうん。憶えた」

「それよりも銃を見てくれ。弾の生成箇所に異常が出ている」

 長くなるだろうとレンが会話を遮ってデボラに魔導拳銃を見せる。するとデボラは大きくため息を吐く。

「あのねぇ。毎回言っているけどこれ型落ちどころかアンティークなんだから」

「だからお前に頼んでいる」

「見るだけ見るけど。ティアちゃん、そこに飲み物あるから適当に飲んでいいよ」

 デボラは指をさした後魔導拳銃を解体しパーツを広げていく。

「ティア。厚意に甘えて選んできていい」

「レンくんはどうします?」

「どうせ味がわからないからいい」

「そうですか。私は紅茶にしようかな」

 ティアがお湯をもらいインスタントの紅茶を淹れる。レンは椅子に座り魔導拳銃の解体が終わるのを待つ。

「アッシュ。ちょっと来て」

「わかった」

 デボラに呼ばれレンはテーブルの前に立つ。

「この部分見てくれる」

「傷ができているな」

「ここは魔力を弾に変える場所なんだけどこの傷だと使い物ならないわ。で、こっちがそれの補助だからこっちが動いて何とか使えるってところ」

「なるほど。代えはあるか?」

「ないわ。この型の部品なんて世界中どこを探してもあるわけないじゃない」

「じゃあ作れるか?」

「無理ね。今の技術を使ったら一発で他の場所が壊れるわ」

 困ったなと他に案はないのかと考えるレン。それにデボラは呆れたというように大きくため息をつく。

「いい加減新しいの買ったらどうなの?」

「それと感覚がだいぶ違う。それだと戦いにくい」

「あのー」

 二人の会話を見ていたティアが恐る恐る手を挙げる。

「どうした?」

「私、銃とか詳しくないのですけどレンくんの拳銃って特別な物なのですか?」

「全然普通のって言いたいけど、この型三十年前に流行った物で今じゃあこれくらいしか現役で使われていないでしょうね」

「三十年前、えっとそれは古いって認識でいいのですか?」

「ええ。技術者の私からしてみれば、そんな銃使われている時点でおかしいわ。カップとかだったら博物館で飾られているようなものよ。それにこのR46型は欠陥が多くてほとんど売れずに次の型に移ったわ」

「なんでレンくんはそんなものを愛用しているのですか?」

「最初のパートナーから貰った物だからよ。その拳銃とライフルをセットで」

「最初のパートナー? デボラさんは二人目なのですか?」

「ええ。私はレンの十年間の内の三か月しかパートナーじゃなかったのよ。私の後はあなたがパートナーになるまで五年間パートナーがいなかったし」

「四年も一緒にいた人。その人は?」

「デボラ。そっちの補助をメインにすることはできるか?」

 完全に会話を区切りレンがそう提案する。完全にその話題は話すなという警告のようだとティアは思う。

「不可能じゃないけど突然弾が作れなくなるわよ」

「そうか。今はそれでいい。そうなったらその時考える」

「わかった。じゃあそんな感じにやるわ」

「ああ」

 レンは椅子に座り魔導拳銃の完成を待つ。ティアはどうしてもレンの最初のパートナーについて気になるようでレンの隣に座りそわそわしていた。

「……」

「あの」

「……」

「すみません」

 あまりにも無言のレンが怖かったようで聞く前に謝ってしまうのだった。

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