第7話 魔獣を狩る者

 目的の森林地帯を見渡すことができるようにレンは高台にバイクを止めていた。

 高台を取るためにバイクを走らせたため少し時間がかかってしまった。

「魔獣の反応は?」

『えっと、中型二十体がそこから西に九百メートルのところにいます。現在はそれだけです』

「わかった」

 レンは背負っているバックから魔導ライフルを取り出す。

「反応があったらどんなのでもいいから伝えてくれ」

『はい!!』

 組み立て終わった魔導ライフルを構えティアが言っていた場所をスコープで覗く。

「見えた」

 ブルーローズに触れて魔導ライフルに魔力を注ぐ。

「装填」

 魔導ライフルの引き金を引く。

 蒼い炎を纏った銃弾が流星のように降り注いだ。

『反応消滅』

「他の反応は?」

『えっと待ってください。いました。今見ているところから少し右にずらしてください。見えると思います』

 ティアの指示通りにスコープを動かすと魔獣の姿が見えた。

「ああ。見えた。数は?」

『数はえっと大型三体に中型十体、小型三十体です』

「目標ではないか」

『そうですね。新しい反応が』

「あれを倒したら教えてくれ」

『わかりました。マークだけつけておきます』

 ティアの返事を聞いたレンは魔力をライフルに送り弾丸を生成する。

 ブルーローズに触れライフルの引き金を引く。

「ヒット」

 目標の群れが灰に変わったことを確認するとティアの指示を聞き次の群れを灰に変える。

 倒した数が百を超えてレンは数えなくなった。

『目標現れませんね』

「この辺りにはいないかもしれない」

『どうします?』

「ここにいても現れるかどうかわからない。もっと奥に行く」

『わかりました。一つお伝えしたいことがあります』

「なんだ?」

『この辺りに盗賊団がいるそうで警戒してください』

「……そうか」

 レンは少し考えるとバイクを茂みの中に隠すと坂を下っていく。

「何かあったらすぐに報告を」

『はい!!』

 茂みをかき分け森の中を進んでいく。

 街より空気が澄み魔獣さえいなければ昼寝するのにちょうどいい場所だ。

 だがレンは気を抜くことなく拳銃を持ったまま移動を続ける。

『あっ。そこから左前にずっと行った場所に魔獣の反応です』

「わかった」

『中型二十体です』

「今すぐ向かう」

 レンはティアファ伝えた場所に向かって前進する。

「ッ!!」

 レンは急に脚を止め、目を閉じた。まるでティアに何かを見せないように。

『あの。どうしました?』

「リンカーを切る」」

『えっ?』

「約束を覚えているはずだ。俺が繋ぐまでリンカーを繋がない。いいな」

 レンは一方的に話すとリンカーの繋がりを切断し目を開ける。

 それから五十メートルほど歩くと普通の人でもわかる鉄の臭いが漂い、さらに前方では血だまりができ、骨の向きだしとなった肉塊が転がっていた。

「やはりアレか」

 レンは表情を変えることなく進んでいく。

 大型魔獣の姿が見えるのと同時に魔獣に襲われた人だった物が転がっていた。

 ティアに見せなくてよかったなと思いながらブルーローズに触れて弾を込める。

 死体で魔獣が遊んでいる隙に魔導拳銃で頭をぶち抜く。

 魔獣が一体で行動していることはない。近くに群れの仲間がいるはず。

 レンは警戒しながら周囲を見回す。

 茂みから次々に血に塗れた小型の魔獣が飛び出てレンに向かってくる。

 魔導拳銃を連射し小型に触れさせることなく全滅させる。

「出てきたのは倒したが周囲にいるかどうか。リンカーならわかるが」

 だがリンカーに繋ぐわけにはいかない。

 レンは警戒もしながら死体の山に近づく。

 少し見ただけで上半身がない、下半身がない、頭部だけがない、内臓が飛び散っている、四肢が外れているなど様々な状況の死体があった。

「数は三十人に近いか。生存者はいないかもな」

 レンが小さく呟くと同時に小さく呻き声のような声が死体の山から少し離れた場所にある死体から聞こえた。

 駆け寄り男をひっくり返して様子を見る。

 脇腹を引っ掻かれて血が出ているが、他にわかる外傷は腕の骨折だけ、呼吸もしていて生きている。

 レンはブルーローズを鞘から抜くと蒼い炎を出現させ手で男に触れさせる。

 男の身体を蒼い炎が焼き、怪我をしていなかったかのように再生させた。

「ごぼっ。あ、あれ、ここは?」

 身体が治った男は血を吐いて何度か咳をした後、目を開けてレンのことを見る。

「あんたは魔獣に襲われた」

「そ、そうだっ。みんなは……」

 死体の山を見て絶句する男。仲間が無残な姿にされて絶句するだけで済んだのだから精神が強い方だ。

「見ての通りだ。生存者を探す。あんたも手伝ってくれるよな」

「あ、ああ。そうだな。生きている奴がいるかもしれない」

 男は立ち上がり生存者を探す。

 生存者は最初の一人を合わせて三人だけだった。

 三十人近くいた内の三人しか生き残らなかった。そのことが生存者たちに重くのしかかっていた。

 だがこのままいるわけにはいかない。周辺の魔獣は倒したが血で更に魔獣を集めるかもしれない。

 死体を燃やさなければ。

 レンはブルーローズに触れ拳銃に弾を込める。

「死体を燃やすがいいか?」

「ああ。あいつらもここで腐るよりかは俺たちで弔った方が喜ぶと思う」

 レンは死体に向かって引き金を引こうとした瞬間頭上の木から音が聞こえレンは後方に下がり上へ銃を構える。

 枝が折れる音が聞こえ、男が地面に落ちてくる。

 服装は生存者と同じで仲間だろう。怪我もなく無事なようだ。レンはちらりと最初に助けた男を見ると頷き返事をしてくる。

 問題ないとレンは判断し銃を下ろす。

 助けた男たちは落ちてきた男に近づき助ける。

「お前も助かってよかったな」

「……ああ」

 落ちてきた男は仲間に声をかけられても反応が悪くぼんやりと死体を眺めている。

 あまり良い状況ではないなと思いつつレンは死体の焼却をする。

 蒼い炎が死体を灰に変えていく。

「……せいだ」

「お、おい」

 落ちてきた男が燃える死体を見ながらゆらりとレンに近づいてくる。

「お前のせいだ。お前たちが魔獣を狩っていたら仲間が死ぬことはなかった!! お前が。お前のせいだ!!」

 錯乱と狂気、そして怨嗟が籠った声を発しながらレンの首を両手で掴んでくる。

 首の骨の軋むような音が聞こえる。

「なっ!?」

 男の手に蒼い炎が移り焼く。慌てて男はレンの首から手を放す。

 首の掴まれた場所に蒼い炎を纏ったレンは男を木に叩きつけ肘で身体を押さえつけた。

 当たらないように男の頬の横を撃つ。

「仲間を弔うなら付き合ってやるが自分の無力、卑怯さを隠すための八つ当たりに付き合ってやる気はない」

 明確な敵意を男に向けて脅す。

「……」

 男はぐらりと力が抜けたように腰を抜かす。

 妨害されたことで炎が消えてしまった。そのため燃えかけの死体が残ってしまっている。

 もう一度炎で焼き直す。

 そのタイミングでリンカーが光る。

『大丈夫ですか!? バイタルに異常が出たため約束を破りましたけど――』

 リンカーからティアの悲鳴と共に大きく崩れるような音が聞こえた。

 ティアに死体を見せたくなかったためリンカーを切ったのに。

 レンは奥歯を噛みしめ男を睨み、リンカーに声をかける。

「おい。聞こえるか。近くに誰かいないか」

 リンカーからは返事が返ってこない。

 レンの顔に焦りが出た瞬間リンカーから声が聞こえてくる。

『アッシュ。聞こえる? リンカーを共鳴させて私のリンカーから話しているの』

「ロサリアか。ティアは?」

『気を失って椅子から落ちたわ。これから病院に運ぶけど気絶の原因ってアレを見たことよね』

「ああ。視界共有で至近距離から見た。ロサリア。頼めるか?」

『ええ。問題ないわ。アッシュは戻ってくる?』

「いや。まだ目標の群れは倒せていない。このまま仕事を続ける。それと生存者がいる。誰か送ってくれ」

『わかったわ』

 リンカーの通信が切れてレンは死体を完全に灰に変えた。

「黒い雲、雨降るか」

 空には重く雲が乗っていた。

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