第5話 初仕事4
バイクに乗り目的地付近に辿り着いたレンは周囲を見渡す。
林道だったのか周囲は木と茂みで囲まれていて視界が悪く警戒しておかなければ不意を打たれる地形だった。
レンはリンカーを起動してティアに繋ぐ。
『聞こえていますか?』
「問題ない」
『状況を確認します。目標は中型魔獣三体の討伐です。現在ブルーローズさんは目標地点にいます。ですが、リンカーからの情報では周囲の魔獣はゼロとなっています』
「わかった。半径一キロにはいないということか」
『移動します?』
「ああ。だがバイクはここに置いておく」
『では、ここにマークつけておきます』
レンは茂みをかき分けリンカーの感知範囲内に魔獣が入ったと知らせが来るのを歩きながら待つ。
百メートルほど歩いたところでレンは何かを感じ足を止めて魔導拳銃を抜き後方に下がる。
「……来た」
『え? あっ。いきなり反応が三つ。地中からです』
地面が盛り上がり這い出てきた中型魔獣。
地面の中から出てくるのは初めてのことだったがやることは変わらない。
ブルーローズの柄を触れ魔導拳銃に魔力を送る。
「装填」
左右から一匹ずつ、真ん中から一匹が飛びかかってくる。
レンは左右をほぼ同時とも思えるような連射で魔獣の頭を撃ち抜き、真ん中の魔獣の頭部に銃口を向け引き金を引く。
『魔獣の反応消失。お疲れさまでした』
「ああ」
消滅していく魔獣を視線の端に捉えながら魔導拳銃をホルスターにしまう。
息を吐いて緊張を解くレンに対しレンの力になることができたことが嬉しいティアは上機嫌そうな声が聞こえてくる。
「戻る」
『わかりました。バイクの位置は』
「わかる」
『そうですよね。それほど離れていませんし』
「リンカーを切るぞ」
『はい。それでは待っていますね』
レンはリンカーを切りバイクの置いてある場所まで戻る。
今回はアレがなくて幸運だったと思うレンはバイクを発進させた。
数時間後<バベル>の施設内に戻ったレンは真っ先にティアと会う。
「お疲れ様です」
「ああ。報告はしたか?」
「はい。ロサリアさんが協力してくれてできました」
「そうか」
ティアが自信満々に言うのでレンは仕事がなくなったなと思う。
「ブルーローズさん」
見るとティアがレンに向かって手の平を向けていた。
これはどういう意味なのだろうかと思い首を傾げるレン。
「手をこうしてください」
ティアに言われた通りにレンが手を出すとティアはその手に自分の手を当てる。
「ハイタッチです」
「ああ。そういうことか」
そのようなことをしたことがないレンは手を出されてもそれがハイタッチだとはわからなかった。
ハイタッチを終えたティアは凄く嬉しそうに笑顔をレンに向ける。
「俺の手なんか触れて何が嬉しいんだか」
「それはアッシュと協力できたって感じがするかだ」
ノアが後ろからレンの肩を組んでくる。
「訳が分からない。仕事が完了したらそれで十分だろ?」
「そういう事じゃないんだよなぁ」
わかっていないなという反応をするノアにレンは首を傾げる。
それに対してしょうがない奴だとノアはレンの背中を叩く。
「その内、お前にもわかる様になるさ」
「そう」
レンは興味がないというように反応をするがノアは笑って気にしていないというようにレンの背中を叩いていた。
「あの。お二人は凄く仲が良さそうなんですけどいつ頃知り合ったのですか? もしかして同期とか?」
「聞きたいか?」
「おい」
嬉々とするノアに対してレンは物凄く面倒だという顔をする。
「実はアッシュと俺は先輩と後輩って関係だ」
「先輩、後輩?」
ノアに先輩、レンに後輩と指さしながら聞くティアにノアは首を振る。
「アッシュが先輩だ。歳は俺が上だがな」
「そうなんですか? ノアさんが隊長だからてっきり」
「まあ、うちは軍隊と違って階級があるわけじゃないからな。わかりにくいよな」
「そうですよね。話を戻しますがどんな風に仲良くなったのですか?」
「それか」
ちらりとノアはレンのことを見る。
「別にいい。それよりも放せ」
「よし。アッシュの許可も出たし昔話といくか」
無視かよと言うレンは諦めたというようにため息をつく。
「俺とアッシュはここからちょいと離れた場所の大規模作戦で同じ場所で戦ったんだが、意外と魔獣の数がいて俺とアッシュだけが逃げそびれて大規模作戦で倒すはずの魔獣に囲まれて倒さないと生き残れないって状況になった。生きるために三日間ずっと戦い続けて最終的に大規模作戦で倒すはずだった魔獣を全部片づけて、魔獣どもの死体の山の上で、疲労で頭が可笑しくなった俺たちは人生で一番笑ったってくらい笑った。で、死地を超えた俺たちは仲良くなったわけだ」
昔を懐かしむように言うノアに対しティアはその光景を想像してワクワクしているようだった。
レンはそれを見て大きくため息をつく。
ティアが想像しているような英雄のような戦いではなかった。
仲間の置いていった物資と作ってあった拠点を利用してひたすら耐えて魔獣を倒して魔獣の数が底に尽きただけだ。一騎当千の英雄ではない。もし物資がなければ二人とも死んでいただろう。
だが訂正する気にはならなかったのでレンは無言でいた。
「何々? 二人の話?」
ロサリアが面白そうな空気を感じとり話に混ざってくる。
「はい。お二人がどうやって友人になったかって話です」
「それね。大変だったそうよ。ティア、それに似た話でアッシュの一任務で最多討伐をした話は知っているかしら?」
「知りません。どんな話なんですか?」
興味を示すティアに対しレンはその場を離れようとするがノアに掴まれて逃げられない。
「<バベル>内では結構有名な話でアッシュが魔獣の巣付近で道に迷って巣の魔獣と戦う事となったのよ。リンカーが壊れて当時のパートナーとも通信できなくなって一人で魔獣の大群、数は確か数万とかだったかしら。その数を相手に一か月戦い続けたのよ」
「えっ? 一か月!? <バベル>は何をしていたのですか?」
「反対側から魔獣を倒そうとしたけど数が多すぎて手が出せず魔獣がいなくなるのを待つしかなかった」
「それで一か月」
「ええ。ブルーローズだけでも回収しようと向かったところ見たことのない数の灰となった魔獣の死体の山に座り空を見るアッシュがいたそうよ」
「でも、どうやってブルーローズさんは生きていたのですか? ご飯とか水とか」
「任務だったから水は数日分あったそうよ。食料はアッシュがいつも食べていた丸薬があったから」
「なるほど」
ティアはレンに向かって尊敬するような目を向けてくる。
「凄いです。私もブルーローズさんに負けないように頑張らないと」
「それほど頑張らなくていい」
「えっ?」
レンはもういいだろうとノアを無理やり剥がすと掴まれる前にどの場を離れる。
ティアはノアとロサリアを見て少し不安そうにしていた。
「なんだかブルーローズさん、不機嫌そうで」
「任務の後なのに呼び止めていたからからだろ」
「それだけなのでしょうか?」
「まあ、機嫌は時間が経てば良くなるだろうし明日には機嫌よくなるだろ」
「そうだといいのですが」
ティアは少しだけ気がかりで胸の中がもやもやしていた。
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