第3話 初仕事2
任務で数日開けていた自宅に戻ったレンは窓を開けたままベッドで横になっていた。
だが寝てはいない。考え事をしていた。
汚れを知らない白い雪のような綺麗な髪をした可憐な少女。レンのしている仕事の相棒としては真っ直ぐで合わない姿が目に焼き付く。
理由はわからないがなぜか彼女の姿を思い出してしまう。
レンは自分の左手を眺めて何かを潰す様に拳を握る。
「どうせすぐに代わるだろう」
仕事を一週間も続けていれば少女の心が折れるような出来事が起こる。
憶えておく必要のないことだろう。
レンは仕事の疲れを取ろうと夜まで寝ようとする。すると窓から綿毛のような白い光の球が入ってきてレンの手を突く。
「帰ってきたのか。クーナ」
レンは一度身体を起こすと手に止まらせる。
クーナと呼ばれた綿毛は魔力の塊の精霊だ。
任務中に森の中でまとわりついてきたのでそのまま飼うことにしたのだった。
クーナを部屋の中で飛ばしもう一度寝ようとしたところで部屋の入り口であるドアの前に人の気配を感じた。
「来客の予定はない」
仕事上の問題で恨みを買うこともある。それのお礼参りというのも珍しくない。
それだろうと思い魔導拳銃を手に持ちドアを開ける。
開けた途端にドアの前の人物は話し始める。
「突然すみません。私、隣に引っ越してきた者です。簡単なお菓子ですがこれをどうぞ?」
完全に練習してきた言葉を言い切った少女はレンの顔を見て目を大きく開き丸くする。
ティアだった。予想外の来客で魔導拳銃を見せなくてよかったと思いレンはどうしたものかと困ったように頬をかいていた。
「ブルーローズさん?」
「あんたか」
「お隣なんですね」
「悪いな。こんな不愛想な奴が隣で」
「い、いえ。そんなことはありません。えっとお菓子手作りなんですが食べてください」
ティアの差し出す箱には店に並ぶ物と変わらない手作りの小さなカップケーキが並び甘い香りがした。
レンは小さくため息をつくと一つだけ手に取る。
「甘い物は苦手だ。一つだけもらっておく。誰かに渡したいなら大家の婆さんに渡すといい。あの人は甘い物に目がないから喜ぶだろう」
「あっ。はい」
レンは一口カップケーキを齧り飲み込む。
「多少なり隣人として助けてやるから力仕事が有ったら言ってくれ」
「あっ。待っ」
ティアが言い切る前にレンはドアを閉める。
もう一度カップケーキを齧る。顔をしかめて大きくため息をつく。
「味はしない」
レンは味覚がない。それはウッドマンに拾われてからずっとだ。ただ痛覚はあるため辛味だけは何とか感じることができるため好んで食べるのは辛味の強い物だけだ。
「どうするか。クーナはマナか魔力しか食べないからな」
しょうがないと一気に食べて水で一気に流し込む。
味がわかれば美味しいのだろうなと思いながらレンは魔導拳銃を元あった場所に戻し窓の外を眺める。
通りには人が賑わい、いたって平和な日常を送っていた。
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