第35話 聖女の宣託と俺の選択

 雷が落ちたかのように、ビクリとしたロクサリーヌは倒れ込む。何事かと思った俺は倒れそうになったロクサリーヌを支える。


「闇の刻、ルクサンバーヌの町にて、あの悪夢の地獄が蘇る」


 とロクサリーヌは焦点のあわない目をして聞いたこともない声で告げた。俺はこれがロクサリーヌが言っていた宣託かと思った。そしてロクサリーヌは意識を失った。


 すぐに俺はロクサリーヌを抱えて医療室へ連れて行った。医療室に連れていき事情を話すと驚いた顔をした医療室の先生が、


「ありがとう。急いで担任のランネル先生にここへ来るように伝えてくれる? 宣託の内容次第じゃ何が起きるか分からないから」

「地獄が蘇るらしいですよ」

「えっ、そんな内容だったの?」と話しながら医療の先生は難しい表情をしていた。


 俺はランネル先生を呼びに行った。ランネル先生は宣託の内容を聞いた後、青い顔をして学園長に報告したようだ。そして事態を重く見た学園長は

「念のためだ。ルクサンバーヌの町から住民は全て退避するようにすぐ行動せよ。人命に関わるかもしれん」

 と指示をだした。


 ロクサリーヌの宣託の内容と、歴史上の宣託の聖女の功績が逆に、死ぬかもしれないという不安をあおった。


 そして十中八九この宣託の内容は、ロクサリーヌに因縁のあったアンデッドであるカオスリッチの可能性が高い。ロクサリーヌが幼い頃に聞いた内容と似ていること、『あの悪夢』と繰り返されることが予想される文言がついていたことだ。


 近くの村に異変はないか調べさせるという話だ。本当にロクサリーヌの因縁の相手なら混沌の不死王カオスリッチが相手となる。相手は不死だと言い放っている。


 だが、不死なんて早々ありえない。かといって本当にカオスリッチは不死の力があって倒せませんでした、というんじゃこっちが死ぬだけだ。


 カラクリはあるはずだ、と俺は考えた。不死になった奴が倒せないなら、世界は滅んでいてもおかしくない。でも不死が存在しようと倒され世界は脈々と続いてきたのだ。


 俺はランネンル先生に古代魔導書を見せてもらいたいと頼み込んだ。そう、無詠唱ができる方法が書いてあったという魔法の本だ。


 ランネル先生に聞いてみた。

「フラタルム魔法学校の図書館にあったのよね。禁書扱いだったのを教師権限で読んだのよ」

 と言っていた。

「まさか……魔法のイメージが大切とか、ウォッシュ使って回復魔法した方が綺麗に傷が治るっていう話も無詠唱も?」

「そうそう、全部一緒に載ってたのよ。よく分かるわね~!」

 禁書の内容を平然と話してたのか。この学校のセキュリティシステムは大丈夫なのか? 学校というよりはランネル先生がヤバいのか?


 俺としてはありがたかったから、いいけれどなんて思った。俺はフラタルム魔法学校の図書館に来ていた。俺はランネル先生に聞いた古代魔導書を調べ倒した。

 そしてその古代魔導書に載っていたおとぎ話の中に不死に関する物語をみつけた。


 伝説は語る。


『不死と呼ばれる存在がいました。その不死の存在のせいで、このままでは世界の全ての土地は腐り続け、全ての生き物は死に絶えむくろとなるでしょう。


 全ての生物が死ぬ運命と誰もがあきらめた時、勇者が現れます。勇者は不死の存在が隠していた聖遺骸せいいがい、すなわち『逆さの十字架』を破壊し不死の存在を倒したのです。


 そして世界は救われました。めでたしめでたし』


 聖遺骸の『逆さの十字架』、これが恐らく戦いのキーアイテムになるんだろう。でも俺はどこかで『逆さの十字架』を見た気がする。


 混沌の不死王カオスリッチの隠す聖遺骸。どこだ? どこで俺は見たんだ? これを壊せば俺と聖女ロクサリーヌの因縁にケリをつけられる。


 聖遺骸とは何なのか? という話になるだろう。この異世界に伝わる聖遺骸は遥か昔の魔王ゆかりのアイテムだ。


 その不死のアイテムは『逆さの十字架』だった。この異世界の普通の十字架は正しく生きて死ぬことを象徴するらしい。その逆は死を拒むこと。だから不死へ憧れと象徴が『逆さの十字架』という訳だ。


 そして俺たちはその存在を偶然とはいえ確認していた。思い出した……そう、全ては街の探し物クエストだ。小犬のポコタが教えてくれたんだ。


 不死の伝説へのヒントは日常で行われるの授業の最中、街の探し物クエストでみつけていた。誰もいない廃墟の教会。その地下に鎮座していた『逆さの十字架』。


 何なのかも分からないと思っていたあの『逆さの十字架』が混沌の不死王カオスリッチを倒すためのキーアイテムだ。


 誰も街の廃墟になった教会の中に、不死のためのキーアイテムがあるなんて思わない。それは全ての人間は魔族に抗う存在だという大前提があってこそだ。


 だが今、街の廃墟の教会にこれが隠してあったということはある事実を示している。それは今回の混沌の不死王カオスリッチを信奉し、支援する人間がいるということだ。


 そいつらもあぶり出さないといけない事態になったってことだ。早急に動かないといけない。


 しかも『地獄が蘇る』という宣託はもうすでにあったのだ。すぐそこの近い未来だ。そしてそれまでに混沌の不死王カオスリッチを倒せたとしても、次の不死たる災厄が生まれ人々を殺し続けるだろう。


 だからこそ聖遺骸、『逆さの十字架』を破壊する必要があると思った。

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