第34話 魔法学校襲撃事件③

 デュラハンに向かって駆け出した俺は剣を回避し相手の胴を殴り蹴りつける。拳をガードされようと足刀で相手の体勢を崩す。けれども無理はせず相手の攻撃は丁寧にさばく。さばきながらも思考する。


 ロクサリーヌの宣託は、なんらかの事態をその場にいないことで回避できる。そういうものだし、これが最大の利点だ。人間が魔族と戦う時に有利になるようなものじゃない。


 宣託のあった場所で待ち伏せすれば、襲ってくる魔族を殲滅せんめつできるという考え方もできるのか? 今まで逃げているだけだったが、魔族は人間が反撃してくるのを恐れている?


「お前らは人間の反撃を恐れているのか?」

 するとこれを聞いたデュラハンは鎧を揺らせて嗤いだした。

矮小わいしょうな人間ごときを、我ら魔族が恐れる理由がどこにある? お前ごときの雑魚を、我らが恐れる理由なんぞないわ」

「それなら、なぜ聖女の命を狙うんだ?」


 この問いに対する答えはなかった。かわりに

「茶番は終わりだ。死ぬがいい!」

 と剣を振り回してきた。


 目の前を剣が通り過ぎる。俺は反撃を繰り出した。デュラハンは俺の拳を片腕で止めてみせた。それでもかまわず拳を振りぬき吹き飛ばす!

 更に吹き飛んだデュラハンに俺は追撃を仕掛けた。だがその前にアセンダリ先生に向けてキラカタルが上級魔法エアロストロームを仕掛けてきた。

「この……キラカタル君! 正気に戻りなさい!」とアセンダリ先生はキュアリーをかけていた。魅了が治ったキラカタルは詠唱を止めてその場に倒れた。


 その時だ。デュラハンの目が赤く光り、周囲一帯に赤い光が広がった。俺は意識が遠くなった。マズ……い。


 そこにキュアリ―をかけて魅了を治してくれたのは、ランネル先生でもアセンダリ先生でもなく、ロクサリーヌだった。ずっとキュアリーの練習をしていた成果か! 隣でずっとキュアリーばっかりやってたもんな!


 意識を取り戻した俺は

「ありがとう! ロクサリーヌ」

 と叫び、デュラハンのかかえる頭部を殴り続けた。

「ガザセルさん、そんな奴やっつけちゃってください!」

と腕まくりしてロクサリーヌは叫ぶ。そして


「我がつかさどるは炎の演舞」


 と強化魔法を俺は唱えた。力がみなぎる。同時に腕と脚に炎が宿る。支援魔法も強化魔法もこれにて準備完了だ。デュラハンの鎧に向けて横から殴りつける。デュラハンは吹き飛んだ!


 続けざまに地面に落ちた頭も攻撃する。防御する身体もない状態だ。ここしかない! 俺は全ての力を込めて殴りつけまずは頭部を破壊し、動きが鈍くなった鎧も原型がなくなるほど破壊した。


 ふわふわとした光がデュラハンから発生し鎧もろとも消えていった。すると冒険者たちも先生たちも魅了が解除されたのか意識が戻ったようだ。


 その場にいた冒険者はみんな勝利の雄たけびをあげていた。


 魅了が治った冒険者たちはスケルトンを素早く処理した。ボーンヘッドは冒険者たちが協力して倒していった。もちろん俺も何匹か倒した。


 負傷者59名をだしたが死者はいなかった。襲撃された場所が魔法学校だったおかげだ。


 状態異常のキュアリ―で魅了を治せたのはアセンダリ先生とロクサリーヌだけだった。でも回復魔法の使い手は豊富にいたのが幸いした。


 こうして魔法学校襲撃事件は幕を閉じた。


 ◇

 

 魔物は全て倒した。あとは事後処理だ。壊された校舎、街の施設、家々の修繕が始まった。魔法学校の指示を受け、現場の職人の話を聞き街の復旧作業にクエストをクリアする形で参加した。


 ロクサリーヌや女生徒たちは作業してる人たちや街の人たちに魔法学校で作った食事を差し入れしていた。大量のお弁当と水が持ち込まれる。みんなから歓声があがる。飯の時間だ!


「はい! ガザセルさんのお弁当! こっちは私の。えへへ」とニコニコしたロクサリーヌがお弁当を持ってきてくれた。

「お、ありがとう。いただくよ」と俺もロクサリーヌの隣に座る。

「疲れた体に冷たい水は最高だな!」と俺はほっと安心のため息をつく。


「ほんとにそうですよね。あの襲撃事件、めちゃくちゃでしたもんね」

「だなー。あの時はシュワルツマー先生とキラカタルを、どれだけぶっ飛ばしてやりたかったことか!」

「シュワルツマー先生はぶっ飛ばしてたじゃないですか?」

「そうか? 何度でもぶっ飛ばしたいな、あの先生」

「それはさすがに言いすぎですよ」 

 なんて言って2人で笑ってた。


「キラカタル君が『悪魔の生き血』を取りにいった理由は『私の回復魔法の効果を増やしてあげたかったから』だそうですよ。気持ちは嬉しいですけどね」

 とうつむくロクサリーヌだ。

「自分の手に負えるかどうかも考えないとな。そもそも『悪魔の生き血』なんて飲みたいと思うか? という大問題があると思うんだけどなぁ」

「私も『悪魔の生き血』はちょっと飲みたくないですね。さすがに怪しすぎると思います」

「まぁ、ロクサリーヌのせいじゃないさ。なんといってもキラカタルの暴走だよ。あんまり気にしないのが一番だ。お弁当を食べよう。せっかくの料理が冷めちゃうし」

 といって、ロクサリーヌが持ってきてくれたお弁当のお肉を食べる。


「この香りと味付けはイケるね! 肉の塊と言ってしまえば、そうなんだけど」

「あ、分かります? 香草をもらったのでお肉にまぶして焼いたんですよ。それだけなんですけど、このおいしさです。すごいですよね」とロクサリーヌは笑顔になってくれた。

「だなぁ。このうまさは生き返るよ。やる気が出る!」

「あはは。頑張ってください!」

「おうよ!」と答えた俺は作業に戻った。


 ◇


 毎日のように俺はクズ魔法ビットで魔力を消費していた。寝る前の日課だ。毎日魔力を全消費して寝て、全回復して魔力量を増やすということを繰り返していた訳だ。でも無詠唱で発動させれば魔力の込め方次第で効果が変わる、と気づいた俺はビットも効果が変わらないかなと色々試していた。


 毎日、魔力がなくなるまで試行錯誤を続けた。そしてビットは生まれ変わる。最初はダメージを受けても耐えるという効果があるのかないのか分からない魔法だった。


 だがしかし、無詠唱で使うとき多めに魔力をつぎ込むと攻撃を1回だけ無力化することができることを発見した。じゃぁ、この効果を無詠唱で連続で発動したらどうなるか? 


 答えは簡単だ。疑似的ではあるけど無敵状態を作り出せるということになった。あのクズ魔法と呼ばれたビットがだ。とはいえ、魔力消費量が多い、効果時間が短いというデメリットがあるにはある。


 普通の人なら魔力が足りなくて使えない魔法だが、俺にとってはたいしたデメリットではない。ここぞという時に連続で使おうと思った。


 ◇


 復旧作業の毎日が続いていた。魔法学校襲撃事件のときのデュラハンの話を思いだしロクサリーヌに聞いてみた。

「そういえばさ。『宣託の聖女』は魔族に狙われてた、なんて昔話はあったりするの?」

「んー、特にはないと思いますよ? そもそも聖女である時点で魔族からは要注意人物ですしね。むしろいつでもどこでも狙われてて、それが普通なんじゃないですか?」

「あっけらかんというね」

「くよくよしてたって何も変わらないって気づいたんです……私がくよくよして後悔してるだけで、街が復旧するならいくらでも後悔しますけど、そんなこと絶対にないですしね」 

 と清々しい笑顔でロクサリーヌは微笑んだ。


 そんな復旧作業の休憩中に、ロクサリーヌが神からの宣託を授かる場面を、俺は初めて見ることになったのだった。

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