第20話 聖女誘拐事件⑤

 ロクサリーヌに完全に拒絶され、ほうけているラインガトン男爵をカーテンで縛り身動きをとれなくした。兵士も全て逃げていなくなっていた。


「もう兵士も使用人もみんな逃げ出しちゃったみたいですね」

「だな。まぁ、あんな男爵についていってたらロクなことにならないから仕方ないよな。そして誰もいない状況は俺にとっては好都合だ」

「どういうことです?」とロクサリーヌは聞いてきた。


「さっき、ロクサリーヌが囮役になってくれてるときに、屋敷を調べたんだよ」と歩きながら話をする。

「私を囮役にしたんですか!? 聞いてないですよ!」とぷんぷん頬を膨らませているロクサリーヌだ。


「ごめんな。でもロクサリーヌが囮役をしてくれたおかげで、怪しい部屋を見つけた。それがこの部屋でさ。人手がないのに2人も兵士が守ってたんだ。怪しいとは思わないか?」

 それを聞いたロクサリーヌは「囮役にされたのは腹が立ちますけど、それは確かに怪しいですね」と呟いた。


「だからこの部屋を調べようっていう訳なんだ」

 と、言って2人の兵士が守っていた鍵のかかった怪しい部屋の前に立ち、扉を蹴り飛ばし中に入る。普通の書斎だった。並べてある本も一通り見てみたけど、歴史書や魔術書のたぐいでこれと言って珍しいものもなかった。貴重品でもないものを守らせる必要はないよな、と思った俺はさらに念入りに部屋を調べる。


 書斎しょさい机を動かして丹念たんねんに床を調べた。すると木組みが仕込まれていている所を見つけた。

「あった……」

 これを動かせば……くるっと回って隠れていた取っ手がでてきた。取っ手を引っ張ると隠されていた扉を見つけたのだった。


「これだ。隠し扉、この先にきっと何かがある」

 俺はロクサリーヌに話しかける。

「凄い……凄いですよ! ガザセルさん!」

 称賛してくれるロクサリーヌに階段がもろくなってるから気を付けてと注意した。


 真っ暗なのでロクサリーヌに光魔法のライトで中を照らしてもらった。隠し扉を開けて階段を降りる。そこに鎖に縛られて囚われている子供たちがいた。

 俺たちは手分けしてすぐに鎖から子供たちを解き放った。


「ひどい……」

 衰弱している子供たちにロクサリーヌは回復魔法をかけた。

「大丈夫? しゃべれるかい?」

 子供たちに問いかけるが、食事もロクに食べさせてもらえてなかったようだ。せこけてフラフラの子供がほとんどだ。手持ちの食べ物を全て渡すと一心不乱にみんな食べている。調理場に移動してすぐ食べられるものをどんどん子供たちに手渡していった。調理場に移動してすぐ食べられるものをどんどん子供たちに手渡していく。


 ひたすら回復魔法をかけるロクサリーヌのおかげで子供たちの命の危険はなくなった。

「「「ありがとう、おねえちゃん」」」

 と子供たちに言われたロクサリーヌは泣いていた。


 そして子供たちを抱きしめたロクサリーヌはカーテンをうまくローブのように子供たちに着せた。そしてロクサリーヌは生まれ育った村のことを話しだした。。


「『闇の刻、サノバルンカ村に地獄が蘇る』と今、思い返すとあれは間違いなく宣託でした。幼い頃にも宣託があったんです」


 ロクサリーヌは子供たちの頭をで、屋敷のカーテンを窓から剥ぎ取った。そして子供たちにカーテンを着せながらロクサリーヌは話す。外は雷が鳴り大雨が降っていた。


「私が初めて授かった宣託でした。幼い私に急に天から宣託が降ってきたんです。初めての宣託の内容がとても怖かった」


 子供たちを抱きしめながら話すロクサリーヌ。俺は黙って続きを待った。


「その時、その場所にいかなければ回避できるということを、初めての宣託だったから幼い私は知らなかった。だからみんなに黙っていたんです」


 分からない話じゃない。幼い頃に宣託があったとしても、ジョブ鑑定もしていない幼い子供の話を、大人が信じないことは容易く想像できた。宣託も外れることもあるみたいだし。


「なるほど」と俺は話す。そこで騒ぎ立てればロクサリーヌはオオカミ少年ならぬオオカミ少女になるだけだ。


「大丈夫、何もない。黙っていれば何も起こらない。幼い私はそう思い込んだんです」


 ある意味、仕方ないと言えるだろう。聖女のジョブを得てないのに宣託があったというのが一番びっくりするけど、のちに聖女のジョブを得たんだから、何かしらの適性はそもそもあったんだろうと俺は想像する。


「でもそうじゃなかった。何もないなんてことはなかった。その時その場にいなければ回避できるということは、その時その場にいれば災難は起きる、ということなんですよね」

 自嘲じちょう気味に話すロクサリーヌに俺は何も言えなかった。このロクサリーヌの話を黙って聞くことが俺の役目だと思った。


「その夜、アンデッドに襲われ私の村は全滅しました。地獄そのものでした」


 そうロクサリーヌは涙を流して話す。


「そして死んだ村のみんなはアンデッドとして蘇り私を残して去って行った。この宣託の力がなんなのか当時の私には分からなかった。そして13才の時にジョブ鑑定で私は自分が聖女だったと知りました」


 嘆くロクサリーヌに俺はかける言葉がみつからなかった。慰めの言葉はかえってロクサリーヌの心を傷つけると思った。淡々とロクサリーヌは過去の悲劇を語る。 


「そして孤児院にいた私は神殿に引き取られ学び、これが神からの宣託だったんだと知ったんです。私に知識があればみんなを救えたのではないか? と思いました。それが私の後悔です」


 そう話したロクサリーヌは遠い昔を思い出すかのように目を細め、子供たちの頭をでながら俺にロクサリーヌ自身の過去の話をしてくれるのだった。

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