第21話 ロクサリーヌの過去

 ☆ロクサリーヌの過去☆


 幼いロクサリーヌはいつも通り近くの友達と遊んでいたそうだ。ひたすら走ったり、その場で飛んで高さを競ったり平和な日常だった。


 けれどもその日はどこか違った。いつもなら見かける鳥たちが一羽もいなかったのだ。なんでなんだろうとロクサリーヌは思った。それを両親に伝えて理由を聞こうと思っていた。


 辺りは暗くなってきた。小さな村だ。夜になれば真っ暗になってしまう。ロクサリーヌは友達と別れ家路を急いだ。


 そして家に帰り、両親に

「お外にトリさんが、ぜんぜんいないの。なんでなんだろう?」とロクサリーヌは聞いた。

「本当に? なんでかしらねぇ」と母親。

「たまにはそんな日もあるだろう。気にしても仕方ないさ。さぁご飯を食べておしまい」と父親は食事を勧めた。


 それから程なくして騒いでいるような悲鳴のような声が聞こえてきた。なんだろうと父親が外にでてみると村のあちこちから火の手があがっていた。


 なにごとかと思った父親は逃げる村人に「何があったんだ?」と聞いた。

「アンデッドだ! 敵がやってきた! 逃げろ! あんなの勝てる訳がねぇ!」と叫んで逃げていった。


 父親はそれを聞いて母親とロクサリーヌを連れて逃げた。みんな必死に逃げた。火の手が上がっていた方角にあえて進めば助かった可能性もわずかだけどあったかもしれない。けれども、ロクサリーヌたちは火の手から逃げた。普通のごくごく当たり前の行動だ。


 しかし火の手から逃げた先に罠を張っていたのが、アンデッド軍団だった。村人を一網打尽にしようと待ち構えていたのだ。理由は幼いロクサリーヌには分からない。もちろん村人たちも両親にだって分からない。


 そして逃げた方向で待ち構えていたスケルトンに、村人たちは何もできずに殺されていった。冒険者にとってスケルトンはたいした敵ではない。雑魚といっていい。


 けれども何の力もない村人にしてみれば、脅威でしかない。なぜ自分たちが殺されるのかも分からずみんな殺されていった。


 スケルトンは剣をロクサリーヌめがけて振り下ろす。それをかばったのは母親だった。ロクサリーヌを抱きしめ、おおいかぶさるように守った。


 そこへまた別のスケルトンが2人まとめて突き刺そうと剣を構える。それをみた父親は母親に覆いかぶさるように2人を庇った。


 そしてスケルトンが突き刺した剣は父親と母親を貫いた。その剣は両親を貫きロクサリーヌの顔の真横にあった。悲鳴も上げることも動くこともロクサリーヌはできなかった。ロクサリーヌが幼く小さかったことが幸いした。


「ごめんね」とロクサリーヌの母親は言って動かなくなった。父親は「生きろ」と短く言ったあとスケルトンに再び剣を刺された。


 そして太陽が昇る前にアンデッドと共に生き返った村のみんなは去っていった。そしてロクサリーヌは自分を守って死んだ母親と父親を思い出して泣いた。そしてさっきまで笑っていた村人のみんなを襲った惨劇を思い出し泣き叫んだ。


 これがロクサリーヌがアンデッドに、復讐することを誓った理由だった。


 ☆ガザセル現在☆


 話を聞きながらロクサリーヌの顔を俺は見ていた。いつもならくるくる変わる陽気な表情はかけらも見せず、淡々と話していた。子供たちは何も分かってないようだ。

「「「おねえちゃん、げんきだしてー?」」」

 と口々に声をかける。


 子供たちに「ありがとう」と言いながら、ロクサリーヌは唇をかんでいた。

「圧倒的な力にみんなぎ払われたんです」

 と、そう話した。話し終えたあとあきらめたかのように自嘲じちょう気味に笑うロクサリーヌだった。


「私は薄れゆく意識の中で『我がカオスリッチのにえとなれ人間どもよ!』と私たちを嘲笑あざわらう声を聞いたんです」

 その言葉を聞いて俺は言葉が詰まる。


「ちょっと待ってくれ。その敵はカオスリッチと名乗ったのか?」

「そうです。『我がカオスリッチの贄となれ』と確かに言っていました。今でも耳に残っています。夜、あのときのわらい声が聞こえてくるときもあるんですから」

 そう言って、ロクサリーヌは両手を握りしめる。


「両親や村の人々の復讐をロクサリーヌはしたいのか? それともその惨劇を忘れたいのか?」

 と俺はロクサリーヌの覚悟を問う。


「カオスリッチは俺の復讐相手でもあるんだ」

「そうなんですか!?」

 そこで俺はサルタ師匠とカオスリッチとの因縁もロクサリーヌに話をした。それを聞いたロクサリーヌは


「でもまさかカオスリッチの配下にガザセルさんが勝てなかったなんて……」

「俺もまだ力が覚醒してなかったからな」


 しょんぼりしてしまうロクサリーヌだったが、俺が聞いておかないといけないこと。それはロクサリーヌの意思だ。これは絶対に確認しておかないといけない。

「戦いたいでも忘れたいでも、どちらでも構わない。ロクサリーヌの正直な気持ちを聞かせてくれ」


 とロクサリーヌに話しかけた。ロクサリーヌは俺から目をそらして下を向き、そして再び俺を見て


「私は……両親とみんなの仇を討ちたいです」


 と、迷いのない目でそう答えた。


「私は聖女ではあるんですけど落ちこぼれの部類です。村1つを一晩で滅ぼしたアンデッドに私がかなう道理なんてないです」

 と、小さなため息をついた。

「闇雲にアンデッドを探しても見つからない。そもそも私には戦う力がない。そう考えて諦めていた。でも……聖女というジョブを私はジョブ鑑定で正式に得ました。そして神の宣託を私は聞くことができるようになった。この宣託に従っていけば仇のカオスリッチに会えるのではないかと思ったんです」


「それが正直な気持ちってことでいいんだな?」と俺は念を押す。

「……はい。私の正直な気持ちです」と、俺の目を見つめロクサリーヌ迷いなく答えた。

「そうか、分かった」と俺は答える。


 俺たちの仇はカオスリッチ、いわゆるアンデッドだ。理不尽に奪われた命があっただろう。アンデッドは魂を取り込み、その死体を従えるたびに強大になっていく。絶対に倒さなければならない存在だ。


 でも、ロクサリーヌが忘れようとしているなら、それはそれで良いと思っていたのも事実だ。その時は俺一人で決着をつけるつもりだった。


 しかし、ロクサリーヌは聖女の力を得てしまった。そして宣託が神から告げられる。それに従うのば聖女の勤めだ。


 いつか仇のカオスリッチにも出会ってしまうだろう。そのとき勝てるかどうかは別にして。ロクサリーヌは負けるとしても挑むだろう。死ぬと分かっていても挑んでしまうだろう。


「サルタ師匠やロクサリーヌの両親、殺された村の人々の仇を必ず討つ。俺たちの敵はカオスリッチ。コイツが全ての元凶だ」


 なんとしても倒す。カオスリッチを倒さなければ被害が広がる。人を襲うからといって宣託が必ずある訳じゃないからチャンスは少ない。


 だからこそカオスリッチと出会ってしまえば、ロクサリーヌは止まらない。けれども1人で挑むなんてことはさせない。カオスリッチは俺の仇でもあるのだから。


「カオスリッチに挑むなら改めて協力しよう、ロクサリーヌ」


 と言って俺は右手をさしだす。ロクサリーヌは頷いて俺の手を握り返してくれた。だからこそロクサリーヌを死なせはしないと、俺は誓った。

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