第18話 聖女誘拐事件③
翌日、ロクサリーヌと守衛所に行った。
「あぁ、君たちか。昨日は時間を取らせてしまって、申し訳なかったね。3人はロクサリーヌさんの誘拐と身代金が目当てだったらしくてね。君にコテンパンにやられてたけど、命に別状はない。そこは安心してくれていいよ。まぁ、これ以上はさすがに今、捜査中だから教えられないんだ。すまないね」
と、守衛のおじさんは話してくれた。これ以上の情報を得るのはちょっと難しそうだ、と俺は思った。
「ありがとうございました」と行って守衛所を去った。その後で
「ラインガトン・ド・スマルターって誰か知ってる?」と、とりあえず隣にいるロクサリーヌに聞いてみた。
「あぁ。その人って神殿によく寄付してくれてる男爵さんですよ。なんでガザセルさんがその方を知ってるんです?」とキョトンとした顔で聞かれた。
「ちょっと気になることがあってな。顔見知りだったなら話は早そうだ。どこに住んでるか知ってるか?」
「貴族街に住んでらっしゃいますけど、それがどうかしたんですか?」と、さらに不思議そうに聞いてくるロクサリーヌだ。
「どんな人なの?」と俺の問いに
「私の口からはちょっと……言いづらい、かな?」とロクサリーヌは口ごもる。
「そうなのか」と俺は話した。ロクでもなさそうな予感がした。
「まぁ、ラインガトン男爵の屋敷に行ってみよう」と行って俺たちは歩きだす。
ロクサリーヌが貴族の評価を保留にした。下手したらややこしい事態になりそうだなぁ。でも憶測でものをいうのはやめておこうと俺は考えた。空は黒い雲で覆われ、今にも雨が降り出しそうだ。
「急ごう」と俺はロクサリーヌと一緒に歩きだした。
ラインガトン・ド・スマルター男爵の屋敷についた。屋敷に着くまでの庭は広いと思った。逆に2階建ての屋敷は小ぢんまりとしている。
さて、どうしようかなと思った。ロクサリーヌはラインガトン男爵とは知り合いだとしても、俺は平民で単なる赤の他人だ。会ってくれる理由がない。
ロクサリーヌが会いたいと言っていた、という話をでっちあげてとりあえず会ってみるか? と思った。けれど、いきあたりばったりで乗り込んでも、追い出されそうだなぁと考えた。
キラカタル相手なら生徒同士だしいいかな、と思っていたら決闘するとこまで揉めたしな。本当の貴族相手に博打を打つのは危険だ。まだ予想の段階だから、やめとこう。
とはいえ、聞いてみるくらいはいいだろう。迷惑かけるつもりもないし、屋敷にせっかく来たんだし、聞いてみよう。俺は屋敷の植木職人と思われるおじいさんに話しかけた。
「おじいさんはラインガトン様の専属の植木職人さんなんですか?」
「おうよ。その通りだ、若いの。俺は専属よ。がはは」
おじいさんは笑って応じてくれる。ロクサリーヌも特に何も言わずに聞いている。
「やっぱりお庭が綺麗だとお屋敷の見栄えが違いますよね。お持ち道具も手入れが行き届いてる。やっぱりいいお屋敷のお抱え職人さんは違いますね」
と、ちょっとわざとらしいかな? と思いながらもおだてて様子を見る。
「ほんとに分かってるじゃねぇか、若いの! 茶でも飲んでいくか!? がはは」
「いいんですか?」
「茶の1杯や2杯くらいどうってこたぁねえよ。入れ入れ! お嬢さんも来ると良いぜ?」
おじいさんはべらんめぇ口調でノリノリだ。せっかくのチャンスだ、行こう。
「「お邪魔しますね~」」と2人でラインガトン男爵の屋敷に乗り込んだ。
芸術はよく分からないけど、金と銀で
高そうなゴテゴテとドギツイ金と銀をとりあえずくっつけとけ! みたいなものばかりがあちこちに飾ってあった。多額の寄付ができるくらい儲かっていそうな屋敷なのは間違いない。
掃除は割と雑なのかな。通路に埃がごっそりと残っている。さすがに埃が残ってますよ、なんてメイドさんが叱られるようなことは言わない。外見をよくみせるために庭だけ掃除させているのかなぁ?
キラカタルとシュワルツマー先生を見たとき、この国は終わってると思ったけど、この国の貴族ってこんなものなの? と、ため息しかでなかった。
興味を失った俺はまったりおじいさんとお茶飲んでた……。いやちょっと待て。ラインガトン男爵の話も聞かずに興味なくすのはいくらなんでも早すぎだ!
「おじいさんはこのお屋敷に勤めて何年くらいなんですか?」
「20年前くらいからだな。この屋敷のことならなんでも聞いてくれ! ぐはは」とおじいさんは本当にノリノリだ。
どう切り出したものかな、と俺は考えた。
「ラインガトン様はどんな人なんです? 男爵って何か功績を残したんですか?」
といよいよ本題に俺は切り込んだ。
「ラインガトン様はここだけの話だが爵位をお買いになってな。魔法都市ルクスベルの……。その、要職に就いてるお方なんだ」
とおじいさんは急に歯切れが悪くなった。「そうなんですね」とおじいさんにもっといろいろ聞こうとしたところだった。
そこへ太ったおじさんが現れた。そして和やかなお茶会をぶち壊すように
「何を仕事をさぼってそんな子供とお茶なんぞ飲んでいるんだ?」
「も、申し訳ねぇ、ラインガトン様」
とおじいさんは謝った。だがラインガトン男爵は
「今月の給金はなしにするぞ?」とおじいさんに言い放ったのだった。
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