第2章 学園生活

第15話 クズ魔法ビット

「ぜひ教えてください!」とロクサリーヌに頼まれて、嫌だなんて言うつもりもさらさらない俺は「了解」と短く答える。

 返答を聞いて満面の笑みで俺をおがむロクサリーヌだ。

「拝まなくていいよ。たいしたことじゃないしな」


 俺はそう話したが、クラス中の注目の的になってることに気づいた。まぁ、隠すほどでもないしいいかと俺は思った。みんなもついでに聞いていいよと話す。

「いいか? まず魔力量は使った魔力に比例して増えていく。使えば増えるんだ。単純だろう? 理屈は分かんないけどな」

「「「それだけで魔力量って増えるの?」」」


「そうなんだ。使えば翌日増えているという感じだな。だから魔力量を増やすならクズ魔法といわれている「ビット」を使いまくって寝ればいい。寝れば魔力も回復して魔力量も増える。翌日も魔力を使い切る。これを繰り返せばあっというまに魔力の総量は増える。だからビットを毎日魔力がなくなるまで使うのが一番効率的なんだよ」 

「あの使い道のないって言われてたビットを!?」

 他の生徒が大声を出したので、俺は大きく頷く。


「クズ魔法と言われているビットは消費魔力は大きいけど、たいした効果はないから使い道がないって思ってただろう?」

「「「「うん」」」」

 みんな頷くのを見て俺は話す。


「詠唱は『鍛えよビット』だけで発動する。それに再度詠唱するために必要な時間もわずか数秒と短い。しかも慣れれば再度詠唱するのに必要な時間もほぼなくなるんだ。上級魔法だと1分から2分くらいクールダウンする時間が必要なんだけど、ビットは慣れれば、ほぼゼロだ」

 みんなが口をポカーンと開けているのを見ながら続きを話す。


「効果がたいしてないっていうのもさ。身体に負担がかからないとも考えられるだろう? つまり連続でかけても問題がない。さらに消費魔力は多い。だから考えようによっては、短時間で魔力を消費するのにとても効率のいい魔法、それがビットって訳だ」


 分かりやすい話だろう? と言いながら俺は注意点を付け加える。


「気を付けるのは魔力切れだ。魔力を使いすぎると気絶するだろ? そうならない程度に最後の方は気を付けるんだ。注意点はそれだけだ。何度かやってみればコツもきっと分かるようになると思うぜ?」


 そして教室は「鍛えよビット」の大合唱となった。



 さらにそれから数ヶ月が経った。魔力量が増えたと喜ぶ生徒も増えた。ロクサリーヌも魔力量が増えたようだ。


「静かに~」

 とバンバンと出席簿を叩きながら登場してきた女性の先生は

「今日は状態異常の回復魔法の授業をします」

 と話しだした。この女性の先生はアセンダリ・ラキスガインという名前だ。回復魔法も担当している。すらっとした身体にメリハリのついたボディをしてるから、アタッカーなのかなと思うけど実はヒーラーが本職という先生だ。


 シュワルツマー先生は魔法全般の担当だったんだよな。1人で全部教えるっていうんだからかなりすごい先生のようだけど、残念な先生だったとしか俺には言いようがない。キラカタルの件が発端でランネル先生が担当してない回復魔法と状態異常の回復魔法をアセンダリ先生が担当になったという訳だ。


「状態異常には毒、麻痺、腐敗、魅了、混乱、恐慌状態に陥り動けなくなるものまで様々なものがあります。状態異常の回復魔法といえばキュアリーですね」


 ロクサリーヌは真面目に食い入るような表情でアセンダリ先生の話を聞いている。聖女だから状態異常の回復魔法に興味があるのかなと思った。


「恐慌状態を起こしてしまう最も顕著な例はドラゴンの咆哮です。これに動揺してしまい、死を恐れ恐慌状態になってしまう人がとても多いのです」


 つまり気合で何とかしてっていう話なのか? ドラゴンを相手にして気合でなんとかできるのか? 死への恐怖を抑えつけろって、想像以上に難易度が高いんじゃないかと俺は思った。


 ドラゴンって幻獣と言われたり竜族と言われたり色々だけど、ファンタジーならどこに行っても聞くくらい有名だからなぁ。


「そんなとき重要なのがこのキュアリーです。最初こそ毒だけしか治せませんがそれでも敵と戦うなら大きな力となります。そして極めれば全ての状態異常を治せるようになる。まさに万能魔法です」


 アセンダリ先生はすごいでしょう? といわんばかりに話を続ける。


「でも実際に使ってみないと効果があったかどうかなんて分かりませんよね? そこで便利なのがこの検査魔法紙です」


 と青い紙をみんなに見せた。

「状態異常の回復魔法のキュアリ―をかけましょう。すると色に応じてどの段階まで状態異常を治せているか分かるという優れモノです」


 カエルの毒を治せと言われるより、一角ウサギの麻痺を治せと言われるよりも残虐性はないだろう。治した状態異常を再度かけなおすっていうのも人間ではないとはいえ、なんともいえない気分になるしな。動物類を管理するのも大変だろうから考えだされたのかなと俺は思った。


 アセンダリ先生に言われた通りみんな検査魔法紙にキュアリーをかける。俺の魔法検査紙は黄色に変化した。ロクサリーヌはどうなのかなと、見てみると緑に変化していた。


 青のままの人もいれば紫か黄色に変化した人がほとんどで、緑まで変化した人はロクサリーヌくらいだった。


「はい。みなさん、こちらに注目してください」とアセンダリ先生は手を叩いて注目を集めた。


「この検査魔法紙はなんの効果もなければ青のままです。しかし効果があれば毒、麻痺、腐敗、魅了、混乱、恐慌状態にそれぞれ対応し、紫、黄色、緑、赤、黒、白、となります。つまり緑になっていれば毒、麻痺、腐敗まで治せるということです。皆さんの結果はどうでしたか?」


 と、アセンダリ先生はみんなに問いかけた。その言葉を聞いて嬉しそうな笑顔のロクサリーヌがそこにいた。

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