第16話 聖女誘拐事件①
検査魔法紙というのか。変な紙があったもんだねと思っていた。いわゆる不思議紙だと俺は勝手に納得した。
麻痺まで治せるなら御の字だろうと思った。ロクサリーヌは聖女の貫録を見せて腐敗まで治せる。回復魔法はダメでも状態異常の回復は頭一つ抜けていい感じのようだ。
「やりましたよ。ガザセルさん!」
「よかったな、このクラスじゃトップだ」
「えへへ……私は回復魔法がダメだったから、聖女としては役に立たないと思ってたので、嬉しいです」
とニコニコしたロクサリーヌだ。
「回復魔法は使えればいいと俺は思うぜ?」
検査魔法紙を片手でつつきながら俺は答える。
「1回の攻撃が生死を分けるときは、回復魔法がなければ死ぬってことだしな」
「そういう考え方もあるんですね」
「ついでにいうなら回復は最大の攻撃だとも言える。回復すれば攻撃できる回数は増えるんだからな。長い目でみれば攻撃回数は回復魔法があった方が多くなるってことだろ? 生きてる限り攻撃はできるんだからさ」
とロクサリーヌに笑ってみせる。
「でも、それなら回復魔法の効果が高い方が、やっぱりいいんじゃ……」
まだ迷うロクサリーヌを見て俺は付け加える。
「回復魔法と状態異常の回復魔法ができるんだから今の段階ならいいんじゃないか? 全く使えないなら困るけど、そういう訳でもないんだろう? だいじなのはこれからどれだけ頑張るか、じゃないか?」
ロクサリーヌはハッとした顔をして
「そうですよね! これから頑張ればいいんですよね! そうですよ!」
「戦闘において毎日の地道な訓練以上に頼りになるもんなんてない、と俺は思ってるよ」
「はい!」
なんて勢いよく返事してロクサリーヌは、回復魔法とキュアリ―を唱えまくってた。
そのあとも理論と訓練という具合に授業は続いた。採取クエストで実戦も体験したメンバーは、やっぱり訓練でも違いが見える。敵と戦った経験はやっぱり大きいよな。
実戦を経験してみると訓練のときより、圧倒的に息が切れるのが早くなることに気づく。実戦の独特の緊張感って想像以上に体力を減らすんだよな。
集中力も切れやすい。それを実感したメンバーは体力作りに手を抜かなくなる。手を抜いたら今度こそスケルトン相手に死ぬと思うだろうしな。クラスメイトの気合の入った姿をみて俺も頑張ろうと思った。
◇
そんなある日、ロクサリーヌと一緒に俺は買い出しに来ていた。ロクサリーヌの買い物は長い。そして俺は荷物持ち兼、聖女の護衛という役割だね。
串焼き屋のタレの匂いにつられたロクサリーヌと俺は相談し、3本づつ買おうという話になった。
ロクサリーヌは
「これ6本ください」と串焼きを指さす。
「あいよ! 銅貨2枚だね。まいどあり!」
6本の串焼きをみて上機嫌なロクサリーヌだ。
「そういえばあんたたち知ってるかい? 子供がいなくなるって話」
と串焼き屋のおばちゃんが話しだした。
「そんな話があるんですか?」と俺は聞く。
「あるんだよ。その子みたいな可愛い女の子が、白昼堂々いきなり連れ去れたって話もあるんだよ」とおばちゃんは人目を気にして小声で話す。
「昼間からですか?」とロクサリーヌも不安そうに聞いた。
「そうなのよ。だからあんたも可愛いんだから気をつけなさいよ?」とおばちゃんはロクサリーヌに笑いながら話しかける。
「わ、私なんてたいしたことないですよ」
手を振り否定するロクサリーヌだが
「ほら! あんたはガタイのいい男なんだから、いざってときはこの子を守ってあげるんだよ? どこだかの墓地にアンデッドが出たせいで、この都市の警備も少なくなっちまってるんだからさ、気をつけるんだよ? 毎度あり!」
お金を受け取ったおばちゃんは上機嫌で「お似合いだね~」と豪快に笑っていた。
「お、おう」
どう答えていいか分からない話をきりあげて串焼き屋から離れた。俺の隣では下を向いてしまったロクサリーヌがいた。
「とりあえず串焼きでも食うか」
と言って、ちょっとあんまり混雑してない場所に移動した。
「そ、そうですね」
と、動揺するロクサリーヌを尻目に、タレのたっぷりついた肉を
「おいしいですね」
とロクサリーヌも満足気だ。
俺は串焼きを平らげた。鳥っぽい味だが何の肉なんだろうな、これ。全てタレでごまかされている気がするのは俺だけなのか。おばちゃんに聞いとけばよかったなと思った。でも、また買いに来たときに聞けばいいお話かと気楽に考えた。ロクサリーヌが食べ終わるのを待って歩きだす。
「子供が
「嫌な話ですよね」
「だな。白昼堂々っていうんだからひどい話だよな」
「そうで……」
「そうで? どうなんだ?」
と返事がないなと後ろを振り向いたらロクサリーヌはいなかった。慌てて周りを見てみると路地裏へ入る道を見つけた。
すぐに通路を見ると何かを抱えて走る影が見えた。その影を俺は追いかけた。けれど、その影は角を次々に曲がる。
このまま逃げられたら見つけられる気がしなかった。敵はこの路地裏を知り尽くしている上に人を攫い慣れているようだ。
「ん~~んん! ん~~~~!!!」
と言葉にならない悲鳴が上がっているところを見ると、
俺は相手を追いかけた。魔法で逃げるのを止められたらいいのに、と思った。けれども自慢じゃないが俺の魔法は前に飛んでいかない。前を走る影の人物に魔法を撃っても当たらないだろうから意味がない。でも発想の転換だ。俺は自分の気配をできる限り薄くする。敵のアジトを調べようと切り替えることにした。
影は走り続け、ある建物を前に立ち止まった。そして俺の追跡をふりきったと思ったのだろう。周囲を警戒した様子でロクサリーヌを抱えた影は建物の中に入って行ったのだった。
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