第6話 聖女と宣託
「んーー」と目を
「本来なら『決闘を避ける』というのが一番よかったと思います。だからガザセルさんが決闘受けないと言ってくれたのが私は嬉しかったです。でもシュワルツマー先生の判断はびっくりしました」とロクサリーヌは納得がいかない様子だ。
「まぁ、強引に決闘することになったからな。困ったもんだ。ははは」と笑う俺を見て
「他人事ですか!? 笑ってる場合じゃないですよ! 下僕になっちゃうんですよ!?」と現状をしっかりロクサリーヌは説明する。
「そうと決まった訳でもないだろう? 決めつけは良くないぜ?」と落ち着かせようとする俺の言葉は信じてもらえない。
「相手は貴族の御曹司ですよ? お金に飽かせてどんな訓練を受けてきたのか分からないんですよ!?」とロクサリーヌは心配する。
「言われてみると確かにそうだなぁ。キラカタルがどんな訓練してきたかなんて分からないな。それは確かにごもっとも」と俺は答える。
「なんでそんな
「アイツだって俺がどんな訓練してきたか知らないだろう? お互い様だ」と俺はニヤリとして見せる。
「なんでそこまで自信満々でいられるんですか!? 私がこんなに心配してるのに!」とウキー! と言いだしかねない勢いでロクサリーヌは悔しがる。
「負けると思ってないからだよ。当たり前だろう?」
俺はそんなロクサリーヌを見て
「なにかおかしいか?」
と聞いてみる。
「い、いえ。確かに負けると思ってないならおかしくないです。でも相手の実力も分からないのにそんなに勝てると確信できるのはなぜですか?」とロクサリーヌは不思議そうな顔をする。
「俺もほんとにキラカタルに対して同じ疑問を思うんだ。でもまぁ、貴族のお坊ちゃまとは全く違う生き方してきた、ってことだと俺は思うぜ?」と答えた。
「そこまでの自信をもって言えることが私には信じられないです。私もそれくらいの自信を持てれば、なにか違っていたんでしょうか……」とロクサリーヌは自分の手を見つめ、そして握りしめる。
「俺にはロクサリーヌの実力が分からないからなんともいえないなぁ。でも、これだけは言える。どうしようもないと思っても周りを見ろ。そして
「それでなんとかなるんですか?」
「そうしないとその先には悲劇しか待ってない。足掻いた者にしか未来は見えない。それだけの話だと俺は思うぞ?」
「私には分かりません。そんなお話」
「いつか分かるさ。せっかくだから覚えとくといいぜ。いい言葉だろ?」と言って俺はニヤリと笑った。
「ガザセルさんはこの絶望的な決闘で勝つしかないんです。勝てるはずなんです」とロクサリーヌは自信なさそうに言う。
「そんなに自信なさそうな割に、勝てるとはずと言える根拠はなんだ?」とロクサリーヌの顔を見ながら俺は話す。
「そ、それは、私に『ガザセルさんについて行くように』と神から……せ、宣託があったからです」
そのロクサリーヌからのどう答えていいものか分からない返答に
「はぁ」
と、脱力しながら俺はどうしたもんかねと気のない返事をしたのだった。そんな俺だけど
「ロクサリーヌに神から宣託があったのか?」
と半信半疑で聞いてみた。
「それは……私の聖女としての特性、というか能力です。私は神から宣託、予言のようなものを授かることができるんです。私の意思に関わらず授かる時には授かります。でも……」
「他にも何かあるのか?」と疑問に思った俺は確認してみる。
ロクサリーヌは目を伏せながら
「『ガザセルさんについて行くように』という宣託は確かに授かったんですけど、今までとちょっと違うと言いますか、例を見ないといいますか、なんというか……」
首を
「じゃぁさ、ロクサリーヌは今まではどういう宣託を授かっていたんだ?」と俺は問う。
「んー。たとえば
①朝の刻、アルリーヌの池を泳ぐものに苦難がかけられるであろう。
②昼の刻、アルリーヌに泉が湧き上がるであろう。
③夕の刻、アルリーヌの通りを歩くものに困難が降り注ぐであろう。
という感じですかね?」
「あんまりよく分からないな。具体的にどうなったんだ?」と疑問を口にする俺にロクサリーヌは教えてくれる。
「答えはですね。
①早朝、アルリーヌの池を泳いでいた人の足がつって
②昼頃、アルリーヌの地下から温泉が湧いた。
③夕方、アルリーヌ通りを歩いていた人に鳥の糞が落ちた」
「宣託は基本的には、なごやかな笑い話と儲け話ということでいいのかな?」
とは、俺の率直な感想だ。けれどロクサリーヌは
「あの時、私がきちんと知っていれば……」
と、下を向き今にも泣きそうな声で小さく呟いた。けれど、すぐに顔をあげ
「私の神からの宣託は、基本的にはその時その場所から離れていれば回避できる。そういう
と、ロクサリーヌは自信満々に大きな胸を張ってみせる。どこに目を向けていいか困るから、そのポーズはやめてほしいと俺は思った。気を取り直し俺はさらに聞いてみる。
「回避できるってどういうことなんだ?」
ロクサリーヌはまたしても胸を張り
「その時、その場所にいなければ何も起こらないってことです」
と言って「ふふーん、すごいでしょ?」とロクサリーヌは自慢げに答えたのだった。
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