第5話 シュワルツマーという教師
シュワルツマー先生が現れて、勝手にキラカタルと決闘するということになりそうな状況だ。そして賭けるものはキラカタルのプライドと俺の下僕ということだった。
プライドを賭けるんだから、こっちが勝ったら頭くらい下げてくれるのかなと思っていたら、もうプライドは賭けたに等しいから、キラカタルは負けても何もしなくていいそうだ。俺にはよく分からない理屈だった。
「あわわ。どうしよう。先生! 決闘なんて考え直してください! 私はこんなこと望んでません!」
こんなよく分からない話だというのに困った顔をして、真面目にシュワルツマー先生に抗議してくれるのは聖女のロクサリーヌだけだった。ニヤニヤ笑う貴族のキラカタルとその取り巻きは嬉しそうだ。
「プライドっていうけど一体なにをキラカタルは俺に差し出したっていうんですか?」
と疑問に思ったので聞いてみた。むちゃくちゃなことを言ってきたのはこの先生の方だ。でも一応こんな人でも先生だ。何が起こるか分からない。丁寧に話しておくかと思った。
「貴族を見下した発言をした上に、ひどい態度をとった。だから本来なら平民のガザセル君はキラカタル君に殺されていてもおかしくないんだぞ? そう考えれば貴族を侮辱した君は殺されないということが報酬としても妥当じゃないか? ガザセル君が勝って得るのは君自身の命だ。負ければキラカタル君の下僕だ。奴隷じゃないんだぞ? 立派な温情じゃないか? 他に何か疑問があるかね?」
「これは決闘なんでしょう? 俺は決闘に同意していない。その証拠にその白い手袋をもって『決闘を受ける』と宣言した訳じゃない。つまり決闘の条件を満たしていないんだから戦う必要はないんじゃないですか?」
「逃げるのか? 腰抜けが。さっきの威勢はどうしたんだ?」とニヤニヤしながらキラカタルは続けてさらに
「殺されても文句が言えない決闘は怖いか。そりゃぁ、そうだよなぁ。さすが腰抜けだな。さっきの強気の態度はどこにいったんだよ!」
周りも騒ぐしキラカタルも戦う気満々だ。
「ガザセルさん、抑えて! ガザセルさんが悪くないのは私が一番わかっています。だから……!」
とロクサリーヌは涙目で俺の腕を
「まぁ、ここは聖女、ロクサリーヌの顔を俺は立てましょう。白い手袋を持って『決闘を受ける』と俺は宣言していない。聖女のロクサリーヌからは決闘を止められた。その縁を大事にしたい。入学早々から喧嘩したくないし
父さんと貴族の友達を作ってきてくれって言わたしなぁ。
「それは通用しないんだよ。ガザセル君」
俺が立ち止まるのを見たシュワルツマー先生は残念だという顔をして話しだす。
「いいかい? フラタルム魔法学校の教師には職権が認めらている」
もったいぶっているシュワルツマー先生を見て、キラカタルは味方してくれそうだと感じたらしい。ニヤニヤしだした。そしてゆっくりとシュワルツマー先生は話しだす。
「それは揉めた生徒がいた場合、生徒たちの事情を聴き問題行動だと思った場合は、教師にその判断をゆだねられるというものだ。だから私はこの件はガザセル君に問題があると判断する。だからこの決闘を私、シュワルツマー・ロッテンゼルスが認める。これは決定事項だ!」
周りの貴族のギャラリーからは「ヒャッハー!」と歓声が上がる。時は世紀末で君たちの髪形はモヒカンで、破けた制服でも着た荒くれものか? そもそも貴族は紳士じゃないのか? と俺は髪形と服装を確認したくなった。まぁ、そんなことはどうでもいいか。
「決闘するの?」と俺は聞く。
「逃げようとしても、もう無駄だ」とキラカタルは笑う。
「お前はなんでそんなに勝った気でいられるの?」と俺はほんとに疑問に思って聞いていた。
「当たり前だろう。平民が貴族に勝てる訳なんてないんだからな!」とキラカタルは自信満々だ。
「そんなの、あんまりです! シュワルツマー先生!」とロクサリーヌは抗議してくれる。
その抗議の声を無視し、静かに手をあげたシュワルツマー先生は
「ここにキラカタル君とガザセル君の決闘を1時間後、闘技場にて開催する!」と勝手に宣言したのだった。
◇
決闘が決まってしまったならしょうがない。勝つ方法を俺は考えることにした。ロクサリーヌはソワソワしてるし、目が泳いでるしで不安そうだ。ロクサリーヌも俺が完全に負けると思ってるようなのはなんでだろう?
「ロクサリーヌはなにか俺が勝つ方法はあると思う?」と、とりあえず聞いてみた。
「普通に戦ったらキラカタル君には勝てないと思います。キラカタル君は伯爵家の御曹司です。王族とも繋がりがあるんです」
「へぇ。それは意外な繋がりだね」と俺は答える。
「そんな平然としてる場合じゃないです! キラカタル君はこの国の継承権第一位の王子の友人でもあるんですよ!?」
ロクサリーヌは勢いよく立ち上がり発言を続ける。
「最悪の事態として王族がでてくる可能性があるんです。だからシュワルツマー先生はキラカタル君に肩入れしたんだと思います」
思ったより厄介なことになりそうなのかと俺は思った。父さんには貴族との繋がりを作ってくれって言われてたんだけどなぁ、と思いながら話を振る。
「なるほど。じゃぁ、ロクサリーヌなら俺がどうするのが一番いいと思う?」
と聞いてみたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます