第14話 お勉強タイム

 修二が漬物石に手をかざす。覚悟を決めるような間があく。それはそうだろう。昨日レアになりかけたばかりなのだ。でも、それは数える間もない位の時間で。修二は大気にあるというマナを吸い込むみたいに口を開いた。


「ファイア」


 見える。大気にたゆたう透明な光がズギュルと修二に吸い込まれる。それが修二の中で赤い色に染まって、そのままの勢いで漬物石にシュート! 超☆エキサイティング!

 なんて冗談はさておき、バーバラさんの言う通りだった。昨日と違って修二の魔法は全部漬物石に吸収されているから、熱くもない。ただ漬物石が真っ赤なマナで満たされていくから、漬物石はもしかして凄いことになってるんだろうか? 石焼きいも作り放題だろうか? 食べ放題にしてもらいたい。

 ビシリッ。あ、バカなこと考えてたら漬物石にヒビが。って、ヒビィ!?


「バーバラ!」

「小さな町の城壁防御用位はあるルトゥムなのに。本当に恐ろしいわね」

「そんなこと言ってる場合か!」

「うるさいわね。昨日も経験してるんだから、やることも同じでしょ。勇者様、限界です。手を空に」


 バーバラさんは冷静に指示を出した。


「……上げる途中で正面を焼き払っちゃいません?」

「……あ」


 しかし、修二のもっともな指摘に間抜けな声をもらした。


「バーバラ、どうにかしろ!」

「えーっと、あーっと!?」


 美人お姉さんのポンコツ姿もかわいいなあ。現実逃避と実益をかねた鑑賞していれば、せーのでバーバラさんが何かを唱えて漬物石を浮かべて、それに合わせて修二が手を上向けた。そのタイミングを見計らったみたいに真っ赤な漬物石は砕け散った。青い空に赤い火柱とキラキラ光る石の欠片が舞った。きれいだなぁ。


「ガラン様! またですか!?」


 漬物石効果か、無限炎製造は昨日より短く終わり、経験済みな群衆の集まりも速かった。うん、何事も経験だね。

 今日も雲一つない空は真っ青。夏真っ盛り、海日和です。この世界に夏があるか知らないけど。



  ◇ ◇ ◇



「わかったことがあります」


 真面目な顔でバーバラさんは言った。その後ろではガランさんが集まった人達への説明を頑張ってる。頑張れ、筋肉紳士。実は苦労人な騎士団長。出会ってからこの方、自慢の筋肉を使わない仕事ばかりしてる気がしてならない。不憫だぞ、騎士団長。偉いぞ、騎士団長。頑張れ、騎士団長。


「というと?」


 内心でガランさんの応援をしていると、修二がバーバラさんに確認をしてくれた。


「シュージ様達は規格外です」


 お、おう。そうだな。


「それは結局なにもわかっていないということでは?」


 大人な私がぐっとこらえた言葉を修二はあっさり口にした。こいつ、やっぱメンタル強すぎない?


「いえ、まさに私達の規格の外にいること、既存の理論では説明できないことがわかりました」


 ふむ、何を言いたいかさっぱりわからんぞ?


「私達はシュージ様達のように周辺のマナすべてを取り込むことはできません。前提として私達が操れる外界・大気のマナの量には限界があり、それは周囲のマナすべてよりもはるかに少ないのです」


 バーバラさんが饒舌じょうぜつに話し出した。あ、こういう人見たことある。私が五箇条先生について話す時と一緒。長くなるやつだ。五箇条先生の話なら聞いていられるけど、魔法の理論とか難しそうだなぁ。どうしよう。

 あら、バーバラさん。立てた人差し指も細長くて、おきれいですね。


「これを説明する理論として、外界のマナに働きかける術者の内界・体内のマナの量に限界があるため、外界のマナすべてを操れないというものがあります」


 あ、これ位ならオッケー。冷めたお風呂を温めるために、冷めたお湯に熱いお湯を足しても少しだけじゃ温かくなりません的なことだよね?


「この解決策として、古の偉大なる魔術師マーリンが循環法を編み出しました。内界のマナによる操作で、外界のマナを内界・体内に取り込む。取り込んだ外界のマナにも内界で魔法イメージを転写し、そのマナをもってしてより多くの外界のマナに干渉する。こうすることによって、自身の内界のマナだけで魔法を使うより、大規模な魔法を行使できます」


 お、おう。え、えーと? 足し湯が足りないから冷めたお湯自体の一部を火元で温めて足し湯として使ってあいうえお?


「しかし、シュージ様達には内界のマナがありません。まあ、まだないと言い切れるわけではありませんが、少なくとも私達には感知することができていません」


 うーん、そろそろおねむの時間だ。ちらりと横を見れば修二は小難しい顔をしてる。こいつ、まさかバカなくせに話がわかっているとでもいうのか?


「これは内界のマナをもってして外界のマナを操るという先の魔法理論に基づけば、魔法を使えないことを意味します。しかし、現実としてシュージ様達は魔法を発動できている。しかも私達よりもはるかに強力な魔法を」


 おや? バーバラさんの整った口角が、赤ずきんを食べるオオカミみたいに吊り上がってきてるぞ?


「これは今までの魔法理論では説明できない事態なんですよ。内界のマナを持たない者が魔法を使えるなんて!」


 恐怖! 美人お姉さんの狂気的笑顔!


「これが意味する可能性は二つ。私達が考えていた魔法理論が間違っていたのか、あるいはシュージ様達が例外なのか。いずれにせよ、これは貴重なサンプルです。魔法の真髄を見極めるため、検証を進めねば」


 バーバラさんはぶつぶつと恐ろしいことを口走っている。今、私達のことをサンプルって言ったような、言ってないような。気のせいだよね? 気のせいだといいな。

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異世界召喚なのに、なんであんたがっ! みどりいろ @tkizumi

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