第13話 ラブコメ?
「で、これに魔法を撃ちこめばいいんですか?」
ギャップ萌えセクシーお姉さんと筋肉紳士の掛け合いを嗜んでいると、修二がよけいな口を挟んでくる。ちっ、このエモいやり取りを中断するなんて風流を解さない男だ。
「え、ええ、そうよ」
修二の急激な方向転換にバーバラさんは詰まりながらも肯定を返した。なるほど、話はわかった。しかし。
「魔法を使っても大丈夫なんですか?」
私は確認した。昨日の自分で自分をウェルダン未遂を思い返せば慎重にならざるをえない。もう少しでレアくらいにはなりかねなかった。
「大丈夫よ。たぶん」
「え?」
「大丈夫大丈夫。きっと」
大丈夫って言うには希望的観測が入り過ぎてるのは気のせいでしょーか!? 見た目できる系セクシーお姉さんのまさかの適当さに恐れおののく。
「おいおい、それはさすがに見過ごせんぞ」
そしてまさかの筋肉側が冷静な制止役である。見た目と役割がポジションチェンジしてないか?
「魔法を使わせる前に、昨日の暴走の原因はわかったのか?」
「バカね。わからないから試行するんじゃない」
自信満々に行き当たりばったり! バーバラさん、破天荒すぎませんか!?
「えーと、俺達の身の安全は?」
「だから大丈夫よ。きっと」
そっちの自信はなかった!
「相手は勇者様達だぞ、研究バカ」
「だからこそ、勇者様達自身で試す以外に方法がないんでしょ脳筋」
話が進まない&めちゃくちゃなのにある意味一理なくもなさそうなバーバラさんの意見に、ガランさんはガシガシ頭をかいた。
「えーと、なんで俺達に魔法を使わせようと?」
修二が戸惑いながらも、根本をたずねる。
「あなた達がなんで魔法を使えるのか、原因がわからないからよ」
お、おう。そうだな。
「昨日は驚きすぎて、私も確認できてなかった。もう二度とあんな無様はさらさない。この目にしかと魔法原理を、マナの流れを刻みつけるわ」
バ、バーバラさん! 本日初お披露目の宮廷魔導士らしい覚悟に感動しきりだ。よかった。ただのざんねんお姉さんじゃなくて、本当によかった。
「お前、そうは言っても連日あんな魔法を使えばシュージ達もだな」
「見える?」
「ん?」
「二人が疲れているように見える?」
私達をかばおうとしてくれていたガランさんが、バーバラさんに言われて私達を二度見する。
「シュージ、嬢ちゃん。なんともないのか?」
「へ?」
「まあ、朝から肉を奪い合うくらいには」
「ちょっと! それだと私が食い意地張ってるみたいじゃない」
「いや、その通りだろ」
「なにおー!?」
私の恥ずかしい話を暴露する修二を黙らせるために私は腕まくりする。
「こいつは一体どういうことだ?」
そんなことをしていれば、出会ってから余裕しか感じなかったガランさんが驚いたようにバーバラさんに問いかけていた。
「あんだけの魔法を使ったんだ。普通は疲労だって残ってそうなもんだが」
「私達が魔法を使って疲れるのはなんでだと思う?」
「ん、そりゃ」
バーバラさんに質問を質問で返されてガランさんは首傾げる。
「自分のマナを消費するからよ。それじゃあ、そもそも消費するマナを持ってないように見える勇者様達はどうなのか確かめるために、今日も来てもらったの。これで勇者様達にマナがないということの信憑性が増したわね」
なんと! ざんねんお姉さんに見えたバーバラさんだけど、急にかしこく見えてきた。メガネとかかけたりしないかな? バーバラさんにメガネ……なんかちょっとエッチ?
「なるほどな。それじゃシュージ達の魔法は?」
「仮説はできたわ。でも仮説はあくまで仮説。確認には検証が必要よ」
「言いたいことはわかったが、そうは言ってもな」
「そのためにこれを持ってきたんだから」
バーバラさんは言いながら、地面においた漬物石を指差す。
「そう言えば、なんですかそれ?」
「ああ、嬢ちゃん達は知らんか。これはルトゥムって言ってな」
「この世でもっともマナを吸収する鉱物よ。これならあなた達の魔法が暴走しても受け止め切れるわ……きっと」
バーバラさん? また語尾に不穏な言葉がついてませんか?
「いくらルトゥムったって、昨日のあれだぞ? 大丈夫か?」
「大丈夫よ、きっと。そのために私が持ってる最大サイズのルトゥムを持ってきたんだから」
うーん、相変わらず自信満々に希望的観測だ。ガランさんが言ってた研究バカの意味がわかってくる。好奇心が最優先なんだろうな。しかし、なにせ安全性の保障がないから話は堂々巡りだ。
「わかりました。とりあえずやってみましょうか」
と困っていれば、修二がまさかの自分からいけにえ志願をした。どうした!?
「修二?」
「このままじゃ、なにもわからないし話も進まないだろ」
おどろきながら呼びかければ、修二はアメリカ人みたいに両手を上向けて肩をすくめた。
「で、それに昨日みたいに魔法を撃ち込めばいいんですね?」
「ええ、そうよ。遠慮なくやっちゃって」
なにごともないかのように、修二はサクサク話を進めてく。ちょっとちょっと。
「おい、シュージ」
私の心情を代弁するかのように、ガランさんが修二を呼び止めた。
「昨日と同じことをするだけでしょ? 大したことないですよ」
レアステーキになりかけたのは十分大したことじゃないだろうか? そう疑問に思うけど、修二はあっさりと漬物石の方に歩き出そうとする。
「ちょっと、修二」
「なんだ?」
思わず呼び止めれば修二が振り返る。
「え、えっと」
呼び止めておきながら、何を言うか考えてなかったので口ごもる。
「実験台一号は俺がなるから。杏は安心して見てろよ」
そんな私に、修二はいつもみたいにおどけた笑みを見せてくる。そして、私の髪をくしゃりと撫でた。その手が昔より大きくなったよななんて、どうでもいいことを私は思った。
「さて。んじゃ、やるとするか」
修二はあっさりと手を放して、今度こそ漬物石に向き直った。あって小さく口に出して、私はようやく言いたかったことがわかった。
「気をつけなさいよ」
すなおにそう口にすれば、修二は顔を振り向かせて、目を丸くして。耐えられないみたいに吹き出した。
「なんだ。心配してくれんのか?」
「……バカ言ってんじゃないわよ!」
その反応が恥ずかしくて、腹立たしくて、私が叫べば。修二は、はいはいとひらひら片手をあげて、顔を漬物石に向けなおした。
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