第11話 おおお落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない2
「まず世界のマナを体内に取り込むでしたね」
「はい。マナは感じられてますか」
バーバラさんの言葉に、私は意識を外に向ける。集中すればこの目に見える小さな粒の群れ。元の世界にはなかった、透明だけど、ほのかに明るくて、温かくて。まるでお日様の光が雪になったみたいな。
「はい。あたたかくて柔らかい力ですね」
「え?」
バーバラさんの驚きを置いて、私はマナを吸い込もうとする。
来て。力を貸して。
ズギュルと、周囲一帯のマナが体の中に満ちた。
「……っそんな!? まさか!」
熱いっ! もう温かいなんてものじゃない!
「杏! イメージを転写だ! 炎が燃え盛るように!」
修司の言葉に意識を繋ぎ留められた。声を上げるバーバラさんが魔法を使った姿を思い出して、指を横に向けた。
「杏! 空っ!」
修司の叫びにとっさに指を上向ける。
「「ファイアッ」」
私達はあふれるものを解き放つみたいに魔法名を叫んだ。
空に向けた私達の指から、さっきのバーバラさんとは比べ物にならない炎の柱が立ち上った。
「うおおおおおおぉおっ!?」
滝のような音すら聞こえそうな私達のだいもんじに、ガランさんが身を引いてさけんだ。
「キョウ、シュウジ、ストップ! もう十分だ!」
続けてガランさんが指示してくる。うん、確かに十分だ。うたがいようもなく私達は魔法が使えた。ひじょうに満足である。よし、ストップ。
「キョウ!? どうした!?」
「……るの」
「なんだ!?」
「ストップってどうやるのぉー!?」
私は叫ぶけど、ガランさんは
「シュ、シュウジッ!」
「お、おおお落ち着け。まだ慌てるような時間じゃない」
続いて修司に声を掛けるけど、私と同じ状態なバカが役に立つわけもない。
「バーバラッ!」
「う、嘘よ。こんな」
宮廷魔導士さんはうろたえている。クールだった様子が跡形もない。でもこれはこれでエロいんだから美人って罪だ。ギルティ! 弁明の余地はないと思います!
じゃなくてっ!
アチッ! 熱い! 指の先が火炎放射器状態のままなものだから、顔が熱い! いい加減上げっぱなしの手も疲れてきた。
「ま、待て待て待てっ! キョウ、手を下げるなよ! 絶対に下げるなよ!?」
「あ、これフリだ。アハハ」
「バカ、待て、フリじゃない!」
場はまさに混沌、カオス、デストローイ。じゃなくてどーすればぁ!?
◇ ◇ ◇
戦場よ。兵どもが夢のあと。
なぜだかどーにかこーにか無限火炎製造が収まり、私達は地面に尻もちをついている。散々さわいだ疲れと息切れに立つ気力もない。
残ったのは十度は気温が上がったのではないかという熱い大気。そして炎に消し飛ばされて雲が消えたまっさらな空。わー綺麗な青空だなー(棒)
「キョウ、シュウジ」
いつも元気ハツラツなガランさんが、疲れた声で呼びかけてくる。
「「はい」」
私達も疲れた声で応じる。
「自分達で制御できるようになるまで、魔法は禁止だ」
「「……はい」」
ガランさんの禁止令に大人しくうなづいた。もっともすぎる。もはや魔法が使えないという不安より別方向のこわさのが強い。
「で、今のは一体どういうことだったんだ、バーバラ?」
「……ハハハッ」
あ、ダメだこりゃ。バーバラさんは、いまだにメンタルブレイクから帰ってこれてない。私達の魔法はそれほど非常識だったらしい。さもありなん。一歩間違えれば王城が消し飛んでてもおかしくなかった。その証拠に何ごとだと人がめっちゃ集まってき始めた。なんでもあるよー。こわいよー。私達もどうしていいかわからないの。
「ガラン様! 先程のは一体!?」
遠巻きに見てる群衆から二人、人が歩み寄ってくる。我らが癒しソフィアちゃんとその護衛騎士のステラさんだ。
「ステラか。いや、勇者様達の魔法が強力過ぎてな」
「魔法!? あれが個人の魔法だというのですか!?」
騎士の二人がさわいでいるのを横目に、ソフィアちゃんはトテトテ私達の元に歩み寄ってくる。
「キョウ様。シュウジ様。大丈夫ですか?」
かわいいっ! いやしっ! イヤシミンッ!
「うええーん!」
「キャッ!?」
「ソフィアちゃんー! こわかったよぉー!」
フワフワな白髪に顔をうずめる。やーかいよぉ!
「え、えっと。た、大変でしたね?」
ソフィアちゃんは小さな手で私の背中をポンポンしてくれる。ああ、きみのためなら死ねる。
私は傷ついた心をいやすために、イヤシミンをめいっぱい補充した。
「死ぬかと思った……」
修司まで私達を抱きしめてきて腹が立ったけど、気持ちはよくわかったし怒る気力もないからほうっておいた。 あー、心がモフモフするんじゃー。
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