第10話 まだ慌てるような時間じゃない
「魔法を使う第一歩は、世界のマナを感じることから始まります」
バーバラさんがゆらりと人差し指を立てる。ただそれだけの動きがどこか色っぽいのはどういう魔法なのか? その魔法もぜひ教えてほしい。
「世界には至る所にマナがあふれていて、そのマナを操ることが魔法を使うということです」
見てみましょうか。そう言って、バーバラさんはファイアとゆっくり唱えた。するとこぶし大の炎が、バーバラさんの指先に灯った。
「おおーっ!」
初めて見る魔法に、私は大興奮で拍手喝采。
「ありがとうございます。それで、マナの動きは感じられましたか?」
「は、はい。多分」
目線だけでバーバラさんに続きを促せられる。
「バーバラさんのお腹の辺から紫色の光みたいなのが指先に伝わって、それが体外に出たら大気に散らばってた透明な光を集めて炎になりました」
私は見たまんまの現象を何とか言語化した。
するとバーバラさんが紫の瞳を大きく見開く。
「バーバラさん?」
何かおかしなことを言っただろうか? 不安に呼びかける。
「……可視の魔眼ですか。さすがは召喚の聖女様ですね」
バーバラさんは見るからに作った顔でにっこりと笑う。その笑顔がどこか裏があって怖そうに見えるのは私の気のせいだろうか? 気のせいだよね? そうだといいな。
「それでは、自分のマナで私の真似をしてください」
言われて私は自分のお腹に目を落とす。うん、なるほど。
「あの……私は体内にそのマナっていうのないみたいなんですけど」
「はい?」
「いえ、だからマナっていうのがないかなって」
バーバラさんは美人な顔に似合わず、ぽかんと口を開けた後。
「ないっ!?」
素っ
バーバラさんをして、この慌てよう。あれ、これってもしかしてまずいんじゃない?
「魔法を使う方法は、体内のマナを体外に出して使う。その方法しかないんですか?」
異世界召喚アゲからの追放物語に私が戦々恐々としていると、修司が冷静に確認をした。落ち着いとる場合か!
「魔法の使い方は体内のマナで世界のマナに干渉する。それしかありません」
案の定、バーバラさんは深く嘆息した。国で一番魔法に精通してるだろう宮廷魔導士さんがこう言うってことは本当にマズいんじゃ。
「待て」
私があわわわわっと慌てていると、オッサン騎士団長ことガランさんが待ったをかけた。魔法のことなのに、騎士が魔術師に待った?
「身体強化の時は、大気のマナを体内に取り込むことがあるだろ? 特にマナが弱い奴ほど」
「どういうこと?」
「身体強化は全身にマナをみなぎらせて体の耐久値や運動能力を上げるんだ。体内のマナが多い奴は自前のマナだけでやるが、自前のマナが少ない奴は大気のマナを取り込むことで不足分を補うわけだな」
「ほむほむ」
ガランさんの説明に安心 & 納得。なんだ、そんな方法があるんじゃん!
「確かにそうだけど、ガラン。それじゃあ大気のマナをどうやって取り込んでると思う?」
「そりゃあ体内のマナを使って……って」
「そう。結局大気のマナを取り込むための操作も体内のマナを使ってるのよ。付け加えるなら体内のマナは自前のものだから比較的術者と相性が良くて魔法のイメージ転写もしやすいけど、外部のマナはそれがしにくい。だから魔法の効果効率も体内のマナより悪いのよ。それでも外部のマナの方が圧倒的に量が多いから、大気のマナを使ってるわけなんだけど」
バーバラさんの反論に頭を抱える。まあ、マテ。まったく意味がわからんぞ。
……ポクポクポク。チーン!
それじゃあ結局ダメってことじゃん!? 多分っ!
両手で頭を抱えて、天を仰ぐ。オーマイガ。私の異世界聖女絵巻、これにて終結。
「いった!?」
なんて悲嘆にくれてれば、とうとつにバンッと背中を叩かれた。なんだぁ!?
おどろきといかりに横を見れば、修司がへたくそな顔で笑ってた。
「へこんでたってしかたないだろ? 物は試しだ。とりあえずやってみようぜ」
「いや、そもそもできないって」
話聞いてたのか、こいつ?
「でも、ソフィアちゃんは俺達に魔法の才能があるって言ってたよな?」
「あっ」
そうだ。確かに私達のステータスをチェックして、ソフィアちゃんはそう言ってた。
「ソフィアちゃんの言葉、信じられないか?」
「そんなわけない」
ソフィアちゃんはかわい子ちゃんなだけじゃない。百点満点のすごくいい子なんだぞ。あんな子が嘘を言うわけない。
「だろ? ならまずは試してみようぜ」
今度こそニカッといつもみたいに笑って、修司は言った。……ふんっ。なんだ、なんなんだ、こいつ。私が追放ピンチにのたうち回ってたのがバカみたいじゃないか。メンタル鋼か? アイアンハートはくだけないのか?
なんか悔しいからその胸板に追放パンチを見舞っておく。
「言われなくてもよ」
まあ、それはそうだ。やる前からムリムリ言っててもしかたない。ムリかどうかはやってみてから考えればいい。まずは当たって砕けろだ。
「いえ、ですから」
「まあ、そうだな。グダグダ言ってても仕方ない。二人ともやってみろ」
バーバラさんが何か言おうとしたが、ガランさんは気にせず私達に先を進めた。うん、さすがは脳筋。考えるよりも先に体を動かす。わかりやすくて大変よろしい。
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