第8話 なんとこぶは私だった

「さて。となると皆さんのお望み通り魔王討伐は目指しますけど、その後はちゃんと元の世界に帰れるんでしょうね?」


 ソフィアちゃんが落ち着くのを見計らって、修司は再度王様に問いかけた。うん、非常におしいけど、五箇条先生、いや家族に会うためにしかたない。帰りのことも考えておこう。


「そ、そなた達は魔王討伐のために召喚された勇者達じゃ。なればその魔王討伐を果たした時、そなた達は元の世界へ帰れるであろう」


 そう考えの舵をきった私への王様の回答がこれである。ちょっと、王様? すこし口ごもらなかった? 本当に大丈夫か? 魔王討伐さえしてもらえばいいから、帰りのこと考えてない片道切符だったんじゃないよね?

 疑惑の眼差しで王様をにらみつければ、おじさんの額に流れた汗が頭上の金の王冠を映して光輝いた。あ、ダメだこりゃ。


「……王様?」


 私と同じ疑惑を抱いたであろう修司のにらみつける。王様の額から流れる汗が倍加した。

 ジト目の特殊攻撃。王様のぼうぎょが一段階ダウン。王様の汗がダラダラ頬を伝い始めた。

 ダメだこりゃリトライ。修司もでっかくため息。


「……わかりました」


 疑わしさ2000%だけど、修司もこれ以上王様をつめても無駄とさとったのだろう。なにも納得してなさそうながら、話を切り上げる。


「それでは魔王対峙と言いますが、僕達はこちらの世界や戦いに慣れていません。まずはそれをサポートしてもらえますか?」


 そして即座に切り替えるとそんなことを言い始める。あれ? こんな頼りになる感じだったっけ、このバカ?


「もちろんじゃ! 我が国の騎士団長と宮廷魔導士をそなた達の教育係に就けよう」


 騎士団長! 宮廷魔導士! なんて西洋ファンタジーな響き!

 いいねいいね! クゥーと手に汗握りながらはたと気付く。

 そうだ。物語の主人公ともなれば、すてきな恋愛相手! 異世界物のヒーローと言えば、騎士は鉄板! か弱き乙女ともなれば、戦場でさっそうと自分を助けてくれる力強い騎士様に憧れてしまうもの。


「キョ、キョウ殿?」

「気にしないでください。いつもの病気です。話を先に進めてください」

「う、うむ」


 く・わ・え・て! 物語の主人公ともなれば、複数の恋愛キャラがいるもの! 宮廷魔導士。メガネをかけた知的でクールなイケメン。まさにヒーローのライバルキャラにふさわしい。


「それではまず、そなた達のステータスを確認させてもらいたい」

「お願いします」


 そうだよ、これだよ。すてきな世界にかわいいお姫様のお友達。あと、私の異世界転移にたりなかったのは、すてきな私のヒーローだったんだよ! クフフフフッ。


「ステータスチェック」


 聞き慣れたかわいい声に我に戻る。気付けば私が抱きかかえてたソフィアちゃんは離れてしまって、修司の額に手を置いていた。ああ、ばっちいが移るから触っちゃだめだよ!


「凄い……剣聖はもちろん四属性魔法に光魔法まで」

「おおっ! 光魔法とは間違いなく勇者の証!」


 ソフィアちゃんの言葉に王様が声を上げ、衛兵や禿げたおじさんも色めき立つ。いいね! まさに異世界召喚物らしい反応、盛り上がるねっ! ……って、修司が勇者?


「それではキョウ様。失礼します」

「え、ああ。うん」


 私が手に入れるはずの称号を修司が持っていることに引っかかるが、ソフィアちゃんが私の前に立って手を伸ばしたので、私は頭を下げる。あ、ソフィアちゃんの手、冷たくて気持ちいー。心があったかい人は手が冷たいってホントだね!


「四属性魔法に治癒魔法、聖魔法。凄いです、キョウ様」

「治癒魔法に聖魔法ぅ?」


 勇者というより僧侶っぽいスキルに首をひねる。


「な、なんと」


 しかし私以上に怪訝な反応をしたのは王様と周囲の人間だ。ザワザワしながら呟きだす。


「聖女様だというのか?」


 聖女!? 思いもしなかったジョブに驚く。

 聖女……聖女かぁ。ぜいたくかもしれないけど、正直がっかりだ。

 聖女より勇者がよかった。私はどっちかって言えば自分で戦いたいし、せっかくの異世界、自分が主役で自由に冒険したい! それをなんでこいつがと修司をにらむが、後ろでコソコソ話が聞こえてきた。


「聖女様って、あれが?」

「聖女様って酒を飲むのか?」

「あんな悪酔いして暴れたのが聖女?」


 ……あ、あれはあんなに飲んだの初めてだったから。い、いつもあんなわけじゃないよ? 人間だれしも失敗はあるものじゃん!


「聖女様ってなんていうかもっとこう」

「おしとやかで慎ましいものでは」

「教会の象徴とするのはちょっと」


 ぷるぷる震えながら堪えてるのにさらなる追撃。さ、さっきのは自分の失敗だけど、いわれのないひぼうちゅーしょーは許さないぞ!


「なんでしょう?」


 怒りを笑顔で押し隠して、私は後ろのその他大勢に微笑みかけた。特にそこのはげおじん! また頭パシパシしたろーか、こら!


「「「「「い、いえ、なんでもございません」」」」」


 ふん。わかればよろしい。衛兵さんやおじさん達が黙ったので、私は考え直す。

 修司が勇者で、私が聖女。これじゃあ主人公は修司で、私はそのヒロインな立ち位置だ。え? これって立ち位置だけで言うと主人公が修司で、私がヒロイン?

 私のヒーローは? 騎士様に宮廷魔法使いは? 異世界スパダリは?

 絶望に立ち眩みがした。すると腰を支えられた。


「大丈夫か、聖女様?」


 半笑いの修司だった。明らかに私をからかう口調だった。うん、こんなのが主人公なわけがない。


「さわんな、バカ」

「理不尽っ!」


 だから一発しめといた。

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