第6話 二日酔いとその不始末


「うえぇー」


 目覚めると、経験したことのない気持ち悪さと頭痛に襲われた。なにこれ、キモチ悪い。


「頭痛いー。気持ち悪いー」

「酒なんて飲むからだ、バカ」


 枕もとの修二が悪態をつきながらもコップに水を入れてくれる。


「だって、おいしかったんだもんー」


 うえぇーとえずきながら私は水を飲み干す。


「なんで修二は平気なのよー」

「そりゃお前があんな酔っぱらってりゃ、俺まで飲むわけにはいかないだろ」

「ズルっこだーひきょうだー」

「はいはい、俺が悪かったですよ」


 べしゃっと修二はしぼったタオルを私の頭におしつけてくる。……これって風邪のときにやるやつじゃない? あ、でも冷たくてきもちぃー。


「とりあえず今日はゆっくり休んでいいって言ってもらえたから、ゆっくり寝てろ」

「ほんとに? みんなやさしー」


 来たばっかりでまだなんにもしてないのに、なんてやさしい人達なんだろう。やっぱり異世界って最高だ。


「……そりゃ昨日あれだけからまれればなにも言いたくなくなるわな」


 ボソリと修二が何かを呟いた。


「え、なにか言った?」

「なんでもない。いいから寝てろ。俺はここにいるからなんかほしいものとかあったら言えよ」

「うん。修二ありがと」


 お礼を言うと、修司は無言でくしゃりと髪の毛をつぶしてきた。なんだよーたまには素直にお礼言ったのに。



  ◇◇◇



 翌日。


 さわやかな小鳥の鳴き声。やわらかい日の光。風にそよぐ木の葉。

 東京の街並みとはぜんぜん違うすてきな自然、おはよう世界、グッモーニン異世界ワールド!

 体調も全快で、気分もさいこうっ!


「おっはよー!」


 ババーンと扉を開けて、私は晴れやかにあいさつをする。


「キョ、キョウ様!?」


 王様が私のおつきにつけてくれたメイドが、あわてたように身をのけぞらせた。うん? なんか変な反応だね。


「うん、おはよう。今日もいい朝だね」

「そ、そうですね! あ、至急朝食の支度をしますね!」


 私はフレンドリーに朝一番の会話をこころみたけど、メイドさんはあわててピューっと部屋の外に走って行ってしまった。


 ……私、なにかしたっけ?




「おはようございます」

「キョ、キョウ様! おはようございます!」


 移動中、廊下ですれちがったおじさんにあいさつをすれば、おじさんはなぜかハゲた頭を両手でおおってピューっと逃げていった。


「……修二。私あの人になにしたの?」


 となりを歩く修司に。私はたずねる。


「いや、何もしてないんじゃないか?」

「だったらなんで誰も目を合わせてくれないの……?」

「杏の気のせいだって」

「だったらなんで、修二も目を逸らすのー!」


 私は修二のえりもとをつかんで、ガックガク振りみだした。



 十分後。


 私はおとといの宴会で起きた、いや私がやらかしたことを修二から聞いた。あまりのやらかしっぷりに私は身もだえた。恥ずか死した。

 ウキャーッ!

 詳細は私の名誉のために伏せさせてもらう!

 ただ、おじさん。いい輝きの頭をぺちぺちしてごめんよー。悪気はなかったんだよー。本当だよっ!


 未成年飲酒、ダメ。ゼッタイ。

 

 そう心に誓った、異世界生活三日目の朝。

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