第4話 王城の夜に紳士な筋肉

 おじさんが口にした支給品は、三人のメイドさんが持ってきてくれた。

 真ん中のメイドさんが持つ袋の口からは、山吹色の輝きが見えた。

 うっひょー、金貨だ金貨っ! はじめて見た! 王様、お主も悪よのう¥ ヒョホホッ¥


「さて、勇者のお二人も突然の召喚に疲れておるじゃろう。今宵はお二人の歓迎と祝いの席を設けておる。ぜひ我が国のぜいをこらした食を楽しんでほしい」


 な、なんと!?

 やさしいおじさんは金貨に続けて、さらなるご褒美を倍返ししてきた。

 ふ、ふふっ。やるじゃない。流石は王様。見た目はただのおじさんでも、伊達に人の上に立ってはいない。人心掌握を心得ておる。

 やるよー? バリバリやっちゃうよー? 私。だから、私の期待に応えるおいしいご飯を出してね?


「……お前ってホント」

「なによ?」

「いや、なんでもない」


 バカの微笑みがなんかムカついたので、とりあえず一発殴っといた。



 ◇ ◇ ◇



 見るからに新鮮な野菜のサラダ!

 ほかほか湯気を立てるシチューにパスタ! 

 豪華、鳥、豚、牛? っぽいお肉の三点盛り!

 色とりどりのフルーツ盛り合わせにケーキ!


 うっほほーい! より取り見取りだね、こりゃ!


 会場で私達を待ち構えていたのは見るも豪華な料理の数々。クウゥー! これだよこれ! マンガとかのご飯って一度食べてみたいって思ってたんだよね! 骨付きのマンガ肉! 今すぐにかぶりついたげるからね!


「今宵、我がアリエステラ王国に召喚されたのだ!」


 だから、王様! その無駄話を一刻も早く切り上げなさい!

 私の目線に気付いた王様は体をビクッとすくませる。届け、私の想い!


「アリエステラ王国と勇者様達の未来に栄光あれ! 乾杯!」

「「「「「乾杯っ!!!」」」」」


 私の願いを正しく汲み取った王様おじさんが早々に話を切り上げた。偉いっ!


 肉! まずは肉!! マンガ肉!!!

 骨を掴んで、丸かじり!


「うんっまーいっ!」

「確かにうまそうだな! 俺もっ!」

「ダメ! それは私んだ!」

「お前はもう一個食べてるだろうが!」


 私のマンガ肉に手を伸ばした修二と争奪戦。


「あ、あの、足りないようでしたら、まだお出しできますから」


 かわいい子ちゃんがまさにおずおずといった感じで教えてくれる。


「ほら見ろ」

「むーっ」


 お肉の追加は嬉しい情報だが、目の前で私の肉片手にアッカンベーしてくるバカがムカつく。とりあえず骨付き肉の反対側でからっぽの頭を叩いて溜飲を下げながら、目では次なる獲物探しだ。


「なんだ、勇者様達は俺達と気が合いそうだな!」


 うるさい声に振り向くと、むくつけき男の一団が近付いてきた。高そうで豪奢な服を着てても隠せない筋肉オン筋肉。見るからにむさくるしい。うう、汗臭いよう;;


「ほれ、かけつけ一杯」


 筋肉ズの中で一際筋肉なおっさんが、ズズイッと酒を注ごうとしてくる。


「いや私、未成年」

「それがどうかしたのか?」


 私の断りに、頭にクエスチョンマークを浮かべるでっかいおっさん。ムキムキのおっさんがそんなことしたって、かわいくないんだからな!

 それはさておき、ここは異世界。そうか、未成年がお酒を飲んじゃいけないって決まりがないのか。ふーん?


「そこまで言うなら仕方ないなー、ちょっとだけだぞっ☆」

「おい」


 おっさんに対してすらやさしさ満点な私に、修二が絡んでくる。


「私じゃないよ? このおっさんがすすめてきたんだかんね?」


 決して、お父さんがおいしそうに飲んでたのが気になってたわけではない。


「ハッハッハ! 嬢ちゃんイケる口だな!」


 私の答えがお気に召したらしい筋肉おっさんが、私のコップに遠慮なく酒を入れる。あーあー、ちょっとだけって言ったのに。これもおっさんのせいで私は悪くないかんね?


「そいじゃ、乾杯!」

「「「「「かんぱーいっ!」」」」」


 おっさんの掲げた杯にガチャコンとコップをぶつける。うーん、無意味にテンション上がってきた! このまま一気! 一気っ!!


「うぇっ!?」

「うおっ!?」


 あまりのまずさに酒を吹き出した。

 なにこれ!? まずっ! 苦いだけじゃん!


「うえぇー」

「ほら」


 コップの中にえずいてると、修二がコップを差し出してくるので今度こそ一気に飲み干す。水を今までで一番おいしく感じたかもしれない。


「はー」

「大丈夫か、嬢ちゃん?」


 ようやく一息ついてると、顔を酒の泡まみれにしたおっさんがハンカチを差し出してきてくれた。


「えあ? ご、ごめんなさい!」


 おっさんの顔を見て、私は謝る。本当に申し訳ない。そんなつもりはなかった、いや本当に。


「いや、こっちこそ無理にすすめて悪かったな」


 顔に酒を吹きかけられておきながら、おっさんは紳士にハンカチを差し出したままだ。


「いえ。それよりも、それで顔を拭いてください」

「いいさ。ちょうどいいから酔い覚ましに顔でも洗ってくるとするよ。こいつは嬢ちゃんが使ってやってくれや」


 おっさんはそう言うと、私の手に無理やりハンカチを押し付けて背を向けた。


「あ、ありがとうございますっ!」


 せめてお礼の一つでもと頭を下げれば、おっさんは顔だけ振り向けて、上げた手をヒラヒラさせて去って行った。おっさんなのに、なんてイケメンな。いや、おっさんなんて言ってゴメン、おじさま! ……あの筋肉におじさまは無理があるなぁ。


「おまえ、失礼なこと考えてるだろ」

「か、考えてないよ!?」

「おまえ、動揺したり図星を指されると言葉遣いおかしくなるからな。気を付けろよ」

「むぐっ!?」


 修二の指摘にむせた。くそー、修二のくせに生意気だぞ。

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