第一章 なんて素敵に異世界召喚

第2話 バカとかわい子ちゃんと剣持ち美人さん


「いったー! なんだってのよ」


 ズキズキ痛む肘やら頭やらを擦りながら、私は体を起こした。


「……痛いくらいですんで何よりだ」


 すると恨みがましい声がお尻の下から聞こえた。


「え?」


 目線を下げれば、修二がじゅうたんになっていた。


「え、やだ」


 私は飛びのいた。


「あんた、そんな趣味あったの?」


 そしてドン引いた。知り合いが文字通り尻にしかれる趣味のドMだったことに。誠に遺憾ながら一応は幼馴染なわけだけど、その事実を消し去って他人の振りをしたい位にはドン引いた。


「それが文字通り木から落ちた猿を受け止めた恩人に対する言いぐさかっ!?」

「ムッキャーッ!? 誰が猿よ、誰が!!」

「人の忠告も聞かないバカなお前だよ、お前!」


 目を吊り上がらせたバカと口角に泡を飛ばし合う。

 あれ? でも、もしかして今のセリフ的にこいつが尻に敷かれてたのって、もしかしなくても私を助けようとした結果だったのだろうか? ……ふーん、意外にやるじゃん。

 修二を見直しかけるが、こちらを威嚇する顔を見て、そんな気持ちは一瞬で失せた。うん、よく考えればそもそも木から落ちた理由はこのバカの余計な一言だった。見直して損した。ということで、戦闘再開。

 あんだぁ、やるかっ!? ガルルッ!


「あ、あのー」

「「アアンッ!?」」

「キャアッ!?」


 邪魔な横槍に振り向けば、めちゃんこかわいい子ちゃんが小走りに私達から距離を取った。


「え? なになに!?」

「キャアッ!?」

「やめろバカ」

「クェッ!?」


 ロングの白髪、青ロープとゲームみたいなファンタジー小動物系美少女に駆け寄ろうとしたら、バカに襟首を掴まれたせいで絞め殺される鳥みたいになった。


「何すんのよっ!?」


 バックして何とか気道確保。目に涙をにじませて元凶のバカに掴みかかる。


「慣れてない人間は、お前の予測不能・猪突猛進アクションが怖いんだよ。見ろ、怯えてるじゃないか」

「む……むー」

 

 心外極まりないけど、距離を置いて怯える可愛い子ちゃんを目にしてしまえば、バカの言い草も一理あると認めざるを得ない。でも、そのプルプルしてるのもめっちゃプリチー抱きしめたい。


「ハアハアッ」

「ヒッ!」

「大丈夫だよー、怖くないよー」


 ギュってしてヨシヨシって愛でたいだけだよ。ウヘヘヘッ。


「それ以上、姫様に近付くなっ!」

「ヒョエッ!?」


 きらめく鎧を来た金髪美人ちゃんがかわいこちゃんを背に庇って、剣を突き付けてきた。おお、こっちは見たまんま女騎士な凛々しい美人さん。うーん、ギュってされたい。ウヘヘ。って、剣だよ剣っ!?


「杏っ!」

「クエッ!?」


 再び気道を圧迫された私は、勢いのまま修二の後ろに引っ張られた。


「絞め殺す気!?」

「後にしろっ!」


 珍しく真剣な修二の叫び声に、冷静になる。

 そりゃ余裕だってなくなるだろう。だって剣だ。私達を簡単に殺せるだろう凶器を突きつけられているのだ。え? なにこれ怖い。


「ここはどこ? 私は誰?」


 あまりに現実味のない光景に、私は両手を広げてみた。気分は記憶喪失、もしくは異世界転生だろうか?


「……意味不明な現実逃避してる場合か」

「これって現実? 夢じゃない? あんたをつねって確かめてみてもいい?」

「ナイスアイディアだ。確かめるのは俺じゃなくてもいいよな? 杏をつねって確かめてみよう」

「男のあんたが体張りなさいよ」

「悪い、実は俺フェミニストなんだ」

「聞いたことないんだけど」

「言ったことないからな。でも俺、男女平等目指してっから」

「あんたは一度フェミニズムを勉強し直しなさい!」


 パニクりがらも、私達は剣のさびになる未来を押し付け合う。


「……えっと、仲良しさんなんですね?」

「「ぜんっぜん!」」

「キャアッ!」


 余計なことを言った可愛い子ちゃんをまた怯えさせてしまった。ゴメンよ、でもやっぱり震えてるところもかわいいね。

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