異世界召喚なのに、なんであんたがっ!
みどりいろ
プロローグ
第1話 サルも木から落ちる
まだ日も高い、いつも通りの下校途中。見慣れた家までの帰り道。
「ねえ」
これまた代わり映えない隣の男に、私は声掛けた。
「んー?」
いつも通り面白みのない顔が、今にもあくびしそうな気の抜けた顔で振り向いた。相変わらずやる気の足りない奴。
まったくもう、仕方ない。ここは心優しい私が、胸躍る話題を提供してその間の抜けた顔に気力をプレゼントしてあげよう。
「今週のチャンプ見た」
「いや、まだ」
即否二秒。当たり前のようなあっさり回答に、私は
「うそっ! あの超・超・超絶かっこいい五箇条先生をまだ見てないの! 信じらんない!」
「いや、日本中で見てない奴の方が圧倒的多数派だろ」
私の全力不満に対してすら相も変わらず冷めた反応。ショックでともすればクラクラしそうな頭を私はブンブン振った。
オッケー、わかった。そっちがそう来るなら、こっちにも考えがある。
「仕方ないわね! どれだけよかったか私が教えてあげるから、よっーく聞いて今すぐ読みなさいよね! ジャスッ! ナウッ!!」
「読むの勧めときながらネタバレする気なのスゴ過ぎやしませんかね?」
事ここに至っても平静な冷血動物に私はフンッと腕を組む。
「私が話したいときに読んでないあんたが悪い」
「お前が神か」
バカのツッコミに内心笑いながらも、アッカンベーと右目の下を指で引っ張って私は愚か者を見た。
「これに懲りたら、次からは発売日に読むこと」
「へいへい、そーですか」
諦めたように軽く上げた右手をヒラヒラ振るバカ。ふん、そんな反応をしていられるのも今のうちだけだ。
あふれろ私の作品愛! 届けこの興奮!! 冷めやらぬ熱き五箇条スキーを受け止めるがいい!!!
「ミャー」
「え! どこどこっ!?」
しかし、予想外の気まぐれ乱入者。この鳴き声は、間違いなく私が愛してやまない小さくも気高く気まぐれなあの動物。どこどこ!?
「おまえ……」
隣を歩いていた
「ミャア」
再び聞こえた鳴き声は、頭の上から聞こえた気がした。
「そこっ!?」
見上げれば、木の枝の上に黒い子猫ちゃん。登ったはいいけど降りられなくなったのか、小さな体をプルプル震わせてる。めっちゃプリティー♡
「待ってて、今助ける」
「おいっ!?」
私はすぐに木を登り始める。しかし、バカがうるさい。
「ちょっと待て、バカ!」
「やだ。あんな可愛らしい子猫ちゃんを前にして、待つなんてできるわけないじゃん。あと誰がバカだ、このバカッ!」
「お前だよ、お前! 俺が登るから降りろって! 一応女だろ!」
「もう登っちゃったからいい。このまま私が行った方が早いし、あの子猫ちゃんになつかれるのは私だ。あの子の救世主の座はゆずらない。あと立派な女ですぅー!」
「危ないだろ!」
「私、体育5だから」
自慢じゃないが木登りは得意だ。小っちゃい頃によくしてたから。
「ったく、あー言えばこう言う」
ようやく諦めたか、バカ修二。わかったなら、そこで私と猫ちゃんの感動のご対面を見守ってるがいい。ここから始まる猫ちゃんと私のふれあい感動物語を。フフフフッ。
「……パンツ見えんぞ」
「ハアァッ!?」
唐突なバカの一言に、私は慌ててスカートを押さえた。
つまり、木から手をはなした。
「
慌てる修二の声とフリーフォールみたいな浮遊感を感じながら、私は思い出していた。
私、今日、スパッツ履いてたわ。
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