29:人間たちとサキュバスの末路、そして衝撃の告白
次に私の意識が戻ったのは、三日後のことだった。
体感では少し長い睡眠という感じにしか思わなかったのだが、使い魔に「ようやくお目覚めですか、ベリンダ様」と呆れと安堵を含んだ言葉をかけられ、三日三晩目を覚まさず眠りこけていたという話を聞かされた。
「その間の身の回りの世話は……?」
「私奴が担当いたしました」
私はなんとも言えない気分になった。
ずっと使い魔に世話をされていたということはつまり、雄である彼に見られてはいけないところを覗かれてしまったかも知れないということ。いくらモヤのような魔物とはいえ、羞恥心が込み上げてくる。
「お嫌でしたか?」
「だって使い魔さんは雄……ですよね?」
「いいえ。魔族以外の者は全て雌でございますが」
「えぇっ! そうか、そういえば確かそんなことを本で見た気が……」
でもてっきり雄だと思い込んできたので、かなり衝撃だった。
「どうしてそこまで驚いていらっしゃるのかわかりかねますが、ともかく、ご無事のようで何よりでございます。魔王陛下に直ちに伝えて参りますね」
「あ……そうですね。あの後の話とか、色々聞きたいですし」
私は頷き、結界の効果が切れてしまっているらしい魔王城の私の寝室から出ていく使い魔を見送った。
「目立った外傷もないのに眠りこけていたので何事かと思ったが、どうやら無事のようだな」
そう言いながら使い魔と入れ替わるように部屋に入って来た魔王陛下は、少しばかりやつれているように見えた。
目元には隈があるし、頬も少しこけている。それでも失われない美しさはさすがだったが、痛々しいことには変わりない。
魔王陛下がここまでやつれたのは、きっと私のせいだろう。私が迂闊にも連れ去られ、さらに三日三晩も意識不明だったから。
「申し訳ありません、魔王陛下。私がご迷惑をおかけしたばかりに」
「お前に責はない。迷惑をかけたなどと思うな」
淡々とした口調だが、魔王陛下の言葉はとても優しい。
きっと私をこうして魔国に連れ戻すのは容易ではなかったはずだ。それだというのに叱責の一つもないことに驚いてしまった。
「……それでだが、お前に色々と説明をしなければならないな。まず何からがいい?」
「じゃあ、順番にお願いします。魔王陛下が私を助けてくださった経緯、そして第三王子殿下たちの末路まで」
「わかった。長くなるが、いいな?」
そして魔王陛下は静かに話し始めた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――城に魔物が溢れ返り、大騒ぎの中で私の不在を聞きつけて慌ててメオ殿下と城を飛び出したこと。
――乗り込んだ先、人間の国で大暴れしたこと。
――メオ殿下に兵士の大群を任せ、一人、私の元へ走ったこと。
「やはり黒幕はサキュバスどもだった。サキュバスをまとめていた一人が主犯だ。お前がいなくなったことにより光魔法の使い手が不足し困窮していた人間の国に、お前の返還を求めるようそそのかしたらしい。
あの魔物騒動も全て彼女の指示で行われたことだと、サキュバス二人を半殺しにして吐かせた」
「半殺し……!?」
「何を驚くことがある。あのサキュバスらはお前に危害を加えた。それだけで罰するに値するだろう。
その後、メオを引っ掴んで人間の国まで俺ごと転移させた。そして城に侵入し、邪魔者はメオに任せ、俺はお前の元へ向かった」
メオ殿下が一人でサキュバス二人を殺したという話も聞いた。
それは本当にすごいと思う。というか、仮にも魔王城で一緒に過ごしていた仲間であろうに、サキュバスを容赦なく半殺しにしたり殺したりしている魔族たちが野蛮過ぎる。
それほどまでに、私というお飾りを失う恐れがあったことは重大だったのだろうか?
「途中で主犯のサキュバスに出会した。俺と同等に魔力の高い、最上位のサキュバスだ。先王なら間違いなく妃にしていただろうと思えるほどの優秀さだった。
彼女は魅了耐性の強い俺の弱点を研究し、その上で溜めていた魔力を一気に放ってきた。それで俺を虜にしようと企んだに違いあるまい。さすがに一瞬は精神を乱されかけたが、俺は彼女に敗北することはなかった」
一方人間たちはというと。
「人間どもなど俺の相手ではない。お前の近くに転がっていた第三王子やその婚約者の令嬢や、サキュバスの甘言に惑わされた国王も城から摘み出したので、今頃のたれ死んでいるかも知れないな。だが俺も人間全部に地獄を味わせるほど無慈悲ではない。王太子とやらに人の国を任せ、二度と愚かなことはしないと誓わせるにとどめた。
ともあれ、俺にとってはどうでもいいことだ。ベリンダを連れ戻し、こうして我が城に無事に連れ戻すことができた。これが全てだからな」
言うべきことは言ったとばかりに話を切り上げようとする魔王陛下。
だが私は当然納得がいかず、慌てて質問した。
「ちょ、ちょっと待ってください。助けていただいたことは本当に感謝してますよ。でもおかしいです。サキュバスたちは魔王陛下の、その、妾だったのではないですか? だからああして魔王陛下に侍っていたのですよね? メオ殿下だってお子の一人で」
しかし――。
「いや、違う」
即答された。
私は驚愕し、魔王陛下の青紫の瞳をまじまじと見つめてしまう。
理解が追いつかない。
「どういうことですか?」
私が訊き返すと、当たり前のような顔をして彼はさらに重ねたのだ。
聞き間違いかと思うような、あまりにも信じがたい言葉を。
「俺が妃とするのはお前一人だということだ。――俺はお前を、愛している」
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