17:魔王陛下、完全に誤解されていますよ 〜使い魔side〜
それから色々な問題行動が繰り返されたが、厄介な妃は未だ厄介なまま、魔王陛下の妻という立場に居座り続けていた。
現在、魔王陛下とその妃、そしてメオ殿下は魔馬車にて魔国を旅している。
最大の目的は、魔国の民に妃の姿を見せること。人間の国から・・・・・・やって来た・・・・・初めての花嫁・・・・・・であるところの魔王妃ベリンダ様についての噂は絶えず、彼女の姿を目にすることを心待ちにしている魔物も少なからずいるだろう。
そしていくら無礼者の花嫁とはいえ、魔国のことを学ばせる必要がある。お飾りの妻だの何だの勝手に言ってはいるが、現状のままでは困るのだ。
問題は花嫁が部屋に引きこもってしまったりせず素直に同行を認めるか否かという点だったが、彼女は魔王陛下の誘いに即答し、こうしてついて来ているわけだ。
と言っても、あの忌々しい光魔法の結界を絶やすことなく張り続けながらではあったが。
所詮、我々に襲われるとでも考え、怯えているのだろう。なんとも愚かなことだ。
城下町に着くと、彼女は魔王陛下とメオ殿下と共に馬車を降りた。
私奴は馬車の中で待っていると言いながらも、気配を消して花嫁たちを尾行し始める。どうにもあの花嫁は信用できない。魔王陛下に何かあった時は身を挺してお守りしなければと使命感を抱いていたのだ。
しかし、そんなことにはならなかった。
だがその代わり――。
「……魔王陛下!?」
魔王陛下が手を差し伸べ、花嫁がそれを受け入れるという、とんでもない事態が発生していた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あの魔王陛下が、花嫁と手繋ぎ。
魔国の民たちに花嫁を見せつけるという意味である程度の触れ合いは必須で、だからこそ一緒に馬車を出たのだから当然だった。
だが、さすがにここまでやる必要性はない。
思わず上げてしまった悲鳴のような声を呑み込み、物陰に潜みながら私奴は考える。
魔王陛下は以前、花嫁を面白い女と評した。そして城では毎日のように偶然を装って花嫁との接触を図っている。
このことから魔王陛下のお気持ちは私奴も理解しているつもりであったが、まさかここまで積極的だとは思わなかったのだ。
普通、魔族は多くの妾を作るというのに今まで一切遊ばずにいた魔王陛下が、女性に大きく執着し始めている事実を受け止めるのに時間がかかってしまった。
「ただの興味ではなく、本当に惚れているというのですか」
――厄介で不可解で魔王陛下とは全てが不釣り合いな、光魔法持ちの人間の小娘に。
しかも、信じられないことに、それをどこか羨ましそうにメオ殿下が見つめていた。
しまいには「もしかしてオレとも手繋ぎしたかったりするのか?」と冗談半分で花嫁に言い出し、まんまと手を繋いでいるではないか。
メオ殿下まで籠絡されるとはどういうことだ。
メオ殿下は魔国最強の魔族――と言ってもその母親は下等な部類の魔物なので
そして、魔王陛下はメオ殿下に隠す気のない敵意の視線を向けている。
それは紛れもない嫉妬だった。
あまりにも私奴の理解を超えていて、思考が追いつかない。
私奴はただただ魔王陛下とメオ殿下に挟まれて笑顔を浮かべながら、のほほんとしている花嫁を見つめるしかなかった。
――仕方ない。
いつまでも茫然自失でいるわけにはいかないので素直に認めよう。魔王陛下は花嫁にご執心で、公衆の面前で手繋ぎという恥を晒してでも彼女を手にしたいとお考えだ。
だというのに花嫁はというと、その好意に気づく様子すら何もない。
私奴は今までサキュバスくらいしか女を見たことはなかったが、彼女らなら間違いなく気づいて喜色満面で飛びかかっていくほど魔王陛下の態度はわかりやすいものである。
だがしかし、花嫁は完全に誤解しており、おそらくお決まりの『お飾りの妻なのだから』で、ただ魔王陛下がそれっぽく演じるだけだと思い込んでいるに違いなかった。
その一方でメオ殿下が親しみを覚えていることは鋭く察知し、うまく甘えさせるのだから、鈍感なのだか何だかよくわからない。
さて、どうしたものかと私奴は頭を悩ませた。
私奴は魔王陛下の使い魔として、できうる限り魔王陛下に従いたいと思っている。
花嫁はまったくもって受け入れ難いが、魔王陛下が望むのであればその恋心を応援して差し上げるべきだろう。
現状、誤解されまくっていることを、魔王陛下は知らない。だがここで口出しするのは余計なのではなかろうかとも思えてしまい、そうしているうちに尾行を終えて馬車に戻ってきてしまった。
この旅行の間にどうにかなってくれればいいが、それも難しそうだ。
結局、魔王陛下が花嫁に直接想いを告げるまで待つしかない気がする。それは一体いつになることやら、使い魔の私奴でもまるでわからなかったけれど。
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