12:ショタ魔王子が喧嘩を売ってきました②

 見た目は子供なれど相手は魔族。


 結界を練りながら、どこまで手加減したものか、と私は考えた。

 ――負ける可能性? そんなの最初から考えてもいない。


 油断しているのではなく、この勝負は結果が見え過ぎているからだ。

 書庫の本を読む前ならともかく読んだ後の今、魔族、それも幼い魔王子相手に恐れることはない。


「オレがチビだからどうせ弱いだろうとか思って舐め腐っている顔をしてるだろうそうだろうッ!」


「勝手に一人で決めつけてキレないでください。もちろんその認識で大きく間違ってはいないのですが」


「ほらやっぱりそうだッ! オレを侮辱したこと、許してなるものかッ!」


 叫び、獣のように私へ襲いかかってくる魔王子メオ。

 彼は全身に漆黒の邪気を纏っている。これが闇魔法というものなのだろう。


 さて、ようやく準備が整った。

 私は全身に光魔法の結界を展開。静かにその場に立ったまま、一歩として動かず彼を受け止めた。

 もっとも、私の結界に弾かれた魔王子は大きくのけぞり、地面に倒れ伏していたが。


「あがっ……がっ」


「あらあら、もうお疲れですか。私はこの通り、まだ何の攻撃も受けていないのですが。私が土下座すれば許してやる、でしたっけ? ――ずいぶんと自信がおありだったようで」


「オマエは、光魔法使いだったのか……ッ!」


「今では城中の噂ですが、魔王子殿下はご存知なかったのですね。なんでも、光魔法は魔族にとって唯一にして最大の天敵なのだとか?

 こんな人間の女一人に勝てない魔王子殿下……おいたわしや」


 私は彼を揶揄った。

 出会って早々に散々罵られ、喧嘩を売られたのだ。これくらいはしてもいいだろう。

 少し大人気ない気もするが私とて所詮はまだ小娘。多めに見てほしいものである。


 それにこの魔王子、なかなかに可愛いのだ。

 魔王陛下とよく似た美貌でありながら、その口元は小悪魔的。そして全体的に少しふっくらとして愛らしい。


 別に私は幼児愛者ショタコンではないが、少しいじめて可愛がりたくなってしまう。


「オマエなどにオレが負けるなど、あってたまるか。今のはまぐれだ」


「なら遠慮なくどうぞ」


 ショタ魔王子が顔を真っ赤にし、私を殴ろうとする。

 が、結果は先ほどと同じ。結界に弾き返されて逆に自分が転んで臀部を強打し、呻いた。


「ずるいぞ! その結界を解いて正々堂々勝負しろッ!」


「それはお断りします。……というか、そもそもなぜ勝負しなきゃいけないんだって話ですし。あ、もしかしてあの書庫、あなた専用だったりしました?」


「当たり前だッ。あの書庫を管理するのがオレの役目の一つでもあるんだからな!」


「ならそもそも侵入者を許してはならないのでは? それとももしかして、私が怖くて出てこられませんでした?」


 私がそういうや否や、ショタ魔王子から表情が消えた。図星だったのだろう。

 そして生まれる闇魔法の特大の塊。それを見て私は思った。


 ――少し調子に乗り過ぎたかも。


 次の瞬間、咄嗟に強化した結界で防御していた私と闇魔法を放った本人である魔王子の二人だけを残し、漆黒に呑まれた部屋が爆音を立てて崩壊していった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「勝負は引き分けだからな。絶対の絶対にオレはオマエに負けてなどないぞ!」


「はいはい、わかりました。……それにしても困りましたね」


 跡形もない魔王子の部屋を見やり、私はため息を吐く。

 幸いなことに書庫は無事だったのでそちらに移っている。羽目板が嵌められていた書庫の壁はぽっかりと空洞になっており、その先には暗黒が広がっていた。

 階数は違えど今の音はさすがに使い魔や魔王陛下に届いたはずだ。


 さすがにお咎めなしではないだろう。さて、どうしたものか。

 悩んでいるうちに、外から足音が聞こえてきてしまった。

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