10:光魔法持ちな私は魔族にとって天敵らしいです

 魔王城は広い。

 一ヶ月歩き回ったが、まだ行けていない場所がたくさんあるだろう。それくらい広大なのだ。


 魔王城内を散歩していたある日、私はとある閉ざされた部屋を見つけた。

 他の部屋は鍵もついておらず開けっぱなしだと言うのに、そこだけ厳重に鉄格子さえ嵌められている。


「――何でしょう、ここ」


 私は首を傾げずにはいられなかった。


 あまり詮索するのは良くないということはわかっている。

 この光魔法での結界も万全とは言えない。もしも光魔法をも圧倒する力をぶつけられれば、破れるかも知れないからだ。


 しかしそれでもその部屋はあまりに興味をそそられた。

 そっと鉄格子が嵌まった扉に顔を寄せる。


 中からは、長らく嗅いでいなかった匂いがした。


「本……?」


 しばらく帰っておらず、そしてこの先もおそらく戻ることはないだろう生家を思い出す。

 自室の書棚には他の令嬢たちとの話題のための恋愛小説がぎっしり詰め込まれ、常にこの匂いがしていた。小説の内容はともかく、本の香りはとても好きだった。


 てっきり魔国には本がないのかと思っていたので驚きだ。

 どんな本が隠されているのか無性に知りたくなって、私は両手に光魔法を灯した。


「鉄格子かと思いましたが、どうやら魔国特有の金属でできたもののようですね……。それなら」


 言いながら、私はそっと静かに扉に触れる。

 すると、一瞬にして金属がキラキラと光りながらドロリと溶けていった。


 魔国の金属にはほんの少し邪悪な気配が混じっていた。

 そもそも魔国の空気自体に不穏な何かが含まれているので、その影響だろう。

 それなら浄化の光で清められるのではと考えたわけだが、まさかここまで効果覿面だとは思わなかった。


 これで私を阻む物はなくなった。

 ぐるりと見渡し、周囲にサキュバスや魔物、使い魔がいないことを確認。それから足音を忍ばせて書庫に入っていった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 書庫はとても広く、見たこともない背表紙の本が並べられていた。

 幸いなことに文字は私の祖国と同じものらしく、全て読める。入り口側から順に気になったタイトルの本を手に取った。


『魔族の歴史』

『魔国に生息する魔物一覧』

『魔法辞典』


 あまりに分厚い本だったのでパラパラとめくっただけだが、それでもかなりの情報を得られた。


 魔族の歴史が人より古いこと。

 魔物たちの名前、それぞれの習性。

 そして私の光魔法が、魔族にとっては害でしかないということなどだ。


 魔族が得意とするのは闇魔法であり、その身に闇魔法を纏い、防御している。

 ちょうど私にとっての結界のようなものだ。

 他のどんな魔法や攻撃も受け付けない闇魔法の唯一の弱点は光魔法。光魔法と闇魔法が触れれば前者が圧倒的に勝り、後者はかき消されることになるらしい。


 そういえば使い魔は私が光魔法を使い出した途端態度を変えていたし、魔王陛下は私がぶつかると吹っ飛ばされていた。

 魔族にとって光魔法持ちの私は天敵。それなら……。


「しばらくは安泰みたいです」


 今のところ力づくで排除されるようなことはなさそうだし、魔族に食われたり殺される心配も要らないということだろう。


 安心し切った私は小さく息を吐き、それからしばらく書庫で一人、魔国関連の本に読み耽っていた。

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