金曜ドラえもんからクレヨンしんちゃんの流れは最高だった

桃波灯火

金曜ドラえもんからクレヨンしんちゃんの流れは最高だった

「ただいま~」

 家の扉を開けるのすら億劫だ。足は棒切れのように弱弱しい。しっかりと地を踏みしめられているか怪しく、ふらふらとした足取りで家にまで帰ってきた僕は、なんとか階段を上がり自室に到達した。


 ここにくるまでに母親の「お遣い行ってきてくれない?」の声を無視しているので、おそらく後で大目玉をくらうだろう。もしかしたら夕飯のおかずが一品減ってしまうかもしれない。


 だが後悔はしていない。今日はもう一歩も動きたくないのだ。


 背中から滑らすようにカバンを床に落とすと、ドカッと中々にいい音が鳴った。カバンの中身は大量のテキストとファイル。重すぎて帰宅中、土嚢を背負っている気分だった。


 一階にいる母親が驚いてしまったかもしれない。しかし、今日のところは許してほしい。


 汗を吸った制服をむしる様に脱ぐと、ハンガーにかけるのをサボってそのまま椅子に掛ける。このまま明日まで放置してしまえばシワになるのが確定する。


 制服よ、少しの間だけ我慢していてほしい。ファブリーズだって吹きかけてあげるから。


「もう無理だ、マジで、ホント」

 それだけを呟くと、気絶するようにベットに倒れ込む。ぼふっと顔を枕に沈め、両手足を弛緩させた。


 低反発の枕がいい感じに僕を受け止めてくれる。高めで充分にスプリングが入ったマットは、包み込むようにして僕の体を沈めさせてくれた。


 枕に顔をうずめたまま、どこかにあるエアコンのリモコンを探す。手足をバタバタさせ、まるでひっくり返ったダンゴムシのようだ。


 あれ、めっちゃ気持ち悪いよな……。バタバタってよりもワサワサの方が近いかもしれない。あの細かくて素早い動きをみると、無性に不安にさせられてしまう。


 というか、ひっくり返っても丸まらずにワサワサするのはワラジムシの方かもしれない。


 あれマジで昔、カンブリア紀みたいな時にいた生き物みたいで気持ち悪いよな……。


 あらぬ方向に思考が飛び始めていたタイミングで、右の足先が何やら硬い感触を察知。おそらく探していたリモコンだろう。右半身を天井に向けて余裕を作り、右足の甲でリモコンを引き寄せる。そしてエアコンを起動した。


 涼しい……。


 エアコンからの冷風が背中にダイレクトで降りかかる。汗が引いていく感覚の気持ちがいいことこのうえない。へとへとで疲れた体と思考がクリアになっていく感じがする。



 しばらくして部屋も冷え、少し復活してきたので上体を起こす。そしてベットに上にあった小型の人をダメにするソファに背中を預けた。


「うわ、課題かよぉ」

 Twitterを起動して絵師さんのツイートを確認しているさなか、スマホの上側にリマインドメッセージが届いた。そのメッセージは学校からの通知。


 僕が通っている学校は、お知らせやアンケートなど、様々な機能が搭載された学生システムアプリを採用しているのだ。


 今回の通知は課題のお知らせ。今はインターネット上で課題が配信され、インターネット上で行った上に提出もできてしまう。小学校に通っていたころはまだそんな様子はまったくなく、学生ながらに時の流れを感じる要因になっている。

 

 今の小学生たちは、「宿題はやったんですけど家に忘れました!」的な言い訳もできないのかもしれない。


 便利な世の中にはなったけど、便利すぎなのも考え物だな。


 あと時の流れを感じる要因として、公園のことも思い出す。


 僕が小学生のころは学校帰り、近所の公園で遊ぶことがほとんどだった。ブランコにいつまでも乗っていたり、公園を走り回って鬼ごっこをしたり、あとはDSを持ち寄ってポケモン対戦をしたこともあった。


 しかし、学年があがるにつれて、公園で遊ぶ頻度は減っていく。放課後は勉強だったり、部活があったりするようになったのだ。単純に時間がなくなった。そのころには、休日にはイオンに行ったりするようになる。なおさら公園にはいかない。


 そして今の子たちはもっと早く公園を卒業する。今はWi-Fiの発達によって、通信対戦をすることが遊びの中心になっているようだ。ポケモン、FPSゲームなど種類は様々である。


 すごい時代になったものだと思った。


 また、最近、昔よく遊んでいた公園の前を通りかかったときには驚いた。敷地が草でおおわれていたのだ。小学生だったら腰の高さ以上はある草たちが生い茂っていた。


 おそらく、子供たちが遊ばなくなったことで土が踏まれなくなったのだろう。子供が減った小学校の校庭も同じ原因で端から草が生えていく。


 寂しいような、悲しいような。そして今の小学生たちに対してお節介なような。


 ここ数年で本当に時の流れを感じるようになった。まだ学生なのにも関わらずだ。


 公園、インターネット、知っている有名人の訃報。


 そしてさらに、時の流れを感じる事象は増えていくのだろう。人はそうやって大人になっていくのだろう。


 今と過去を比べたりせず、その時々を全力で楽しめていたあの頃が懐かしい。昔は時の流れだって遅かった。今なんてちょっと疲れてしまえば昼寝をし、起きれば時間を無駄にしたと後悔をしてしまう。


 疲れを知らず遊び歩き、帰れば飯をたらふく食べ、ゴールデンタイムのバラエティやアニメを見る毎日。


 水曜のダンボール戦記からイナズマイレブン。金曜のドラえもんからクレヨンしんちゃんの流れは最高だった。今やゴールデンタイムのアニメ放送は消えてしまい、声優だって変わってきている。


 時代は流れ、ルールや常識は変わっていく。なつかしさで身を保ち、変化に順応するのは簡単ではない。今はまだギリギリできているのかもしれない。しかし、いつ追いつけなくなるのかはわからない。


 その時に、その時の自分を受け入れられるのか、僕にはまだその自信が足りていないように思えるのだ。

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