幸福

「校門まで一緒に行く?」

恥じらいながらも彼女が言ったその言葉にはどこかに「愛」を感じた。

「いいよ。」

頑張って喋ってくれた彼女の声にはしっかりと返信してあげるしか無かった。

校門まで歩いている途中、話はあまり弾まなかった。二人とも考え事をしていたのだろう。

あまり今まで感じたことはなかったが身長差がかなりあることに今気づいた。なんで今なのか自分でもわからないが、これが恋心というものなのだろう。

少しでも会話を弾ませようとなんとか頑張って話題を作り出した。

「えっと、綺麗だね。」

「え?」

「いや、桜が‥‥‥」

「‥‥‥。」

いきなり俺の服の袖を掴み何をするかと思うと、

「意地悪。」

と小声で呟いた。

「ごめんごめん。」

口から出たその言葉だが口調はあまりにも軽く、まるで謝ってるような気ではなかった。




一瞬褒められたかと思ったじゃん。心音が他人にも聞こえそうなぐらい大きく、速くなっていた。

というか、あの二人、今何してるんだろう。私達みたいに一緒に登校してるのかな。それとも学校で会う予定なのかな。

体育館裏で告白する時、すごい緊張しててまるで今の私達と同じ感じだったんだろうな。

そんなことを考えているうちにまた体が火照ってしまった。

やっぱり私には恋愛なんて刺激の強いこと、無理だったんだろうな。

「なんというか、昔からずっとああいう感じだったよな。」

「え?」

「塾で一緒になった時もさ、勉強だけ頑張って。塾でモテてたやつにも見向きもしてなかったし。」

「あ、あったね。そんなこと。」

「なんというか、当時のお前が今のお前を見たらどんな反応をしてるだろうな。」

「わからないけど、たぶん自分でも驚いてるかも。」

「だろうな。だって僕でも信じられないもん。」

「そ。」

そうこう話している間に、いつの間にか校門についてしまっていた。私はなぜか、登校中、この時間がずっと続けばいいのに。と思ってしまっていた。

うちの高校は恋愛禁止というわけでもないし、なんならしてる人のほうが多かっただろう。でも、自分がそんな人の中の一人になれるとは思ってもいなかった。

「ちょっとの間だけ目を閉じてて。」

いきなりすぎる彼の話に一瞬驚いてしまった。

「なんで?」

「別に、でも急いで。」

私は言われたとおりに目を閉じた。唇同士が合わさる感触がする。

私達を風が撫でるように通っていく。こんな幸せな時間がずっと続けばいいのに。こんな短時間でそんなことを二回思う人は世界で見ても私だけだろう。

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