第158話 戦後


 ゼルンバスの王都は賑わっていた。

 30年前、30万人もの死者を出した戦争が作った傷跡は、もはや人の心の中にしか残っていない。コスモ・ポートは連日賑わい、巨大なワームホールを通して人の行き来が多く、輸出入の物流のコンテナもさらに多く行き来している。経済的相互依存は、再び戦争が起きるのを許さない。


 講和のために敵星に赴いた神王は、戻ってきてすぐに殺された。

 当時を知る古老たちは、資料化された映像の中でこう語る。


「王の功績が大きすぎた。

 この惑星の誰もが、王のことを神に準じるものと思っていた。なんせ、神王と呼ばれるほどだったからの。だが、だからこそ他の国の王にとっては、その存在が疎ましいものとなった。

 そして、西の最果ての国コリタスの王が刺客を送り、その刺客が目的を遂げたんだ」


「その時の報復の戦役には、俺も従軍したものだ。

 そのときに渡されたのは、魔素笛ピーシュではなかった。初めて銃というものが渡され、無尽蔵に弾が補給された。慣れない武器だったし、訓練だと言われてさんざん撃たされたものだった。

 魔素笛ピーシュなら撃てば当たるのに、狙う必要があって、使ったあとは清掃が必要となる武器を使わせる理由がわからなかったな」


「あのときは驚いたものだ。

 戴冠式を終えたとはいえ、まだ若かった王が強権を発動しての。

 当時英雄とされていた大将軍フィリベール様でなく、また外交の任にも当たっていない内務省のモイーズ伯様を大将にしたんだ」

「あれは驚いたなぁ。

 しかも、副将の2人が、コリタスの王子とコリタスの副王の娘のロレッタ様だった。

 この陣容で戦争などできるのかと思ったら、すぐにコリタスは降伏となってな。俺の戦争は、訓練で銃を撃っただけで終わりになってしまったな」

 

「今から思えば、神王暗殺は他の王にも謀らないコリタスの王の独断だったんだろうなぁ。

 とはいえ、神王が生きていたらどうなっていたかな?

 コリタス征伐のあと、この惑星は1つの国となった。神王が生きていたら、各王国はまだあったかもしれないな」


「あの頃の方が風情はあった。

 今の王都は四角いビルばかりになってしまって。

 王宮を見下ろすのもどうかという話になって、そうしたら王宮の方が移転してしまった。

 その時の王宮は、今や博物館だ。

 だが、あそこで神王は戦われたんだと聞いている」


「神王は、当時の敵の親玉を説き伏せて、戦いを止めさせたそうな」

「いや、むこうさんも、戦争どころじゃなくなったというのもあったらしい。

 こっちでは物流に使っているワームホールだが、むこうではそこから怪獣が現れたと聞いたぞ」

「馬鹿を言うな。

 ワームホールから怪獣など、現れてたまるか。

 私は当時の資料を徹底的に調べたことがある。

 ワームホールから現れたのは、太古の生物だ。ワームホールの設定を誤り、過去に繋がってしまったらしいんだ」

「まぁ、過去に繋がるなら、未来にも繋がるかもだな。未来と戦争しても勝てないだろうし、防衛の意味も変わる。

 戦争自体が変わったんだよ。

 まあ、どちらにしてもこの手の話は、わしらに真実が知らされることはないのさ」


「今の方がいいですよ。

 夏に氷が食べ放題ですからね。冷房も効いていますし。

 昔は、氷室か、魔術師に氷を作ってもらうことはできましたけれど、それだけだったんですよ。今の若い人には耐えられない生活でしょうねぇ」


「30年の間に、機械が魔法を使うようになるとは思いませんでしたよ。

 治癒魔法ヒーリングなんて、昔は村に1人の治癒魔法ヒーリングだけ使えたおばばさまが頼りだったのに、今じゃ使い放題で二日酔いですら治癒魔法ヒーリングですからね」


「敵としていた国の年寄り連中が来て、商売を始めたときは驚いたなぁ。

 連中が売るのは、こっちの職人が作るものより良いもので、またまた驚いたよ」

「あれで、こっちの職人の腕も上がったよな。

 今じゃ、歪んだものを売っている店なんかありゃしない」


「なんで店を開くのだったら移住を許可したのか、10年くらいの間にわかるようになりました。

 来たのが年寄りでしたからね、尊大だったりして性格に難がある人は客が行かなくなって、店を畳んで国に帰っていくしかないんですよ。だから、今いる人は良い人ばかり」

「そう言えば、幼馴染と結婚したというデュースヴァイク人がお茶屋を開いて、繁盛していたなぁ」

「例外で学院の先生になった人もいた。たしか、今の学長だよ」

「それどころか、今食べている菓子も、デュースヴァイク人の菓子屋のだぞ」

「まぁ、彼らが来たこともあって、総じて生活は豊かになったよ」


「あの攻めてきた敵の星、魔法を真似しようといろいろやってみたらしいけど、うまく行かなかったらしい。

 まぁ、魔素がなきゃ、魔法が使えるわけないよね」

「俺は、神王が肝心なところをうまく隠し通したと聞いたぞ。

 それもあるんじゃないか。

 だって、神王だぞ」

「いいや、敵の科学技術の中では、魔素はエネルギー効率が悪すぎて、使い物にならないとも聞いたぞ。

 なんにせよ、戦争は終わったんだし、かつての敵は今の友、必死で隠すってのももうないと思うんだけどな」


「神王が暗殺されて、その時の各省庁の長がみんな辞めて、完全に新王体制になった。

 なんか、悲しかったな」

「新しい時代が来るって気もしたけどな」

「大将軍だけが博物館の館長やっているらしいぜ。他に旧王宮のことを知り尽くしている人はいないんだとさ」


 ゼルンバスの王亡きあと、総じてこの惑星の皆々は平和を享受し、科学と魔法を組み合わせてより豊かな生活を送っていた。

 今はもう、強いて過去を振り返る必要もない。

 冒険したければ、宇宙はどこまでも行ける自由に満ち満ちていた。



あとがき

 次話で完結かも……

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