第157話 次は総統が一本


「まぁ、いい。

 ゼルンバスの王よ。まことにおもしろき話であった。

 だが、念のために1つ聞いておきたい。

 今での話、我らの和平と融和が基礎にある話であったかと思う。

 だが、とことん戦い、滅ぼしあっても良かろう。この機会に乗り込んできたのは、実は貴惑星はもう余力がなく戦えないということではないのか?」

「そのようなことはない。

 だが、互いに余力を失ってからの和平は、無条件降伏となりかねぬではないか。それに失われた人命は戻らぬ」

 総統は、答えるゼルンバスの王の目から視線を外さない。

 ゼルンバスの王も、平然とその視線を受け止めている。


「ダコール君。

 君の今回の作戦は、私も見させてもらった。かなり王国の力を削ったのではないかと私は思う。勝利の寸前での捕虜解放交渉に見えた。

 ダコール君の印象としてはどうかな?」

 そうダコールに話しかけるも、総統の視線はゼルンバスの王の目から外されはしない。


 総統としては、ゼルンバスの王が萎縮せぬうちに泳がせ、意見を言わせたのだ。

 次は立場をわからせ、その上でもう一度同じ問いを投げかけるつもりでいる。同じことが言えるかどうか、見物であるとすら考えている。


「迎撃の波から見て、おそらく砲100門に相当する武器があるのでしょう。

 それを各砲70発ほども撃たせたところから、反撃が散発的になりました。おそらく節約が始まったのでしょう。となると、各砲の発射想定は100発ずつ。

 王がここにきたあとからも、改良と増派は続いているでしょうから、次回の防衛力は10倍と見積もり。アウトレンジからの10万の飽和攻撃をかければ、ゼルンバスは確実に滅びます。ただ、囮を使うのは前回やってしまいましたから、次回は実体攻撃でコストは掛かります。まぁ、所詮は全艦全砲門で100ずつも撃てばいいだけなので、たいしたことはありません。補給艦の随行隻数を倍にすればいいだけなのですが……。

 どちらにしても、こちらに出てくる技術力は無し。

 底は見えております。一兵たりとも失うことなく、勝利いたしましょう」

 ダコールの言葉を聞く間も、総統は視線を外さない。


「なるほど。

 飽くなき征服欲が本性だというわけか?」

「純軍事力の裏付けなくば、なにを語っても言葉は宙に浮く。

 人道など持ち出してこちらを責めるなど、筋違いも甚だしいぞ」

 一転して総統の態度は尊大なものとなった。

 縋る袖、裾すら見せない。


「人道など持ち出さぬよ。

 だが、それでも1つだけ聞いておきたい。

 艦隊に同乗し、ここまで来た。そして、1艦あたりの乗組員数と総艦数で万に近い人数が乗っていると観た。

 それだけの人員がほぼ失われるというのを、貴国は我が惑星に対し2度は経験しているはず。

 貴国の人命のコストとはどれほどのものか?

 教育にも、それなりのコストを掛けているように見受けられる。そう安いものとは思えぬのだが……。

 コストの削り合いが戦いであれば、そこを見誤っては交渉にならず」

 ゼルンバスの王の問いを、総統は完全に黙殺した。


「ダコール。

 一兵たりとも失わず勝利というのは間違いないことだな?」

「は、確実に」

「よし。

 再出撃準備。

 王は人質としてここに留め置く」

「余に人質としての価値はない。

 すでにゼルンバスでは次期王が戴冠しておる。

 そして、いよいよ奥の手を出す。余が同行しない艦隊が来襲すれば、殲滅する手はずとなっている。もう何回かは殲滅してみせようぞ」

 王の言葉に、総統はようやく言葉を返した。


「ブラフは通じんぞ」

「脅しではない。

 我々とて、貴国の言う亜空間回廊を作れぬ訳ではない。

 その証を見せようではないか。

 この建物の高さは相当なものだ。ここから我が宿舎の屋根が見えるか?」

 その言葉に、バンレートと秘書官が立ち上がる。


 肉眼で見るのには限界があるが、それでも軍艦乗りのバンレートの視力は高い。宿泊先の屋根の上に、1頭の翼竜ワイバーンを見つけるのはそう大変なことではなかった。


 バンレートの背中が硬直するのを見た王は言う。

「我が精鋭、飛竜旅団全戦力をもって、この総統府のある街に殴り込みをかける。我が国の魔法力の真髄、いよいよ見せよう。半日でこの街すべてを廃墟にしてくれる」

「ど、どうやって……」

「余はここにいる。

 この地にアンカーがある限り、召喚・派遣は不可能ではない」

「……そうか」

 ダコールの声がうめきに変わった。


「帰還時に、中継衛星のメンテをしながら戻った。その際に、そこのマリエット氏が見学を申し出られたな。

 そのときに……」

「そうよ。

 マリエットを美しき女というだけではないぞ。

 たしかに、1回しか使えぬ手ではあろう。だが、所詮は敵わぬ身であれば、この星の各役所の書式も掴んでいることであるし、偽文書で混乱させた上でこの首都を傷物にしてやろう。

 我が飛竜旅団の魔素笛ピーシュの威力、剣の斬れ味、存分に味わうがいいぞ」

 王も立ち上がり、そう宣言した。


 それに対し、総統も立ち上がった。

「ゼルンバスの王よ。

 まことに見事。

 貴国は我がデュースヴァイクが対等の同盟を結ぶに相応しい相手。

 貴惑星の技術の根本、ようやく明かされたな。魔術と呼ばれるそれがどのようなものか、差し支えぬ範囲で話されたい。こちらがその威力を理解できるように、た。

 そして、今まで話したことを深め、文書調印したい。

 その上でだが、言われるまでもなく、当然のこととして中継衛星の交換は行わない。だが、この首都で人血が流れるようなことがあれば、貴惑星の太陽に向けて超重力弾を撃ち込む。恒星系ごと皆殺しよ」

「……あい、わかった」

 王は、そう総統の提案を受け入れた。



 口先だけでは、総統との交渉は終わらない。

 そのゼルンバスの王の読みは当たっていた。宇宙に覇を唱えようという人物に存在価値を認めさせるためには、どうやっても利で釣るだけでは無理がある。

 ゆえに、こつこつと今日の日のために種を蒔いてきたのである。

 だが、総統の口から「文書調印」という言葉が出た。

 これでようやく腹の探り合いから、実務交渉に移ることとなる。代償は大きかった。ついに、隠し続けてきた魔術が露見してしまった。



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あとがき

力なき言葉は無力……

軍事大国ですからね、まあ……

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