第155話 まずは王が一本
「我らは共に統治者として、民の生き延びること、生き延びさせることに責任を持つと。
なるほど、ここでその問いを無下にすることもできようが、同じ道を我が星も歩む可能性は大か……。
ならば、案がいくつかあろう。
1つ目は、このままこのいくさを終わらせないことだ。余と総統だけが黒幕となり、延々といくさを続ける。だが、これはこちらは良くともそちらは難しかろう?」
ゼルンバスの王の問いに、総統は頷いた。
理由は簡単である。
王は世襲である。革命でも起きぬ限り、この密約を代々受け継ぐことに問題はない。だが、総統はいかに強大な権力をその手に握っていたとしても、世襲できるかはわからない。むしろ、できないと思っていた方が良い。
こうなると、密約を受け継ぐことができなくなってしまう。それだけではない。単なる政変で総統という地位の基盤が弱くなっただけでも、密約を果たすことはできなくなってしまうのだ。
なんにしても、「平和」という旗印は強い。継戦とは言うは易く行うは難し、なのだ。
「2つ目は、外に敵を作ることよ」
「それはもう、行ってい……」
「違う。
宇宙の他の星に、ではない。
決して勝てぬ相手を探すのよ。
総統。今回、余は貴国との取引材料を持てる限り持ってきた。このような話になるとは思っていなかったのでな。
ここにいるダコール司令は身をもって知っているが、我が国の技術体系は貴国とは大きく異なる。
例えば金だ。
我が惑星では、無制限に金を生むことができる。貴国から鉄を輸入し、金にして輸出できるのだ。
……疑っておるな?」
王が聞くまでもない。総統の顔にはあからさまな疑念がある。
「この星に持ち込みし金は、すでにこのマリエットがこの星の貴金属商に鑑定させた上で買い取りをさせている。
この星の公的資格を持つ鑑定士が何人寄ってたかっても、間違いなく金と鑑定したぞ」
それを聞いた総統の顔色が変わった。
「秘書官。
今の話は事実か?」
「マリエット氏が1kgほど金を売り、さまざまなものを買ったのは確認しております。
金は金という元素ゆえ、回収しての厳密な分析はしておりませんが、他惑星から来た客人の持ち込んだ金を、いい加減な鑑定で買い取る貴金属商はおりません」
秘書官の返事に、総統は苛立ちを隠そうともしない。
だが、ゼルンバスの王はそれに気が付かない振りをした。
「やはり、監視は付いていたではないか」
そう言って、ゼルンバスの王とマリエットは笑った。見せるための行動である。
「本当に。
気をつけていたのに、まったく見分けられませんでした」
「さすがにこの国の者は、尾行が巧みよのう。
マリエットは、後をつける者がいないのを心底不思議がっておったのだが……。
ひょっとして、護衛すらも付かなかったのか?
あまりに無用心だの」
「監視カメラが街中にありますので、わざわざ付きまとわずとも護衛はできますが……」
あまりにあっけらかんと語る王に、秘書官がつい返事をしてしまう。
「ああ、なるほど。
そうであった。貴国はそういう手が取れるのでしたな」
秘書官の言葉に、王は再び笑って答える。
だが、これ自体も見せるための行動だ。
ゼルンバスで回収した偵察衛星にもカメラはついていた。当然、そのことを王は忘れてはいない。
つまり、これは抜けているように見せかけ、相手の毒気を抜く手である。王にとっては、魔素によって作られた金が、この国の技術をもってしても差異を認められないのかという確認は必須だったのだ。
当然、この実験ともいえる確認を、王は毛ほども悪いとは思っていない。だが、経済を直撃するこの行為を総統が不快に感じるのも当然である。
「秘書官、その金をすぐに買い取り、然るべき機関で精密分析させろ」
総統は王の言葉に構わず、命令を下した。
金の流通量の増減は、経済に与える影響があまりに大きい。1kgが1,000kgだったら、金相場は暴落する。10,000kgだったらもはや取り返しがつかない。総統がなりふり構っていられなくなるのも当然である。
「総統、それは我らの目の前で、我らが信用できないと公言するような行動ではないか。
逆に聞こう。
間違いなく金であったら、我らの技、信用するのだな?」
「その前に、我が国を実験台にしたことを詫びるのが先ではないのか?」
陰にこもって言う総統に、王は笑って答える。
「間違いなく金よ。
疑われる謂れはない。
己が金と信じるものを、鑑定を相手任せで売ったのだ。これが悪いと言うならば、商いなど成り立たぬ」
「ええい、鉄を金にするなど、どうやってもできることではない!」
ついに総統は、強く言い放った。
「ダコール、君は金があると報告してきたが、その供給については確認しなかったのか?」
「占領していない敵の惑星ゆえ……」
そう答えるダコールも、顔色が変わっている。
「総統よ。
では詫びようではないか。
申し訳なかった。
だが、存分に調べるが良い。ゼルンバスの産する金が真正のものとなったときに、互いの信頼感は高まろう」
「私を愚弄しようとするのか?」
「今話しているのは、そのようなことではあるまい。
民を生き延びさせることであったはず」
弄ぶ気満々だったことをおくびにも出さず、王は言ってのける。
「では、その2つ目の案を言うがいい」
「金を生むのは、貴国の言葉でいえば、別の空間の力を借りる技よ」
「……ワープ回廊のことか?」
「さらにその外、かの。
どうも、そこになにかの意志を持った者がいるとしか思えぬ。
外からこの空間にちょっかいを掛けてくるが、どうにもこちらからは手の打ちようがない」
ついに藪から蛇が出てきた。総統はそんな気がしている。
「ダコール、王が話しているのは、
「はい。
そうだと思います。ヴィース大学のライムンド教授が語っておられました!」
ダコールの返事に、総統は喉の奥で唸った。
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あとがき
124話ですねw
伏線回収ww
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