第126話 ライムンド教授の仮説
ライムンド教授は続ける。
「生と死の境界は曖昧でな、そこに明確な相変化はないらしいんだ。私は本業が生物学ではないから、大きな顔では言えないんだけれどな。
ただ、人と重なる形の特定の素粒子なり
生命の恒常性の源と言えるのではないか?」
「……なるほど」
ダコールは相槌を打つが、どこまでライムンド教授の話についていけるのだろうかと、不安を覚え始めていた。
「次に、報告書に画像がある、敵の銃のようなものだが……。
ほら、翼のある獣に兵士が乗っているヤツだが……」
「はい。
ただ、これが使用されている姿は未だ観察されていません」
そうダコールが答えると、ライムンド教授は我が意を得たりと頷いてみせた。
「そこだよ、そこなんだよ。
敵は、これの使用を控え、我々にその用途を隠している。だが、これもその特定の素粒子なり
生命が見え、生死が見え、医者が不要ということは、同じシステムで人を殺すこともできるということにならないか?
だって、彼らは明確に兵士で、剣とこの銃を持っているのだろう?
だからこそ、こちらがドローンで観察しているのを察知して以来、使うのを止めたんだ」
「……」
言葉は発さないものの、ダコールの顔は失意に歪んでいた。
なぜ自力でそこに思い至らなかったのか、自らをいくら叱咤してもし足りない気持ちなのだ。
報告書を一読しただけの、しかも軍人でないライムンド教授に、考察で遠く及ばない。
打ちのめされたような気持ちになったダコールに、ライムンド教授は追い打ちを掛けた。
「そして、この銃のようなもの、私にはこの先に付いている部分が、純金に見える」
「はい」
ダコールはそう答えたが、まさか本当に金とは思っていなかった。せいぜい、二硫化鉄ではないかと思っていたのだ。
二硫化鉄は黄鉄鉱の形で産出し、愚者の黄金と呼ばれるほど金に酷似している。そしてリチウムと組み合わせることでバッテリーになる。
武器としても、電気的ななにかかもというところで、ダコールの思考は止まってしまっていた。
残念なことではあるが、化学者ではないのだから仕方がない。また、敵が1度も使わなかったことから、解明の優先順位が下がったことも否めない。
そんなダコールに、ライムンド教授は大胆な思考のパラダイムの変更を強いてきたのだ。
「ビッグバンで宇宙ができたのち、さまざまな元素が恒星内の核融合によって作られていった。そしてそれは、超新星爆発で拡散される。
そして、我々のような炭素系生物は、さまざまな元素がなければ身体を維持できない。鉄や亜鉛、マンガンや銅もなければ、な。
つまり、生命が生まれて維持されるためには、ビッグバン後、恒星の寿命が尽きて超新星爆発を起こすまでの宇宙の年齢が必要なんだよ。
そういう意味において、金があるというのは、重要なことだ。
金があるということは、生命維持に必要な元素が揃ったということが言えるからね」
「おおっ!」
ダコールの口から感嘆の声が漏れる。
「ここで、前に私が話したことを思い出して欲しい。
その特定の素粒子なり
「……あ」
ついにダコールの口は、半開き状態になった。
時代遅れの金縁眼鏡に白髪、痩せこけた身体のライムンド教授に、ダコールは圧倒されていた。
「恒星にはさまざまなタイプが存在する。
もしかしたら、内部の核に中性子星のかけらを取り込み、その特定の素粒子なり
となれば、その星系は生命物質に満ち、
なんらかの形でその特定の素粒子なり
「……」
ダコールは、相槌を打つことすら忘れてしまっている。
「たぶん、我々の太陽でも、この
だから我々はそれを誰もが感じ取れるように進化しなかったし、いわゆるオカルト現象も、最初の数回しか観察されないんだ」
「ビギナーズ・ラックの件ですね」
「ああ」
こともなげに、ライムンド教授は頷き、さらに話を続ける。
「敵が旗艦にこの図形を描いたということは、敵の恒星系内であれば密度が低くとも存在する
いや、自分は十分に驚いているとダコールは思う。
「ダコール君、君の後釜が酷い目にあったのもこの図形のせいだろうな。
艦内の行動、旗艦としての意思決定、すべて敵に筒抜けだったんだ。
で、さらにもう1つ、君も艦に敵の侵入を許している。だがその時に、この図形は描かれていなかった。
その差は……」
「月軌道の内側に入らねば、敵の
しかし、この図形があることで、月軌道の外側まで敵はその手を伸ばした……」
「そういうことだ」
ライムンド教授は大きく頷く。
「おそらくは、恒星から放射される
おそらく
だから、月によって
「なるほど」
機械仕掛けの頷き人形のようになりながら、ダコールは相槌を打った。
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あとがき
圧倒されてます、方面軍総司令ww
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