第100話 読みあい、化かしあい
砲撃はミサイルと違い、撃ったあとの手加減ができない。
砲弾を撃っていた
そして、いくら対惑星地表用弱装弾を使用するにせよ、おそらくは前回の攻撃ですでに失敗したとおり、ある程度の飽和攻撃でないと防がれて終わりである。だが、この飽和攻撃を下手に行うと、砲撃が撃ちっぱなしの兵器である以上、敵が迎撃を失敗した場合、同時に1000もの着弾も想定される。
例えば、今回の敵は、ミサイルを岩をぶつけることで防いでいる。
だが、砲撃は小さな岩ごときでは防げない。硬目標に分類される戦艦の装甲でもなければ、衛星レベルの巨大な岩が必要となるのだ。
敵がミサイルを防げた成功体験から、砲撃に対しても同等の手段を採ったとしたら、こちらが対惑星地表用弱装弾を使用していてすら、惑星という資源自体が破壊されてしまいかねない。
1つとして砲撃が防げないのだから、当然のことである。
そうなれば攻撃が成功しても、こちらとしては単に無駄なエネルギー使ったに過ぎない結果となってしまう。そうなれば、作戦を立てたダコールの責任が問われることになる。
ダコールは、文字どおりの資源保護として、敵惑星のことを極限まで思いやった作戦立案を求められているのである。
毒ガス兵器は非人道的という非難もあったが、反面、このような条件下では極めて有効でもあった。
特に、今回の敵は「どのような病気でも治せる」と豪語している以上、治す暇も与えずに済む即死性強毒ガスは必須と言っていい。
なんといっても、敵惑星自体にはなんの被害も及ぼさないのだから、兵器選択システムが候補のトップに持ってくるのは当然である。
もっとも、それを有効に使うためには、ダコールの立案したような手立てが必要となる。どんな兵器も、駆け引き抜きの馬鹿正直に敵にぶつけて、効果が上がるはずがないのだ。
「弾頭、敵惑星の大気圏内に入りました」
「いよいよ、大詰めだな」
オペレータ士官の報告に、バンレートが呟く。
ダコールはそれに気が付かない風で、次の命令を下していた。
「宙対地ミサイル、第3波発射用意」
「宙対地ミサイル、第3波発射用意」
「宙対地ミサイル、第3波発射用意」
復唱がされる中で、ダコールは自らの判断に誤りがなかったか、懸命に思い返していた。
他の者が「大詰めだ」と思う段階で、どれほど念には念を入れたと思っていても、不安は去らなかったのだ。
「シアピクロール・ガス、放出始まりました」
「各版図上空のドローンからの映像、出せ」
「了解」
ダコールの命令で、メインスクリーンが明るくなった。
偵察衛星の画像は、敵による加工の痕跡があり信用できない。だが、送り込んだばかりのドローンであれば、信頼性も高く、より低空からの撮影なので詳細な観察が可能だろう。
メインスクリーンが分割表示となり、各版図上空のドローンからの映像が映し出された。「風向西北西、風力2、気温24℃」等、気象条件が分割画面のそれぞれの下面に流れる。上空からのセンサー計測であり、地表のダイレクトのデータではないが、ガスの拡散条件を掴むには程々に有効である。
あまり気分の良い観察ではないが、攻撃の有効性の確認をせねば次の段階には進めない。
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「敵の火箭、ことごとく打ち落とされました」
クロヴィスの声に、玉座の間がどよめいた。
100もの攻撃に余裕を持って対応できたのだから、当然である。
今回の天からの敵が来て以来、魔術の技術向上は著しい。30日前なら、誰も想像しえないレベルに高まっている。
月軌道周辺の魔素の流れの詳細な観察など、行う方法すらなかったのだ。
今回の経験で、敵の火箭が200までであれば短時間で対処できると、今回の魔法を司ったフォスティーヌは思っている。
なんといっても、魔素を貯めたキャップはまだまだあるのだ。
だが、王だけは喜びの感情を見せていない。
「今の間に詳しく聞かせい。
特にその敵の火箭の仕組みを、余に話せ」
「かしこまりました」
応えたのはアベルである。
「私の見たところ、それは人が縦に2人がすっぽり収まる筒でございます。
火箭の頭は完全に空洞でした。人が1人入れるほどでございます。
対して、火箭の尻は土くれのような燃料が積まれており、それが激しく燃焼し、その炎を噴き出させる漏斗が最後尾にはついておりました。
その漏斗は、炎を噴き出す向きを変えることができるようで、その制御のための複雑に絡み合った銅や
「空洞とはどういうことだ?」
玉座の間にいる者たち、王以外も皆その疑問を持った。
「わかりませぬ。
本来なら、ここにより威力を高めるための物を積むのが常道とは思うのですが……」
アベルが迷いながら答えるのに、大将軍フィリベールが応じた。
「……我々によって、破壊される前提だったのではないでしょうか?
なら、無駄に資源を失いたくないという気持ちはわかり申す。彼らは、すべてを遠い本星から持ってきている。無駄使いはしますまい」
「……なるほど」
王は呟くと、右手を顎の下にやった。
考えているのである。
「アベル、クロヴィス。
すぐに次の火箭が来よう。その際には、その中身、すぐに知らせい。
落とされるのが前提の矢を放つなど、これはどうも、敵の二段構えの策としか思えぬ。
敵は、我々の中に天眼通の術を使いこなす者がいるのを知らぬはず、ぞ。そこに油断があったとしてもおかしくはない」
「御意」
アベルとクロヴィスが答える。
「フォスティーヌ、次の火箭が撃ち出されたら、その中身の1つだけ召喚できるか?」
「問題なく」
そこで、簡易魔素炉に手を置いた魔術師が口を開いた。
「セビエの王、カリーズの王より申し入れあり。
その中身につき、我々も欲しいとのこと。それぞれに解析を行っていただけるとのこと」
「よきかな!」
ゼルンバスの王は、そう声を張り上げていた。
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あとがき
ジュネーヴ議定書はありません、この世界は……
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