第57話 第一波、攻撃
ゼルンバスの王は、大きく頷いた。
「なるほど。
さすがはセビエの王。
強い力を持つところは熱い、か。見事、言い得たものよ。
フォスティーヌ、なんとしても探し出せ」
「御意」
そう返事を返したフォスティーヌの額は汗に濡れ、前髪がはりついていた。
普段の女神然とした、何事をも超越した雰囲気はすでにない。身体が動く限界まで全力疾走を、何度も繰り返した者の凄惨な表情だ。体内の魔素も残り少ないのだろう。
「セビエの。
お言葉、感謝する。
各国の王よ、同じくなにかあれば教えて欲しい」
ゼルンバスの王の声が響く。
次の瞬間、「ありましたぞ!」という叫び声は、クロヴィスとフォスティーヌの2人で、まったく重なり合っていた。
同時に全天眼通の魔術師の視線が走り、無限ともいえるような熱を出している空洞を確認していた。
どの艦にもある空洞、すなわち対消滅炉がなにかは魔術師たちは理解できていない。それでも、魔素の吸集・反射炉と引き合わせ、同等のものとその位置付けだけは理解していた。
「全ての箱の中心から後ろ寄り辺りに、極高熱の
「敵の速度が落ちたら、即、その
敵の金属の箱、その全てを叩き落とすのだ」
「それが……」
簡易魔素炉に手をおいた魔術師が口ごもりなにか言おうとするのに、次の報告が被さった。
「天の敵が乗っている箱、足を緩めています」
「大将軍フィリベール、言うとおりになったな。
よし、叩き落とせ」
「それが……」
再び、簡易魔素炉に手をおいた魔術師が口を開く。
「どうした?」
「今までの駆け引き、天からの攻撃への防御で、予想以上に魔素を使いました。どうやら、連携の魔術は今までの連携法より魔素を使うようで、各キャップの残存魔素、底を尽きかけております」
玉座の間に、ざわざわとどよめきが走る。
ここへ来て、泥縄で作り上げた術の欠点が出たとしか言いようがない。
この術の中心にいるフォスティーヌでさえ、ごく短時間しか試術に時間を割けなかった。しかも、魔素を節約し存分に使うことなく、だ。天の敵との交戦中に術の欠点が露呈してしまうのも、やむを得ないことだったのかもしれない。
また、フォスティーヌの異常な消耗の原因は、これだったのだろう。彼女は魔法省の長として、優れた術を駆使する。体内の魔素も多い。だから、キャップも使わず連携の術を司ってきたのだが、それが裏目に出た。
魔素の貯まったキャップも少ない中で、それを押し隠し、体内の魔素だけで最後まで責を全うしようとしていたのだ。
ゼルンバスの王は、それでも戦いを強行した。
「それがどうした?
今こそ復讐の時ぞ!
ニウアで生きながら焼き尽くされた10万人の仇、命に替えても取る!
魔術師の体内も含め、この星に有るだけのすべての魔素を使い果たせ。
今叩き落さずして、いつ次の機会があるというのだ!」
「御意!」
すでに、蒼白の顔色になりつつあるフォスティーヌが叫ぶ。
それが、魔法省の長としてのフォスティーヌの覚悟だった。命に替えても、というのは、言葉だけのことではない。
「各王、頼むぞ!
大きいもの、人数が乗っているもの、戦闘力を示すものがあれば、それの多いものから叩け!」
ゼルンバスの王の声が再び響く。
「コリタスの王よりっ!
ゼルンバスの王の言葉には反するが、小さくとも1つ、食料を多く積んだ補給の箱を叩かせろと」
「コリタスの魔素炉に任せる。
よい案だと伝えい!」
補給を叩くのは、戦争の基本である。
ここまで大規模な天の敵が、食料を積んだ補給の箱1つを失ったからといって、即には困るまい。
だが、困らないということすらも、天の敵の実力を知る切っ掛けとなる。
次から敵がどう出るか、見極めができよう。
魔術師たちの、各々の術を使うための詠唱が高く低く響く。
召喚派遣は、
そのキャップの魔素が満足に使えぬ以上、天耳通のリゼットまでもが協力して、今この時、体内の魔素を使って派遣魔法の詠唱をしている。
おそらく、詠唱を行っていない魔術師はフォスティーヌ1人だ。
瀕死の表情のまま、それでもこの惑星の各魔術師の連携を司り、岩の派遣先の位置を他の魔術師に示している。
他国のキャップの状況まではわからないが、天からの大岩が来てから魔素が足りている国などありはしない。
そもそも、貴金属である金を使わねば作れぬキャップである。国力のない国では、元々の数がない。ゼルンバスの王だけでなく、各国の王も手を打ち続けていたが、最初の天からの大岩が落ちてからまだ20日も経っていない中で、成果は微々たるものだ。
「敵編隊、形を崩します!」
「いよいよ、こちらに乗り込むつもりぞ。
今こそ、報いをくれてやるとき。
第一波、派遣!」
「魔素の吸集・反射炉に置かれた岩、派遣しろ!」
「すぐに、次に派遣するの岩を吸集・反射炉に召喚するのだ」
「ですが、もう、魔素が……。
今の派遣で、魔術師の体内分も持っていかれております」
その言葉のとおり、玉座の間にいる魔術師たちの顔色は極めて悪い。
それでも、敵の乗る金属の箱に大岩を撃ち込んだのだ。
「なんとかならんのか!?」
王の問いに、簡易魔素炉に手をおいた魔術師が、言い難そうに答える。
「命に替えても、すでに尽きた魔素は戻らず……」
「ええい、ここまで来て、みすみす……」
ゼルンバスの王が歯ぎしりをし、玉座の肘掛けを鉄槌打ちに殴りつける。
「もう1回、敵を叩こうぞ。
我は行けるぞ」
そう呟くように口にしたフォスティーヌの顔は、玉座の間の床の大理石より白かった。すでに死相である。
その美しかった顔を通して、頭蓋骨が透けて見える。それほどの消耗なのだ。今も術は発動しており、体内の魔素は大量に消費されている。こんな中でさらに魔術を使うのは、自殺行為以外のなにものでもない。
だがフォスティーヌは、連携の術が魔素を多く使うこと、それに気がつけなかった責を一身に受けようとしている。
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あとがき
反撃できるはずだったのに……
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